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宮崎駿&庵野秀明、2人が共通して崇拝する作家を知ってますか?

今回は、諸星大二郎原作のアニメ「暗黒神話」を取り上げてみようと思う。
まず「暗黒神話」はもとより、諸星大二郎という漫画家自体知らん人もいると思うので、まずはそこからかな?
でも、めっちゃ凄い漫画家さんなんですよ。

・手塚治虫文化賞漫画大賞受賞
・日本漫画家協会賞コミック部門大賞受賞
・芸術選奨文部科学大臣賞受賞
・文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞etc

これだけ表彰されつつも、いまいちメジャーになりきれてない先生である。
多分、漫画の発行部数もさほど伸びていないだろう。
いわゆるクロウト受けするタイプというか、一般的にでなく業界内での人気が高い人である。
たとえば、宮崎駿は諸星ファンを公言しており、「もののけ姫」のシシ神、「千と千尋の神隠し」のカオナシなどは諸星作品の影響が指摘されている。
全般的に、「もののけ姫」は諸星オマージュ全開といったところ。

諸星作品と宮崎作品は、様々な類似性がある

また、庵野秀明も諸星ファンであって、「エヴァンゲリオン」が諸星作品をヒントにしてるというのは事実のようだ。

庵野秀明に影響を与えたとされる諸星作品

昔彼が「ナウシカ」で巨神兵を描いてた頃、参考資料(?)として諸星先生の漫画を何冊かスタジオに持ち込んでたらしいんだが、それを見つけた宮崎さんが諸星大二郎論を熱っぽく始めたという逸話がある。
また、そういう逸話を聞きつけた出版関係者が宮崎さんに諸星先生ムック本の取材協力を申し込んだところ、ちょうど「もののけ姫」制作で忙殺されてた巨匠に「今忙しいから、とりあえずスタジオまで来てくれ」と言われて、行ったら結局、宮崎さんに延々と2時間諸星大二郎論を聞かされたという。
あと、高橋留美子先生も諸星先生の熱烈ファンらしく、「うる星やつら」の主人公・諸星あたるの「諸星」は、諸星先生からとってきてるらしい。
高橋先生の「犬夜叉」「人魚の森」などのホラー路線は、どうやら諸星作品のオマージュみたいだね。

高橋留美子OVA「人魚の森」(1991年)
諸星先生のデビュー50周年記念本には、業界内から多数のトリビュート作品が寄せられたようだ

まぁ、一種のカルト作家といっていいだろう。
だけど、シロウトの我々が「諸星大二郎の漫画、大好き」とはあまり公共の場で言わない方がいいような気もする。
そんなこと言えば、周囲から「変人」「暗い」「電波」など、ネガティブに捉えられないとも限らんし。
だから、見るにしてもこっそり覗く程度にとどめておくべきで、かくいう私も諸星ファンを公言したことは生涯一度もない。
だから今回ご紹介するアニメも、絶対に伴侶、肉親、友人等に勘付かれない範囲でご視聴下さい。

「暗黒神話」作・諸星大二郎

さて、今回取り上げたいのは「暗黒神話」だ。
これは1976年に発刊された諸星先生の代表作のひとつで、おそらく私の知る限りでは、先生の作品群の中で唯一アニメ化されたものだろう
1990年にOVAとして出ている。
「入手困難では?」という心配はご無用。
普通に、YouTubeで「暗黒神話」と検索すれば、「餓鬼の章」「天の章」という2本の無料動画がヒットするはず。
諸星先生のアニメは、それで全部なんだよ。
あくまでもマイナー扱いか・・。
いや、実写版ではテレビドラマ「世にも奇妙な物語」をはじめ幾つか映像化されてるんだが、そっちの方がむしろ入手困難だろう。
私は映画「ヒルコ/妖怪ハンター」というのを見たけど、あの鬼才・塚本晋也監督の腕をもってしてもショボい映像でしかなかったので、あるいはアニメ「暗黒神話」が唯一マトモな映像作品じゃないだろうか?

「ヒルコ/妖怪ハンター」(1991年)監督・塚本晋也

まず最初に、ひとつ言っておこう。

私は今まで、「暗黒神話」ほど見る者の知性が試されるアニメを見たことがない。


仮に「暗黒神話」を見終えて「・・はぁ?」となっても、それは極めて健全なリアクションです。
私だって、そうなったし。
というか、諸星先生の知識量の方が異常なのよ。
歴史学的知識、宗教学的知識、考古学的知識、民俗学的知識、とにかく自分の頭の中にあるストックをフル稼働でこれに臨まないと、ただひたすら圧倒されるばかりである。
それでも、「これ何かスゴイ・・」ということだけは伝わると思うけど。
そう、これは一見ホラーに見えてそうではなく、壮大なる歴史ミステリーである。
ついでにいうと、これはあの週刊少年ジャンプに連載されてたものです。
友情・努力・勝利の要素は、微塵もありませんけど・・。

「暗黒神話」のワンシーン

これ、90年制作アニメにしては、めっちゃ作画がいいでしょ?
うん、かなり原作を忠実に再現してるみたいで、なかなかのクオリティである。
まず最初に、この作品最大のテーマが
古事記や日本書紀に出てくる、スサノオとは一体何者なのか?
だということをご理解いただきたい。

【三神】
・アマテラス⇒太陽
・ツクヨミ⇒月
・スサノオ⇒??

