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展示について

博物館で実際に展示替えなどを担当する中で、意識するようになったのが「余白」である。
今まで、数多くの博物館や美術館に行ったが、心地よく見られる展示は「余白」が多い。展示室にものを入れすぎると、圧迫感が出る。ヨーロッパの古い美術館(ルーブル美術館、エルミタージュ美術館など)は宮殿をそのまま使っているためか、壁一面に絵画を飾っていて、迫力に圧倒されるが、一点一点くまなく見ているとかなりの疲労感をもよおすだろう。
時々、余白恐怖症のような展示を見ることがある。考古学系の展示に多い。展示台が埋まるほど石器や土器を並べ、壁には大量の解説パネルを貼る。見ているだけで疲れる。
同じ詰め込みでも、ヨーロッパの例と考古学系の展示の例はルーツが違う。ヨーロッパ式詰め込み展示は、博物館のルーツと関係している。15世紀頃から、貴族の間で名宝・珍品を陳列、公開することが流行した。こうした陳列室を「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」という。当時描かれた絵画を見ていると、まさに詰め込み展示である。この伝統が現在まで受け継がれているのかもしれない。

ヴンダーカンマー(驚異の部屋)

考古学系の詰め込み展示は、源流が考古学そのものにある。考古学では発掘調査報告書を作成する際、1ページにできる限り遺物の実測図を載せようとする。遺物の比較検討をするには、サンプルは多いほどよい。しかし、これは研究者にとってであって、博物館に来る多くの観覧者(研究者ではない)にとっては、同じものが大量に並んでいても目がくらむだけである。まあ、それでも資料だけならいいが、壁一面が解説パネルだと閉口する。文字を読むだけで疲れるのである。
パネルで壁を埋めるのは、余白の有効活用のつもりだろうが、正直に言って逆効果である。展示を見に行って文字ばかり読むというのは疲れるものである。実際、多くの観覧者は解説パネルを読んでいないだろう。しかし、不思議なもので、解説がまったくないと逆に不安になるものである。だが、文字を読むというのは労力を要するので、長すぎると良くない。私が理想とするのは国立博物館の展示解説で、展示品一点に対し、おおよそ200字程度の解説がついている。これが一番見やすい。
今回は展示について考えてみた。観覧者が心地よく見られる展示を心がけたい。


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