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すーこ小説まとめ

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私の書いた小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
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2024年8月の記事一覧

望月見守る結婚式

望月見守る結婚式

目次

 今朝の月は満月、望月だ。晴れの日にふさわしいまんまるの月が、まだ薄暗いなかに金色に光っている。朝から生暖かい二階のベランダで一人、空と藤の木を見上げながら昨夜のことを思い返していた。

 昨夜、葵がうちに来て、先月末ぶりに一緒に夜ごはんを食べた。きらりちゃんもご実家に帰っていた。そう、二人の結婚前夜だった。前回結構夜深くまで話したから、近況報告もそこそこに、早くお風呂を済ませるように促し

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桃犬猿岸一揆計画

桃犬猿岸一揆計画

 ピンポーン。ずいぶん遅い時間に誰だろう。
「はーい」
「桃川運送です」
 いつもうちに配達に来てくれている桃ちゃんだ。桃川運送の桃川さん。先代のときから、うちの親もお世話になっていた。もし子どもがいたら娘くらいの年齢なので、桃ちゃんと勝手に呼んでいる。
「いつもありがとう! どうぞー」
 インターフォン越しに言って、マンションのオートロックを解除する。最近何頼んだっけな、こんな遅くまで大変だ、な

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めーやんはねむらない①

めーやんはねむらない①


①めーやんとオムライス 未月さんちには、4さいになる女の子がいます。名前は芽衣ちゃん。あだなはめーやん。めーやんは、おかあさんの翔子さんとふたりぐらしをしています。
 めーやんは保育園に通っています。今日も元気いっぱい遊びまわって、おかあさんを待っていました。

 お空がみかん色からぶどう色になった頃、おかあさんがおむかえに来てくれました。おかあさんは、せんせいにあいさつをして、めーやんのところ

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花火のようなあの夏の夜

花火のようなあの夏の夜

 花火と手だけが写った写真。でも、手に取るように覚えている。これは、あのときあの子と一緒に手持ち花火をしたときのだ。卒業アルバムに挟まれたその写真を見ながら、まだ成人前のひと夏の夜を思い返す。

 もう十二年前になる。高校三年生だった。
 あの日、突然誘われた。
「うちと花火しようえ」
 話したこともない僕にかけられた言葉。なんで、僕?
「え、なんで僕なん? あ、いや、お誘いありがとう。うれしいけ

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昨日の3篇目がしっくりきていなかったのでリメイク。これを思いついていたら3部作としてもう少し趣があったかも?54字の物語のように、既存ジャンルのなかで切り口を変えて新たなジャンルを生み出す方ってすごい。
櫟さんありがとうございました!
https://note.com/piapiapia/n/nb0d6c386505c

54字の怪談3篇

54字の怪談3篇

3部作「じっと」「やっと」「きっと」

▼「きっと」リメイク

一時期はまっていた「54字の物語」。その54字で怪談を創るという、櫟 茉莉花さんの「54字の怪談」企画に参加させていただきます。
怪談は普段書かないので、怪談になっているか心配ですが……。
「わたし」がどうなったのか、ご自由に想像していただけましたら幸いです。
久しぶりに54字の物語で遊び、怪談に挑戦し、楽しかったです。
楽しい企画を

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誘拐事件と夏の空

誘拐事件と夏の空


夏の雲が湧く(事件編)

 姪を病院に連れて行った待合室で、姪のポケットのなかから折り畳まれた紙を見つけた。これはあいつの筆跡だ。手帳から引きちぎって書き付けただろうこれは、あいつなりの暗号なんだろう。
 病院に迎えに来た姉夫婦に姪を託し、真っ直ぐ帰るよう告げた。既に信頼のおける護衛はつけてある。彼女たちと別れ、頭のなかで、さっきの文の解読を進める。角を曲がった後、俺は振り向いた。
「いい加減、

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窓に映る風鈴と妻の顔

窓に映る風鈴と妻の顔

 風鈴とともに掃き出し窓に映る妻の顔は、曇り空のせいか暗い。部屋着のゆるっとしたワンピースを身にまとう彼女。そのグレーのワンピース姿は、窓の向こうの空と同化して見え、少し不安になる。麦茶の入ったグラスを片手に、下を向いている。何を見ているのだろう。

「ゆうさん、何見てるの?」
 彼女は窓から目を離さずに言う。
「通行人」
 通行人、かあ。
「トンボ、とかじゃないんだ」
「トンボはもっと高いところ

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