Zut

「正しく発音された舌打ち」を目指しています。 「zut, zut...(ちぇ、ちぇ.…

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「正しく発音された舌打ち」を目指しています。 「zut, zut...(ちぇ、ちぇ..)」(プルースト『探求』)

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  • エスキス

    着想の素描。読みにくいです。

  • 言之

    詩の類です。読みにくい、かもしれません。

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【詩】みちとうみ

——さかのぼって来たのだね 一人は躊躇い、一人は怒っていた。故に、次第に一人は怒り、一人は躊躇いがちになった。 「……渓流を反対にたどって来た、いくつものはなが踏みつぶされていたのに、ぼくらはどんな哀れみをかけてやることもなく、こしをかがめ、はなを近づけることもなく、なまえを知ろうとすることなく。かたわらの、ぼくらとは反対のあしあとをたどってきた。そのもち主のあしをはたらかせた因果を知るために……それで…… それでも、憶えているかい、君は、僕らが、この「僕ら」という言葉

    • 「個人の尊厳」というユートピアのために

      (政治について書くのは、なかなか勇気のいることだ。しかしもし、固定した現状に対して何も言わず、そしてその沈黙が自主的でない——つまり何者かに強制されているとすれば、この社会が保障しているはずの表現の自由を裏切ることになるだろう。今、史上稀に見るクリシェの氾濫という危機に瀕しており、自由な表現によってそこから救われるべきなのは、表現の自由それ自身なのである。) 戦後民主主義を、その根底から支えてきた価値観は、個人の尊厳を無条件に肯定するという思想だろう。どのような人間も、等し

      • こんな夜中に、HIMARIさんのバッハに感動している。彼女のバイオリンから聞こえてくるのは、一人の天才少女の歌声ではない。どこにでもいる少女が、扉を閉め切って、部屋の奥ですすり泣いている音。それを僕は廊下で聞いているみたいだ。

        • パウル・ツェラン

          恋をすると、ツェランを読みたくなる。 どのような抱擁も、恋人たちを絶対的にひとつにすることはできない。 けれど、その虚しさを、ツェランは肯定している。 ふたりの孤独のうちに立ち現れる、空無を、愛の交換する場として肯定する。 なんと、ロマンティックだろう! 抱きしめられることのなかった、愛。 挫折した愛。届くことのなかった愛。 それらが、椿の花のように落ちていく、地面を ツェランは詩のなかに用意する。 誰かが——ぼくの恋人が?——その地面に、かつての挫折した愛の痕跡

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        【詩】みちとうみ

        • 「個人の尊厳」というユートピアのために

        • こんな夜中に、HIMARIさんのバッハに感動している。彼女のバイオリンから聞こえてくるのは、一人の天才少女の歌声ではない。どこにでもいる少女が、扉を閉め切って、部屋の奥ですすり泣いている音。それを僕は廊下で聞いているみたいだ。

        • パウル・ツェラン

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        • エスキス
          4本
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        記事

          教養がキラキラと光るとき(エスキス#4)

          ときどき、こんな言葉を耳にする。 現代人の悩みの「低俗さ」を馬鹿にして。 「それはもうシェイクスピアやドストエフスキーが解決している」 恐ろしい言葉。ぼくはそいつの顔面を全力で殴りたい。 そして言う。 「あなたの痛みは解決されていますか?」 彼は首を縦に振らないだろう。ズキズキする頬に手を当てるだけで精一杯なはずだ。 そしてわたしたちの日常生活とは、このように突然殴られることにほかならない。誰に? もちろん、社会に。 全ての悩み、全ての痛みは、絶対的に個別的なものな

          教養がキラキラと光るとき(エスキス#4)

          一世一代の大反省(ヒステリーについて)

          久しぶりに衝撃を受けた。突然頭を殴られたような。 そして反省した。一週間ぐらい、頭を抱えることになった。 NHKの、「100de名著」の特別編で、「100分deフェミニズム」という回がある。僕は、半分からかいのつもりでそれを観てみた。 からかい半分というのは、僕は基本的に、イデオロギー的なものに固執するすべての人間を軽蔑しているから。ある特定の立場から、物を言うという事の暴力性を憎んでいるから。それは、そうした立場を持たない人間の意見を、数の暴力によって消滅させてしまう

          一世一代の大反省(ヒステリーについて)

          いろんな申請書を書いているとむしゃくしゃして泣きそうになる。「説明してください」「理由をかきなさい」って不可能なことばかり求められる。仕方がないけど、、、

          いろんな申請書を書いているとむしゃくしゃして泣きそうになる。「説明してください」「理由をかきなさい」って不可能なことばかり求められる。仕方がないけど、、、

          小林秀雄が、若い頃は死が「問題」として、つまり「解明しなければならない何か」として現れてきた、と述べていた。けれど年を取ると、死は問題ではなく、現実として、必ずそこへ帰着することとなっている目的地として現れる、と述べていた。僕の場合まだ死は問題だけれど、きっとそれは幻想なんだ。

