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親魏倭王の仕事と経験

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私の仕事から生まれた記事をピックアップ。
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記事一覧

文化財保護業務の実態

文化財保護業務の実態

地方自治体における文化財保護業務の実態というのは、学生にはほとんど知られていない気がする。地方自治体勤務ということは公務員でもあり、文化財保護業務以外の業務も多々絡んでくるが、本業となる文化財保護業務に絞っても、その少なくとも八割くらいは事務仕事である。日々発掘調査や整理作業に従事できるのは外郭団体(埋蔵文化財調査事業団など)勤務の場合だけだったりする(それでも事務仕事はつきまとう)。

地方自治

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発掘調査について知ってもらいたいこと

発掘調査について知ってもらいたいこと

埋蔵文化財発掘の手続きを整理しておこう。
まず、開発(宅地造成、住宅等建設など)の際、当該地が周知の埋蔵文化財包蔵地(=遺跡)の範囲内であれば、文化財保護法第93条に基づき『埋蔵文化財発掘の届出』を市町村の文化財担当部署(多くは教育委員会事務局内)に提出する必要がある。盛土など、地中の掘削を伴わない場合は届出不要の場合もあるが、事前に文化財担当部署と協議するのが望ましい。
提出された埋蔵文化財発掘

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出土遺物と不時発見遺物について

出土遺物と不時発見遺物について

発掘調査で出土した土器などを遺物というが、これはどうなるのだろうか。
まず、これらは遺失物扱いとなり、所轄警察署へ届け出る必要がある。その間、遺物は発掘調査主体(市区町村が実施した場合は市区町村)が保管する。その後、都道府県や政令指定都市などの教育委員会との協議で当該遺失物が文化財と認められると、それらの遺物は所有者が判明しないばあいは都道府県に帰属するが、引き続き発掘調査主体で保管されることが多

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遺跡動態の捉え方

遺跡動態の捉え方

自治体史などでは特定の市区町村の歴史を記述する関係上、遺跡の動向をその自治体内で完結させている場合も多い。しかし、郡単位や水系で遺跡の動向を捉えないと遺跡の集中する地域が自治体内で極端に離れている場合など、説明しづらい場合がある。以下、思うところを書いてみる。
市町村史編纂の過程で、遺跡分布から先史〜古代の状況を語ることは多いと思う。ただ、市町村史は各市町村の歴史を現在の行政区画に沿ってまとめるの

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文化財保護部局はどこへ行くべきか

文化財保護部局はどこへ行くべきか

平成31年の文化財保護法改正で、文化財保護部局が従来の教育委員会から首長部局への事務移管が可能になった。これは、文化庁が文化財の取り扱いについて、従来の保護一辺倒から保護+活用にかじを切ったことと連動する。地域の文化財を観光資源として有益に活用できるように、というのが含みとしてあるものと思う。
従来、文化財保護部局が教育委員会の所管だったのは、文化財保護が生涯学習の一貫と位置づけられていたところが

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博物館について考える

博物館について考える

博物館と美術館はどちらも同じ「ミュージアム」だが、役割は微妙に違っていて、美術館は展覧施設、博物館は教育施設の側面が強い。それは施設の造りにも現れていて、美術館が外観も含めて「おしゃれ」なのに対し、博物館はいかにも「ハコモノ」的外観で素っ気ない。博物館が扱うものは基本的に「資料」であり、端的に言えば「学習教材」である。そのため、同じもの、例えば屏風や掛け軸などでも、美術館と博物館で扱いが違う。簡単

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地方自治体立博物館の実態

地方自治体立博物館の実態

私の現在の勤務先は(休職中だが)博物館である。今回は、地方自治体立博物館の現状を、勤務先の実態を基に書いてみる。全国の地方自治体立博物館が同じではないだろうが、SNSでやり取りしていると、似た問題を抱える博物館は多いようだ。
地方自治体立博物館の多くは昭和後期に建てられていて、設備の大規模改修が必要な時期に差し掛かっている。私の勤務館も例外ではなかったが、昨今の財政難のなせる業か、なかなか設備改修

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展示について

展示について

博物館で実際に展示替えなどを担当する中で、意識するようになったのが「余白」である。
今まで、数多くの博物館や美術館に行ったが、心地よく見られる展示は「余白」が多い。展示室にものを入れすぎると、圧迫感が出る。ヨーロッパの古い美術館(ルーブル美術館、エルミタージュ美術館など)は宮殿をそのまま使っているためか、壁一面に絵画を飾っていて、迫力に圧倒されるが、一点一点くまなく見ているとかなりの疲労感をもよお

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文化芸術を取り巻く環境の実態

文化芸術を取り巻く環境の実態

しばらく前に、大阪府が美術品を地下駐車場で保管していたというニュースを見て、腰を抜かした。いくつかの新聞記事を渉猟したところ、大阪府立美術館設置の構想があったが、バブル崩壊に前後して頓挫。コレクションのうち大型の彫刻作品の保管場所がなく、地下駐車場に置いていたという。ちなみに、現在、大阪府に現代美術専門の学芸員はいない。
中には梱包もされずビニールシートを被せただけのものもあったといい、美術品に対

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「残念石」から考える「文化財とは何か」

「残念石」から考える「文化財とは何か」

先月、耳を疑うようなニュースが飛び込んできた。木津川市にある大坂城築城時の残石、通称「残念石」を大阪万博会場のトイレを含む休憩施設の建材に使おうというのだ。主催者側の説明では石そのものに手は加えないとしているが、千田嘉博先生をはじめとする考古学者や私を含む考古学専攻の学芸員からは反発が相次いだ。文化財は現状変更に制約があり、それを毀損すると文化財としての価値が失われてしまうからだ。今回の残念石の一

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文化財保護と開発のリアル(北九州市の事例から)

文化財保護と開発のリアル(北九州市の事例から)

今、北九州市が荒れている。理由は、市施設建設に先立つ発掘調査で、旧門司駅の遺構が検出されたこと。今回見つかったのは機関車庫と見られ、九州鉄道史上の重要発見として専門家も高く評価している。

ところが、専門家から遺構保存の声が上がる中、北九州市は遺構保存にいまいち乗り気ではないように見える。この案件、最初から「一部を移築保存」という方針で、北九州市の姿勢に終始疑問符がつく(開発と遺構保存の両立を検討

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