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文化芸術を取り巻く環境の実態

しばらく前に、大阪府が美術品を地下駐車場で保管していたというニュースを見て、腰を抜かした。いくつかの新聞記事を渉猟したところ、大阪府立美術館設置の構想があったが、バブル崩壊に前後して頓挫。コレクションのうち大型の彫刻作品の保管場所がなく、地下駐車場に置いていたという。ちなみに、現在、大阪府に現代美術専門の学芸員はいない。
中には梱包もされずビニールシートを被せただけのものもあったといい、美術品に対する敬意はおろか、保管の基礎知識すらないことが露呈した。これは近年稀に見る不祥事で、学芸員はもっと怒っていい。
(しかも大阪府特別顧問は「デジタルで見られるなら処分も」という趣旨の発言をしたという。日本維新の会の文化軽視政策ここに極まれりといったところだ。橋下政権以後、大阪府市の文化行政はぐちゃぐちゃになっている。)

文化財、美術品には材質によって
適した保管環境がある。

詳細はリンクしている記事を読んでもらいたいが、保管方法が不適切というのは素人でもわかるだろう。実際に、資料というものは事細かに保存環境が決められている。常温で放置していていいのは土器ぐらいだ(それでもカビ等の繁殖に気をつけなければならない)。博物館・美術館は(図書館も)、資料を保存するために収蔵庫を持っている。それも耐震耐火、かつ気密性が高い収蔵庫である。それに加えて、高い電気代を払って24時間換気、空調による温湿度管理を行っている。これは何より、資料を適切に保存し、後世に伝えていくためだ。紙資料、金属製品、木製品など、材質ごとに適切な温湿度があり、万全ではないにしてもその環境に近づくよう、収蔵庫と展示ケース内は気を使っている。

博物館や美術館の仕事の第一は資料の収集と保存。
その延長線上に展示・公開がある。

そこで改めて大阪府の今回の一件を振り返ると、首長や職員の美術品への理解のなさが目立つ。それに学芸員不在という専門知の欠如が輪をかけている。これではまともな文化行政は期待できない。文化・観光がどうのこうのと言っている裏でこうしたことがまかり通っているのが実態なので、博物館・美術館への風当たりが強いのも「さもありなん」である。文化芸術に理解がないから、保存施設のありようにも同じように理解がない。これは一自治体の問題ではなく国全体の問題である。


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