記紀には、スサノオは天界(高天原)で狼藉をはたらき、下界(葦原中国)に追放された、とある。
その狼藉の影響が「アマテラス岩戸隠れ」のくだりで、おそらくこれは何かのメタファーだろう。
一般的に岩戸隠れ=日食という見方が多いんだが、もしそうだとして、その日食の原因となったスサノオとは一体何?
少なくとも先生は、古代史ファンの間に根強くある有力説、
アマテラス=卑弥呼
スサノオ=卑弥呼の弟

というような、人物という形では捉えてない様子。
アマテラスが太陽であるならば、スサノオもまた天体現象でしょ、と。
そこから、太陽を隠すほどの「暗黒星雲」のことなんじゃないか、と作中で結論付けるのね。

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、オリオン座馬頭星雲(実物)

まぁ、そこまではいいとして、この「オリオン座馬頭星雲」が「馬頭観音」経由で仏教(密教)の教えとリンクしていき、やがてヒンドゥーの教義、「ブラフマン」という概念にまで到達するんだわ。

作中に出てきた馬頭観音(実物)

この馬頭観音の「3つの顔」はオリオンの三ツ星を表してて、「8つの腕」はオリオン座そのものを表す、と解釈する。

オリオン座

さらにこのオリオン座の話は続き、ヤマトタケルの遠征の道程がオリオン座を表してるという解釈で、

馬頭観音=ブラフマン=スサノオ
ヤマトタケル=アートマン(ブラフマンと対になる存在)


というロジックにまで発展しちゃうのよ。
思えば、スサノオはヤマタノオロチから神器・草薙剣を取り出した人であり、ヤマトタケルはその剣を受け取り、初めて使った人だっけ。

この【ブラフマン⇔アートマン】というのがワケ分からんと思うが、ええ、私だって何が何だかサッパリ分かりません(笑)。

そもそも、たかがアニメ見てるだけで、何でまたこんなにも頭を使わなきゃならんのだよ、ちっくしょ~(泣)。
自慢じゃないけど、私は学生時代、勉強がそれほどできない子でしたよ。
そんな頭のよくない私が、めっちゃシンプルに解釈すると

・ブラフマン⇒宇宙原理
・アートマン⇒自我

ということでOK?
で、人類の中でアートマンという存在だけが唯一、ブラフマンとの意思疎通をできるという。
つまり、そのアートマン次第でブラフマンが地球に降臨、かつてのスサノオ現象が再現されちゃうかもということで、すると人類はどうなるの?という話さ。
「暗黒神話」いわく、かつて3世紀に邪馬台国が滅んだのはスサノオの所業である、と。

・・で、もうお気づきだと思うけど、こういう諸星ワールドって、まんま「エヴァンゲリオン」的世界観なんだよね。
この「暗黒神話」で描かれてることも、めっちゃシンプルにいうと、ヤマトタケルの生まれ変わり(アートマン=「エヴァ」でいうシンジ?)が現代に誕生したことで、彼に

「人類補完計画(サードインパクト)とか、やっちゃう?やめとく?」


とブラフマンが尋ねてきました、というのが大まかなプロットである。

「エヴァ」サードインパクトの元ネタとされる諸星作品

そして庵野さんだけじゃなく、宮崎駿も思いっきり自作品で諸星オマージュをカマしてるわけで、それが「風の谷のナウシカ」だね。
・・あ、映画の方じゃないよ。
映画化されてない、原作漫画の後半の方さ。

諸星先生のデビュー作
「風の谷のナウシカ」原作の終盤

見ての通り、「ナウシカ」は映画の雰囲気から一転、原作は後半へいくごとに諸星色がだんだん強くなっていくんだ。
だからこそ、「諸星大二郎先生大好き」の庵野さんが

「俺に『ナウシカ2』をやらせてください!」


と直訴したわけね。
噂によると、ずっと巨匠は断ってたのに、遂に折れたらしいじゃん?
・・う~ん、押井守の「GARM WARS」がほぼ「ナウシカ2」といって過言じゃない内容だったし、あれを見たことで、宮崎さんも思うところがあったのかもしれん。

「GARAM WARS」(2016年)

まぁとにかく、諸星作品の真髄は漫画を見ていただくとして、まずはお気軽に見られるアニメ「暗黒神話」をお試しください。
トータルで100分程度の短いものだし、音楽が川井憲次(『攻殻』の人)だし、なかなかのクオリティなのでお薦めです。
まぁ、全てを理解するのは難しいだろうが、大丈夫、あんなのを理解できる方がちょっと頭おかしいですよ。
・・あ、くれぐれも諸星作品を見てるところ、誰かに見られたりとかしないようにね。
ヘタに見られると、きっと妙な誤解をされると思うから・・。


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