Zut

「正しく発音された舌打ち」を目指しています。 「zut, zut...(ちぇ、ちぇ.…

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「正しく発音された舌打ち」を目指しています。 「zut, zut...(ちぇ、ちぇ..)」(プルースト『探求』)

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  • 言之

    詩の類です。読みにくい、かもしれません。

  • エスキス

    着想の素描。読みにくいです。

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【詩】みちとうみ

——さかのぼって来たのだね 一人は躊躇い、一人は怒っていた。故に、次第に一人は怒り、一人は躊躇いがちになった。 「……渓流を反対にたどって来た、いくつものはなが…

Zut
2か月前
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【短編】砂浜の狂女

二〇二六 夏 一  その家にはもう誰も住んでいなかった。水道も電気も止められた家の中を、ただわたしだけが、ひとり彷徨っていた。わたしの足元は、数年前、祖母がそこ…

Zut
7時間前
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「心の優しい人」とか「心の穏やかな人」になれるかは分からないけど、「心のある人」にならなれる気がするし、ならなきゃだめだ。

Zut
2日前
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ぼくのことを知っている人の誰もいない土地で、「バッハ」という言葉を発してみる。すると、通りすがりの誰かが笑顔でこちらを振り向くかもしれないーーぼくがバッハの音楽を愛しているのは、この可能性を信じているからだと思う。

Zut
3日前

詩人がカッコつける時代って、きっと悲しい時代だ

Zut
3日前

本を読むためには、おにぎりひとつで十分なのに、事務的なことをやるには、カレーを腹一杯食わないとだめだ。そして気づいたら寝てる。苦しい。

Zut
9日前

【詩】この言葉のうちに

きみのすべての いとしさを この言葉のうちに・・・ だが それは、かなわぬ おもい 与えられたこの 時間 いつか嵐がやってきて あなたを 渡り鳥に変えてしまう そ…

Zut
11日前
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偉大な思想家は、あまりにも真面目すぎて、どこか滑稽なものだ。ニーチェも、ヴェイユも、ブランショも、みんな・・・。そうした嘲笑こそ、文学や思想が身に背負うべき運命だったのに・・・・。羨望の眼差しではなく、軽蔑のまなざしこそが思想の健全さを証明していたのに・・・。

Zut
13日前
1

言葉が溢れすぎている。黙っている人間が一番偉いというのに。彼らの栄光のためだけに、ぼくは社会を罵倒する言葉を吐く。

Zut
13日前
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「個人の尊厳」というユートピアのために

(政治について書くのは、なかなか勇気のいることだ。しかしもし、固定した現状に対して何も言わず、そしてその沈黙が自主的でない——つまり何者かに強制されているとすれ…

Zut
2週間前
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こんな夜中に、HIMARIさんのバッハに感動している。彼女のバイオリンから聞こえてくるのは、一人の天才少女の歌声ではない。どこにでもいる少女が、扉を閉め切って、部屋の奥ですすり泣いている音。それを僕は廊下で聞いているみたいだ。

Zut
3週間前
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パウル・ツェラン

恋をすると、ツェランを読みたくなる。 どのような抱擁も、恋人たちを絶対的にひとつにすることはできない。 けれど、その虚しさを、ツェランは肯定している。 ふたりの…

Zut
3週間前
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教養がキラキラと光るとき(エスキス#4)

ときどき、こんな言葉を耳にする。 現代人の悩みの「低俗さ」を馬鹿にして。 「それはもうシェイクスピアやドストエフスキーが解決している」 恐ろしい言葉。ぼくはそい…

Zut
3週間前
4

一世一代の大反省(ヒステリーについて)

久しぶりに衝撃を受けた。突然頭を殴られたような。 そして反省した。一週間ぐらい、頭を抱えることになった。 NHKの、「100de名著」の特別編で、「100分deフェミニズム…

Zut
3週間前
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いろんな申請書を書いているとむしゃくしゃして泣きそうになる。「説明してください」「理由をかきなさい」って不可能なことばかり求められる。仕方がないけど、、、

Zut
1か月前
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小林秀雄が、若い頃は死が「問題」として、つまり「解明しなければならない何か」として現れてきた、と述べていた。けれど年を取ると、死は問題ではなく、現実として、必ずそこへ帰着することとなっている目的地として現れる、と述べていた。僕の場合まだ死は問題だけれど、きっとそれは幻想なんだ。

Zut
1か月前
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【詩】みちとうみ

【詩】みちとうみ

——さかのぼって来たのだね

一人は躊躇い、一人は怒っていた。故に、次第に一人は怒り、一人は躊躇いがちになった。

「……渓流を反対にたどって来た、いくつものはなが踏みつぶされていたのに、ぼくらはどんな哀れみをかけてやることもなく、こしをかがめ、はなを近づけることもなく、なまえを知ろうとすることなく。かたわらの、ぼくらとは反対のあしあとをたどってきた。そのもち主のあしをはたらかせた因果を知るために

