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博物館について考える

博物館と美術館はどちらも同じ「ミュージアム」だが、役割は微妙に違っていて、美術館は展覧施設、博物館は教育施設の側面が強い。それは施設の造りにも現れていて、美術館が外観も含めて「おしゃれ」なのに対し、博物館はいかにも「ハコモノ」的外観で素っ気ない。博物館が扱うものは基本的に「資料」であり、端的に言えば「学習教材」である。そのため、同じもの、例えば屏風や掛け軸などでも、美術館と博物館で扱いが違う。簡単に言うと、美術館ではその絵が持つ美術的価値が重視されるのに対し、博物館ではその絵が持つ歴史的価値が重視される。

美術館はアートを観て楽しむ場所

個人的に、美術館は「楽しむ場所」だと思っていて、美術館には「芸術を楽しめる空間」を求めたくなる。美術品、それが絵画であれ彫刻であれ、美術館では一点一点が主人公だ。一方で、博物館は「学習する場所」だと思っているので、博物館には「静かに学べる空間」を求めたくなる。博物館資料は、それが歴史資料であれ自然科学資料であれ、それそのものより、それが持つ来歴が重要であり、さらに言えばそれらの資料を通して語られるストーリーが重要となる。美術品は自分の美しさを語るが、資料は自分の来歴を語ると言えばわかりやすいだろうか。
ここまでで、博物館と美術館の違いがなんとなくわかったかと思う。これは論文ではないので、博物館・美術館についてそれぞれ定義付けはしていない。とりあえず、美術館と博物館は違うものだとわかっていただければいい。

博物館は学び気づきを得る場所

これまでに造られた博物館は、特に設立が古いものほど資料を「見せること」に注力していて、美術館とたいして違わないものが多い。東京、京都、奈良の国立博物館はその傾向が強く、構造も美術館的である。現在は学び方が多様化し、ただ資料を見せるだけの博物館では通用しなくなっていると思う。ただ、既存の博物館を現在のニーズに合うように造り直すのは無理だ。そこで、これから述べることは「新たに造る博物館」であることが前提となるが、実物資料の展示に加え、模型などによる再現、映像などを用いたわかりやすい学習法の導入などが必要だ。もっとも、このあたりまでは既存の博物館でも試みられている。だが、視覚障害者などハンデを持つ方々への配慮も必要となると、これからは「触れる展示」が必要になると思う。土器など、触っても問題ない資料は現物、触ると資料を傷めてしまう恐れがあるもの(木製品や金属製品)は模型を使えば良い。出土資料の場合でも、今は3Dプリンターの発達で精巧なレプリカを簡単に作れる時代になっているので、従来は触ることができなかった木製品や金属製品も触ってもらうことができる。
以上、博物館について書いてきた。専門書ではすでに議論されていると思うが、本小文が少しでも啓蒙に役立ったなら望外の喜びである。


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