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文化財保護業務の実態

地方自治体における文化財保護業務の実態というのは、学生にはほとんど知られていない気がする。地方自治体勤務ということは公務員でもあり、文化財保護業務以外の業務も多々絡んでくるが、本業となる文化財保護業務に絞っても、その少なくとも八割くらいは事務仕事である。日々発掘調査や整理作業に従事できるのは外郭団体(埋蔵文化財調査事業団など)勤務の場合だけだったりする(それでも事務仕事はつきまとう)。

発掘調査は数ある業務の中の一つに過ぎない

地方自治体における文化財保護業務の実態は、大学での考古学・文化財学の講義で取り上げられることがなく、自治体が就活生向けのセミナーなどを開くことが少ない現状では、ほぼ知り得ようがない。時々、短期間で離職する人がいるが、自分が思い描いていた姿と実際の職務との乖離も影響しているかもしれない。
私が経験した範囲であるが、地方自治体での文化財保護業務には次のようなものがある。
①大規模開発行為に伴う事前協議
→発掘調査の有無などを説明、段取りを協議
②発掘届を受理・進達
③発掘調査、工事立会
→受託発掘調査時の積算も含む
④史跡の維持管理
→草刈りなどに駆り出されることもある
⑤文化財保存事業への補助金交付手続き
⑥文化財と見られる物品についての相談応対
→内容次第で博物館に回すこともある
⑦国や都道府県からのアンケートの回答

埋蔵文化財保護業務の一例

こういった感じで、ほぼ事務仕事である。自治体によっては博物館と業務を分担しているところもある(私の勤務先もそうだ)が、基本的に文化財についての相談窓口は自治体の文化財保護部局で、そこから必要に応じて博物館に回したり、文化財保護審議会の先生方に対応を依頼したりすることになる。そのため、考古学専攻で埋蔵文化財担当として採用されていても、すべての文化財(建造物、美術工芸、古文書等)について基礎的な知識を持っておく必要がある。
これらは経験によっても身につくが、基礎知識は持っているに越したことはない。そこで、この本をおすすめしたい。

本当は、大学の文化財学の講義で一コマでもこうした事に触れる機会があればいいのだが、私が学生時代に履修した文化財学の講義はほぼ「文化財とはなにか」に費やされていた。地方自治体による就活生向けのセミナーなども頻繁に開催できれば、啓発に効果があるのだが。


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