コノハナサクヤ 十
もう。思い出せないよ。
九州ラーメンの上の何階かも。本当は名前も。
君は、仕事中でスマホを気にしている様なしてない様な素振りで、いつもの様にジャージに穴の空いたスニーカーで、ところどころで陸上選手の様なフォームを取りながらも、話をして花園神社へと向かう。
今となっては分かる様な知識も全てが新鮮で、もっと聞きたくなって。
コノハナサクヤ姫って?
知ってるけど知らない。
スサノオやキクリヒメより強くないんでしょう?
でも君の産土神様なんだよね。
きっと美しい神様。
儚い神様…
どうして、今時そんなに髪をのばしてるの。
どうしてそんな仕事して
どうして九ラーの上に住むの。
聞いた様な。ちゃんとは聞いてない様な。
「毎朝来てるよ。今の氏神様は鬼王稲荷神社だけど」
一緒に鳥居を沢山くぐって、上の男性をモチーフにした造形物のうんちくまで語ってくれて、それをぽんぽんっと叩く。日本人的なマジな顔して、大事な神様だって、歴史を語るー。何度も来たけど、そこには今まで一度も気がつかなかった造形物があり、歌舞伎町の歌舞伎町たる所以を物語っていました。
浅間のところは私だけ手を合わせて。
君はお稲荷さんだけ祈るお稲荷さんマニアみたいでした。
その時はもうすぐ春で、
ちょっぴり風が強め。今日ほど寒いわけでもなく。
「家系調べるのもいいけど、神社ツアーコンダクターでもしたら?似合うよ」
「いいね」
「桜見に行きたぁい」
「綺麗だよね。ずっと見てられる。」
風が吹く。
二人の間にだけ吹いてるみたいに。
桜の木に手を当てて、今までお稲荷さんの話にしか興味のなかったひとが真剣な表情をしている。
「綺麗なとこあってさ。仕事休みできたら行きたいな。また、一人でゆっくり行けたらいいんだけどねぇ。」
「…。」
木。
桜の木。
色々曖昧だし、そのひとをどうもなかったけれど、その感情だけは、春の少し前の夜の出来事として今でも覚えています。
わたしは生まれて初めて桜の木に嫉妬をしました。
読んでくださりありがとうございます ♡ ゆかこ💌🖋🧸