          小林秀雄が、若い頃は死が「問題」として、つまり「解明しなければならない何か」として現れてきた、と述べていた。けれど年を取ると、死は問題ではなく、現実として、必ずそこへ帰着することとなっている目的地として現れる、と述べていた。僕の場合まだ死は問題だけれど、きっとそれは幻想なんだ。

          原罪を取り戻せ!!(エスキス#3)

          人間が罪深いということは、アダムとエヴァの神話を参照せずとも、歴史を見れば自ずから判明する。むしろ、順序は逆だったのだろう。歴史的世界における人間の罪深さの経験が、ヘブライの宗教的教理に抽象化されたのだろう。 アダムとエヴァが食べたりんご、りんごを食べることの罪。それはきっとパスカルが「クレオパトラの鼻」と名指したものと同じだろう。対象を名指すことでしか明らかにならない、人間の奥深くに隠された欲動、ドロドロした、マグマのような、それでいてそれが噴出したとき、社会から「下品」

          原罪を取り戻せ!!(エスキス#3)

          「おかえりって言って!!」って母親に叫んでる夢を見た

          「おかえりって言って!!」って母親に叫んでる夢を見た

          ぼくたちが人権という言葉を発するとき(エスキス#2)

          人権とは一体何か。 すべての人間が生まれながらにして持っている権利。 とても曖昧な言葉だ。どうして、そんなものがあると分かるのだろうか? 誰か「ジンケン」なるものを食べたことがある人がいるのだろうか? 春キャベツを食べるように。いやそんなことはできないはずだ。それは人間によって作られたものだから。「ジンケン」はフカヒレやキャビアよりも、珍味——あるいは幻の食べ物——なのである。 まったく教育されていないこどもが、人権という言葉を発したことがあっただろうか? 生まれながら

          ぼくたちが人権という言葉を発するとき(エスキス#2)

          哲学に対する罵声「あんた、なに言ってるの?」(エスキス#1)

          哲学に対する罵倒、「あんた、何言ってるの?」を真面目に考えなければならない。 哲学が、言語的論証から離れ、真理の把握のための新たな手段として文学を採用したとき——ブランショにはじまり、デリダ、ナンシーへ—哲学はひとつの終着点に至った。 しかしそれは、「至らなければならなかった」と言ったほうが良い。 それは、言葉への不信ではなく、言葉の規則=言語への反抗であった。彼らほど、言葉によってものを考え、言葉によって新しい認知を生み出そうとした哲学者はいない。 彼らはもっとも根

          哲学に対する罵声「あんた、なに言ってるの?」(エスキス#1)

          語るべきことを語らなければならない。おしゃべりは禁止。言葉は限られているから、言葉は地下に保存されるから。

          語るべきことを語らなければならない。おしゃべりは禁止。言葉は限られているから、言葉は地下に保存されるから。

          ゴダール監督『軽蔑』

          正確なセリフは忘れたが、映画序盤においてフリッツ・ラングが神に関する言葉を引用する。神々の存在が人類に平穏をもたらすのではない。神々の不在こそが、それをもたらす——そういう内容だったはずだ。 不在となるのは誰か? 映画のクライマックスで、主人公の妻カミーユと、映画プロデューサーのジェレミーが、である。映画の初めのシーンを除き、夫・ポールの態度に不満なカミーユは、結局、このアメリカ人プロデューサーと一緒になることを決める。しかし最終盤、ポールと別れた二人が乗るオープンカーは巨

          ゴダール監督『軽蔑』

          めぐまれたもの【ショートショートショート】

          誕生日、おめでとう。 ありがとう。 欲しいものはある? なにも。 なんでも、言ってみて。 ないよ。 うそばっかり。 ほんとに、叶えてくれるの? きみは きっと。 じゃあ、あれだね。ぼくたちが・・・ ——うん、覚えてる。 はるかかなたを あゆむ しずけさ ーー正解 。

          めぐまれたもの【ショートショートショート】

          【詩】見つめろ、新しい狂気を

          見つめろ 新しい狂気を 言葉の影にひそむ その瞬間を 掴み取れ 新しい狂気を 歴史の影の その中に たったいま! 饒舌なる 新しい理性が 手錠をもって やってくる そのまえに 聞き逃すこと ナカレ あの夜 売春婦の言った 誰のためでもない 愛の囁きを 見つめろ 新しい狂気を 言葉の影にひそむ その瞬間を すべての生き物の 栄光の ために

          【詩】見つめろ、新しい狂気を