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うまれでたことばと情景。
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記事一覧

詩  あの子のイヤリング

詩  あの子のイヤリング

さびしいけど、虚しくはない

怒ってるけど、嫌いではない

付き合ってるけど、セックスはしない

死にたいけど、生きたくないわけじゃない

好きだけど、愛していない

ゆらゆら

どっちでもないが

こころのいたるところに散らばっている

そのかけらは

3分ごとに色を変える

世界はたくさんの色で まばゆいている

うさぎとねこは 夜中に集まって

たんぽぽの葉っぱについて

語り合っているのか

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詩 セックス

詩 セックス

わたしはひとりの相手とのセックスしか

しらないの

その相手との時間が

互いにとってしあわせな時間だったかどうかは

ずっとずっとわからない

わたしにとってセックスは

ちょっとキスをして抱き合うぐらいでいいの

この小さいいびつな胸とか

くびれのない腰とか

カタチの悪いお尻とか

いちいち触ってくれなくてもいい

それ以上なにがあるのか

わたしはその先のものがみえないし

イメージも

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詩  ある日

詩  ある日

2024.6.X

フォロワーを増やすより
いいねを何百もらうより

ある人の前で涙し
数秒背中に手を当ててもらう方が
自分のからだを感じることができる

わたしのことばを
馬鹿にしたいひとは馬鹿にすればいいよ

でもそれは
こころの中で言ってね

直接言われなくとも
どこかでこっそり書いていたとしても

それはぐるっとめぐって必ず伝わってくる

ああ
わたしがあなたのことばで傷ついているように

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超短編 7月のレモネード

超短編 7月のレモネード

「わたしね、明日にでもおばあちゃんになりたいの。70代ぐらいのおばあちゃんになって、5年ぐらい生きて死にたいの。」

先月25歳になったばかりの彼女が言う。

ぼくらはベンチに座って、カフェでテイクアウトしたレモネードを飲んでいる。

上にのっかる ペパーミント。

「最近、よく想像するの。わたしが死んだあとの世界のこと。
一応地獄ではないと仮定してね。
うちにもう15さいの猫がいるでしょう?その

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詩 :  : ねむりぐすりのまえ

詩 : : ねむりぐすりのまえ

わたしにはずっとすきな人がいて

その人はわたしのことをすきではなくて

そのことに たまにかなしくなったりするけれど

わたしはそのひとのことを すきなままでいいと思っている

となりに座るはるくんは ゆきえちゃんとすき同士みたいだけど

あまり一緒にいるところをみない

「別々でいるほうが心地いいんだ。」

と彼はいう

でも 彼女のことを いつもどこかで想っているのはわかる

その「おもい」

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詩 :: レコード

詩 :: レコード

平日にぽつんと置かれた祝日

午前中、デパートで買ったケーキみっつを

女は夕方、取り込んだのち

シンクに吐き出す

外はうすぐらい

生きているって、どういうことだっけ

なにかを取り込まないように

力をいれているはずなのに

気づいたら大事ななにかまで流れ出て

いのちが削られているみたい

わたしがまもりたいものは どこにあるのか

唾液と、歯と、脳の感覚を犠牲にしてまで

わたしはどこ

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詩 黒鍵と白鍵の間

詩 黒鍵と白鍵の間

「私、変イ長調の曲がすきなの」

紅茶を蒸らしながら、彼女は言う。

「例えば、チェルニー50番練習曲の45。
あの曲は素晴らしいわ。木漏れ日のようなはかなさと、かなしみがある」

僕は木漏れ日を想像しながら、昨日彼女が作ったりんごのケーキをかじる。

「3連符の粒が、それはトルコのブレスレットのように、糸に絡まって、目の前を通り過ぎる。そして私を撫でてくれるの。」

僕はポットの内側につく、水の

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詩  ::  Sonata For Piano No.30

詩 :: Sonata For Piano No.30

墨汁をまぜ込んだような

暗闇の息吹を

肺のおくまですい込む

そこにあるのは

闇と  静寂と

ほんの少しの ともしび  だけで

わたしはもう

いやらしい笑みの仮面はかぶらず

なにもしなくたって

うるさい小人はもうねてしまっている

おだやかに人見知りをしているような空気に

ベートーヴェンピアノソナタ30番が流れる

一楽章 Vivace, ma non troppo

その16分

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詩  ::  迷彩

詩 :: 迷彩

この床の上で呼吸をし
10本の指で立っているが
わたしはこのほしの住民ではない

うまれたほしは どこか
地球のななめ横あたりにあって

なんらかの手ちがいで
この床のうえで 呼吸をしているのだ

このほしにたたずむときの
からだがこわばるようないわかんは
そのためであって

このほしのしくみや
せいたいのルールに
血液が反発するような感覚は

わたしのニューロンのせいではない

まいにちまいにち

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詩 :: the dark

PM11:00の空気を 今日も吸い込む

「あなたのことがとても憎い。
けれどどうしようもなく、愛しているの。」

闇がだれかとはなしている

脳に浸透してくる さざめき

最初にこの感情を抱くのは

たぶん父と母に対してで

樹木のように そこから枝と葉が

不器用に伸びていく

リビングに無造作に置かれた

デパートでもらってきたムエットが

星のさえずりのように かおっている

時間の経った

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散文 話し相手は自分

イベントごとは、幼稚園に通い始めたら殊更きらいになった

いつもとちがう空気
いつもとちがう食事
いつもとちがう空気に高揚する人々

なぜそんなことをしないといけないのか
なぜお誕生日会にいす取りゲームをしないといけないのか
なぜ好きでもないクラスメイトのために
好きでもないお菓子を食べないといけないのか

4歳ごろから想い抱いていた疑問符と、わだかまりが
27歳になってその姿がようやくみえて

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詩 地獄

詩 地獄

いいかい

堕ちてはならないよ

あの残酷な

赤 茶 黒 紫を どろどろに溶かしたような

生臭い沼の中に

この世界の大半のひとびとは

残念ながらその沼に堕ちてしまった

それはとても

嘆かわしいことだ

彼らは大抵 ひとりぼっちで

身近なものへの

執着や憎しみと

ほんとうの

己の魂の声を

聴けずに終わってしまったひとびとだ

耳をすまそうとせず

仮面を被り

泥の投げ合いを

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