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【短編】砂浜の狂女

【短編】砂浜の狂女

二〇二六 夏


 その家にはもう誰も住んでいなかった。水道も電気も止められた家の中を、ただわたしだけが、ひとり彷徨っていた。わたしの足元は、数年前、祖母がそこで死んだという寝室の前で止まった。洗い立てのシーツを被された白いベッドが、戸口の右壁にそって据えられていた——きっとこのシーツも真っ赤に染まっていたに違いない、『それがシーツの役割なのだから』——と、わたしは瞬時に想像した。部屋の奥に、い

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「心の優しい人」とか「心の穏やかな人」になれるかは分からないけど、「心のある人」にならなれる気がするし、ならなきゃだめだ。

ぼくのことを知っている人の誰もいない土地で、「バッハ」という言葉を発してみる。すると、通りすがりの誰かが笑顔でこちらを振り向くかもしれないーーぼくがバッハの音楽を愛しているのは、この可能性を信じているからだと思う。

詩人がカッコつける時代って、きっと悲しい時代だ

本を読むためには、おにぎりひとつで十分なのに、事務的なことをやるには、カレーを腹一杯食わないとだめだ。そして気づいたら寝てる。苦しい。

【詩】この言葉のうちに

【詩】この言葉のうちに

きみのすべての いとしさを この言葉のうちに・・・
だが それは、かなわぬ おもい

与えられたこの 時間
いつか嵐がやってきて あなたを 渡り鳥に変えてしまう
その前に
きみのすべての いとしさを この言葉のうちに・・・

だが それは、かなわぬ おもい

<ふるえる瞳>・・・それはもう、あなた瞳ではない
<わずかに膨らんだ頬>・・・それはもう、あなたの頬ではない
<つりあげられた睫毛>・・・そ

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偉大な思想家は、あまりにも真面目すぎて、どこか滑稽なものだ。ニーチェも、ヴェイユも、ブランショも、みんな・・・。そうした嘲笑こそ、文学や思想が身に背負うべき運命だったのに・・・・。羨望の眼差しではなく、軽蔑のまなざしこそが思想の健全さを証明していたのに・・・。

言葉が溢れすぎている。黙っている人間が一番偉いというのに。彼らの栄光のためだけに、ぼくは社会を罵倒する言葉を吐く。

「個人の尊厳」というユートピアのために

「個人の尊厳」というユートピアのために

(政治について書くのは、なかなか勇気のいることだ。しかしもし、固定した現状に対して何も言わず、そしてその沈黙が自主的でない——つまり何者かに強制されているとすれば、この社会が保障しているはずの表現の自由を裏切ることになるだろう。今、史上稀に見るクリシェの氾濫という危機に瀕しており、自由な表現によってそこから救われるべきなのは、表現の自由それ自身なのである。)

戦後民主主義を、その根底から支えてき

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こんな夜中に、HIMARIさんのバッハに感動している。彼女のバイオリンから聞こえてくるのは、一人の天才少女の歌声ではない。どこにでもいる少女が、扉を閉め切って、部屋の奥ですすり泣いている音。それを僕は廊下で聞いているみたいだ。

パウル・ツェラン

パウル・ツェラン

恋をすると、ツェランを読みたくなる。

どのような抱擁も、恋人たちを絶対的にひとつにすることはできない。
けれど、その虚しさを、ツェランは肯定している。

ふたりの孤独のうちに立ち現れる、空無を、愛の交換する場として肯定する。

なんと、ロマンティックだろう!

抱きしめられることのなかった、愛。
挫折した愛。届くことのなかった愛。

それらが、椿の花のように落ちていく、地面を
ツェランは詩のなか

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教養がキラキラと光るとき(エスキス#4)

教養がキラキラと光るとき(エスキス#4)

ときどき、こんな言葉を耳にする。
現代人の悩みの「低俗さ」を馬鹿にして。

「それはもうシェイクスピアやドストエフスキーが解決している」

恐ろしい言葉。ぼくはそいつの顔面を全力で殴りたい。

そして言う。
「あなたの痛みは解決されていますか?」
彼は首を縦に振らないだろう。ズキズキする頬に手を当てるだけで精一杯なはずだ。

そしてわたしたちの日常生活とは、このように突然殴られることにほかならない

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一世一代の大反省(ヒステリーについて)

一世一代の大反省(ヒステリーについて)

久しぶりに衝撃を受けた。突然頭を殴られたような。

そして反省した。一週間ぐらい、頭を抱えることになった。

NHKの、「100de名著」の特別編で、「100分deフェミニズム」という回がある。僕は、半分からかいのつもりでそれを観てみた。

からかい半分というのは、僕は基本的に、イデオロギー的なものに固執するすべての人間を軽蔑しているから。ある特定の立場から、物を言うという事の暴力性を憎んでいるか

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いろんな申請書を書いているとむしゃくしゃして泣きそうになる。「説明してください」「理由をかきなさい」って不可能なことばかり求められる。仕方がないけど、、、

小林秀雄が、若い頃は死が「問題」として、つまり「解明しなければならない何か」として現れてきた、と述べていた。けれど年を取ると、死は問題ではなく、現実として、必ずそこへ帰着することとなっている目的地として現れる、と述べていた。僕の場合まだ死は問題だけれど、きっとそれは幻想なんだ。