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本格ミステリ大賞受賞作品「虚構推理」

アニメ「薬屋のひとりごと」は最近お気に入りのひとつなんだけど、今年はこれ以外にあとふたつ、推理小説を原作としたお気に入りのアニメがあったんだ。
それが、「アンデッドガールマーダーファルス」と「虚構推理season2」である。
どちらも本格推理作家の原作なんだが、なぜか両作品とも妖怪とか怪物とか出てきちゃうという点は共通している。
しかし後者の「虚構推理」は、第12回本格ミステリ大賞を受賞してるらしいね。
じゃ今回は、この作品について少し語ってみたいと思う。

「虚構推理」はコミック化もされている

この「虚構推理」の主人公は岩永琴子という十代の女子で、実は彼女、子供の頃に神隠しに遭ったという過去があり、それ以降怪異たちから「知恵の神」と崇拝されるようになった人物。
その神隠しの間に片足と片目を失ってるんだが(現在は義足と義眼)、結構かわいらしい女子である。
片足と片目を供物にして成った「知恵の神」だけに、彼女には人間離れした知能があり、その卓越した頭脳で怪異関連のトラブルを解決していくという物語なんだ。
彼女の相棒(彼氏?)の桜川九郎というのがまた凄い人であり、能力は不老不死、さらに未来予知までできるというチートである。
ある意味、最強のコンビさ。
原作者の城平京は「絶園のテンペスト」の原作もやってたらしく、こういう荒唐無稽な設定が好きなんだろう。

今なおカルト的人気を誇る名作「絶園のテンペスト」

私が「虚構推理」で好きなのは、やはり2020年に放送した「鋼人七瀬」のエピソードである。
普通、怪異というのは古い伝承をもとにした霊体のようなものだと思うが、鋼人七瀬はそうのではなく、ネット上の噂によって多くの人たちの想像力が集約され、その思念が実体化したという都市伝説型のモンスターである。
昔でいう「口裂け女」や「トイレの花子さん」、あるいは「ひきこさん」や「キサラギ駅」に近いイメージだろうか。
そんなものは実在しないものの、なぜか「見た」という目撃情報が絶えないのもまた事実。
もちろん、その目撃情報は虚偽さ。
頭の悪い奴が面白がって流しただけの、タチの悪いデマだろう。
だけど、そのての匿名情報は虚偽であることの裏をとれない以上、どうしても一定数の人間は信じてしまうものである。
それが10人のうち僅かに1人だったとしても、全国では何百万という人がそれを信じたことになる。
そうやって全国に何百万人もの信徒をもつ怪異って、もはや神様レベルじゃないか?
いや、日本では神様の実在を信じてない人が大多数なんだから(たとえば、アマテラスの実在を信じてる人っていないでしょ?)、信心深さでいうなら【神様<怪異】といってもいいくらいさ。
ある意味、都市伝説は日本で最強クラスの宗教といえよう。
こういうのはUFOや幽霊と同じで、信じる人がいると写真や映像が出てきて実体化するものである。

キサラギ駅の伝説はネットの書き込みから始まった

「存在を信じれば、それは実体化する」というネタを扱う作品は近年増えている。
たとえば「RE:CREATORS」とかそうだし、「マギアレコード」もそうだね。
そもそも神様を扱った作品では、今年なら「神無き世界のカミサマ活動」、ちょっと前なら「ノラガミ」や「かんなぎ」など、どれも信者の数が神様のパワーに反映されるという設定は共通していた。
こういうのはキリスト教のような一神教は別として、日本の「やおよろずの神」ではパイの食い合いになり、個々の神様はどこも大した信者数じゃないんだよね。
つまり、日本は神様が実体化しにくい国だということ。
そのくせ、日本人ってスピリチュアル大好きでしょ?
みんな占いとか大好きだし、パワースポット巡りも大好き。
神様は信じないけど、スピリチュアルは信じる。
こういうチグハグな矛盾こそが、日本では都市伝説型怪異という疑似神様を生むんだろうよ。

日本の怪異は江戸以前の古いものばかり有名だが、現代にだって新たに発生するはずだよね?

で、「虚構推理」の「鋼人七瀬」は、ある人物が実験的にネットで仕掛けた嘘っぱちの都市伝説なんだけど、信憑性に足るソースを次々に投下していくとネット民は七瀬の実在を信用するようなり、ウソから出たマコト、最終的に七瀬は多くのネット民の信心によって実体化しちゃうわけよ。
で、現実の被害も出始めて、ますます信心を得て七瀬はさらにパワーアップし、手をつけられない存在になっていく。
それを封じようとする琴子と九郎vs七瀬の闘いを描いたのが「虚構推理」のseason1だったんだが、それは物理的バトルでなく、ネット上の世論主導権争いというバトル形式だった。
琴子の巧みな誘導によってネット民が「七瀬という怪異なんて実在しない」とネット上で結論付けると、現実世界で暴れていた七瀬は消えた。

人を襲う怪異・鋼人七瀬

そう、ネットって怖いんだよね。
思えば「都市伝説」なんてフレーズが出てきたのも、インターネットが普及してからのことじゃないだろうか。
逆にいえば、ネットのない時代に岐阜のローカルな不審者目撃情報「口裂け女」が、なぜあれほど急速に全国規模で広まったのか不思議である。
私は情報が受肉して、実体化したんじゃないか?とさえ思ってるよ。
「口裂け女はいる」という強い思い込みは、時にUFOや幽霊のように実体を生んでしまう。
あの時代でさえそうだったんだから、高度ネット社会となった現代はさらに情報が受肉し、人ならざる者を生み出しやすい環境だろう。
ちなみに日本は、毎年約8万人の行方不明者が出る国である。
本来いるはずの者がそれだけの規模でいないんだし、本来いないはずの者が同じ規模でいても何ら不思議じゃないよね。

「虚構推理」season2 雪女編はめっちゃよかったなぁ

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