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三年目

33
2021年の詩まとめ
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#詩

すこし足りない、

すこし足りない、

電子レンジで温めなかった惣菜のからあげ
気の抜けた三ツ矢サイダー
削ってすぐに折れた2Bの鉛筆
あと一歩のところで点滅する信号
TLが更新されない平日昼間のTwitter
ピントが合っていなかった夕日の写真
冷たくなっていく理科室の机
夕日がなめらかに滲む黒板
日誌に記される誰かの今日
グランドからきこえる野球部の掛け声
リズムよく響く卓球のラリー
職員室から溢れる珈琲の香り
下駄箱にきれいに揃え

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ゆるやかに

ゆるやかに

からっぽになったときほど涙が溢れるのはどうして
視界がゆるやかに滲んで世界を曖昧にする
からっぽのわたしたちに丁度いい世界
風で乱れた前髪の隙間から見る夕陽の美しさはいつまでもわたしだけのもの
君の感情を知らない昨日までがとても心地よかったんです
知ってしまったら戻れないから
嫌いなものも好きなものも、知ってるだけでいいの
理解しなくていいのに、理解することが君のためとか言ってくるあなた
嫌いだよ

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裏庭

裏庭

理科室の窓から覗く裏庭
園芸部の育てている夏野菜の小さな畑
不格好でもおいしい
未熟でなにも知らなくても許されるわたしたち
如雨露で恵みの雨を
束の間の魔法使いごっこ
ホースの先をぎゅっと握って遠くに水撒き
用務員のおじさんは
いつでもいるのにいつもいなくて
きょうも落ち葉がまとめられている花壇の隅に
アルコールランプの炎はいつも妖しい
蓋を被せて消すとき

息をとめた

normal

normal

「普通」を
素晴らしく尊く感謝すべきだと云う全てが尊い病の人間が苦手だ

普通を特別だと思った瞬間に
それは「特別」になっていた

普通は意識しない存在であればいい
平等に訪れるそれらを特別視する必要を感じない

呼吸
食事
朝の目覚め
夜の眠り
あなたの存在
世界の存在
感情を
尊いものだと神格化する

神様は存在しないから普通じゃない

普通は他人に認めさせることではなくて
今日も明日も明後日

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放課後の音楽室
試験期間で部活動は停止中
文化部なのに体育会系面する吹奏楽部のマウントが苦手です
合唱祭の伴奏はみんながちやほやしてきてピアノが嫌いになりかけたよ
ピアノの鍵盤にそっと ひとさしゆびを
わたしだけがまあるい音に包まれて世界にひとりぼっち
空気が震えてわたしも呼吸して
このままこの音と一緒に窓から流れて消えてしまいたかった
言葉よりも音は自由で不完全で美しいから
島村楽器に寄り道して

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「   」

「 」

美術館の企画展示室
いちばん広い展示室の中央に置かれているベンチに腰掛けて
目の前の作品だけを静かに見つめる時間
あの時間をつくれるひとが羨ましかった
そのうち作品を見ているのは瞳だけで
きっと今晩の夕食の献立なんかを考えていたり
玄関に飾る植物を選んでいたりする
ゆるやかに現実が混じっている
いつも埋まっているベンチはおとなだけの特権で
あとすこし詰めてくれたらひとり座れる微妙な空白は
おとなた

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summer

summer

校舎裏のプール
夏限定で僕たちの学校生活の一部となる
去年の一年生が育てた朝顔が
今年はプールのフェンスに絡まって
植物係だけが青い花を見ていた朝
直射日光に焦げるプールサイドを
ともだちの肩つかみながら走らないように
心だけ走って
塩素のにおいと泳げない僕の
夏の記憶のにおい

ふとん

ふとん

こどもの頃、掛け布団から足先がはみでていると
おばけやなんだか怖いものに引っ張られるって
根拠もない恐怖に怯えていた
暗闇に紛れてやってくるそれらに恐怖して
夜が怖かった
暗いことが怖かった
純粋な恐怖はいつのまにか居なくなって
夜に
暗闇に
安心しているおとなのわたしたち

当たり

当たり

アイスの当たり棒がでた
こどもの頃はいくら願っても当たらなかったのに
興味が薄れた頃にやってくるなんて意地悪ね
もうすこし暑ければ午後のおやつに引き換えてしまいたかったけれど
君との約束がなくなってしまったついでに買っただけだから
ほんとうは当たりなんてほしくなかったよ
神様が味方してくれないのはいつものことなのにね
遠くで蜩が鳴いてる
すべて汗になって流れたわたしのなかの水分は涙になれなかった

end

あと13時間で世界が終わります

なんとなくチャンネルをあわせたワイドショー
すごく派手なワンピースを着た女子アナが真剣な表情で原稿を読み上げてる

翌日でも1週間後でもなくて
13時間後がいいの

すこし焦って開き直って
君と目が合う回数がいつもより増えて
昨日と同じかすこしだけ背伸びした生活をして

おやすみなさいって明日を生きる魔法を唱えて
叶わないことに愛しさを感じて
終わりたいね

××

××

愛されなかった幼少期
同級生からのいじめを制服と大人から隠していた十代
うっかり魔が差したリストカットぽたぽた垂れる真っ赤な血液に興奮と安心感
恋した相手はとんでもない甲斐性なしで捨てられたのは自分で
そんなわかりやすい壮絶な過去がひとつでもあるとわかりやすく周りが食い付いてくるね
オマケでいまの自分は幸せですって顔してさ
悲劇って美談にしやすいでしょ
そういう人間って違う世界のいきものみたいで

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PM4:15

PM4:15

下駄箱からスニーカーがなくなった放課後
廊下の蛍光灯がつく前の夕方未満の校内
踊り場にたまる影はどこまでも深い闇で
職員室からおとなとこどもの境界線をつくる珈琲の香り
音楽室の窓から吹奏楽部の未完成な曲が校庭にゆるやかに響く
校舎と体育館を繋ぐ廊下を脱線して、上履きのまま裏庭にでる
生活の時間に植えた朝顔が眠っていた

世界未満

君がいない世界
卵焼きに殻が混じっても気にしなくなって
ミリ単位で前髪を整えることをやめて
階段から遠い6号車に乗らなくなって
バスから外の景色を眺めなくなって
旧校舎の自販機のカフェオレは売り切れることなく
お弁当の卵焼きはぜんぶわたしが食べる
放課後の図書室は素通りして
コンビニの新作スイーツは試さなくなって
ノートに落書きされることなくテスト勉強して
明日の天気予報を今日のうちにチェックする

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銀色のボウルで卵をとく
朝日がボウルに反射して、黄金色のいきもの未満を丁寧に菜箸でほぐして
夢の淵にひっかかったままの心もこちらがわに連れ戻す
白いお砂糖の依存性は麻薬と似ているんだって
スイパラでこっそり君は教えてくれたね
それでもわたしたちは逮捕されない
女の子はお砂糖とスパイスの配分がたいせつです
甘く薄く焼いた卵焼きをくるくると
からだとこころのシンクロを確かめるように
菜箸はいつまでたっ

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