Step Across the Border

表象批評。映画、音楽、美術、デザインあたりを横断的に。「境界」を見つめていたい。AIに…

Step Across the Border

表象批評。映画、音楽、美術、デザインあたりを横断的に。「境界」を見つめていたい。AIには書けないことを書くのが裏テーマ。

記事一覧

エディ・スリマンの現在地から連想したこと。

セリーヌ退任の噂が絶えないエディ・スリマンが、2024 WINTERのメンズコレクションをビデオで発表して話題だ。当然のことながら、ビデオの監督もエディ本人である。そして…

アートはもっとしどけなく、放縦であってもいいんじゃない? 第8回横浜トリエンナーレ

横浜トリエンナーレは、2011年の第4回から毎回通っている。同時代のアートの動向、もっとざっくばらんに言えばキュレーションの「気分」のようなものを、3年ごとに定点観測…

スティーヴ・アルビニに続く才能は、あまり見当たらない。

スティーヴ・アルビニ逝去。享年61は早すぎる。ミック・ジャガーやイギー・ポップがあんなに元気にピンピンしているのが、恨めしくなるほどだ。 小野島大氏は、以下のよう…

ドラクロワを模写していたというミステリー。『マティス 自由なフォルム』

国立新美術館でのマティス展。昨年、東京都美術館で回顧展があったので、またですか?という感じではある。昨年の展覧会のレビューは以下。 大きな違いは、昨年はポンピド…

自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

本日(5/12)終幕。出品者の飯山由貴が、内覧会でイスラエルのガザ進攻に抗議し、美術館の支援企業を名指しで批判したことでも話題となった企画展だ。 タイトルの『ここは…

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人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

没後50年記念の回顧展。木村伊兵衛について、「日本のアンリ・カルティエ=ブレッソン」と称するのは、少し強引だがあながち間違いではない。1954年のヨーロッパ取材時、実…

やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

2023年11月にリニューアルした三の丸尚蔵館。2024年6月まで、4期に分けて記念展『皇室のみやび―受け継ぐ美―』が開催されている。当館に収蔵された名品を順次紹介するコレ…

生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音…

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【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

『PLAYBOY』日本版(2008年休刊)は、ときどき硬派なジャズの特集をやっていた。2006年3月号のコルトレーン特集に寄せた原稿をここに再掲する。編集部からのお題を受けて、…

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『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

藤沢(上白石萌音)はPMS(月経前症候群)、山添(松村北斗)はパニック障害を患い、それぞれ生きづらさを抱えている。ああ、そっち系? その種のドラマは正直あまり好み…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、4枚目。 ひとつ問題提起をしてみよう。そもそもアート・ブレイキーのドラミングに、ハード・バップ~…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、3枚目。 もしレア・グルーヴ/アシッド・ジャズのムーヴメントがなかったとしたら、いまでもルー・ド…

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映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

ビクトル・エリセの久方ぶりの長編。プロモーションのコピーには「31年ぶり」とあるが、それはドキュメンタリーの『マルメロの陽光』からであって、純然たるフィクション作…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。 鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

2000年代の前半の一時期、ジャズに関する原稿を書いていた。ほとんどは紙媒体に寄稿したものだから、ネットには当然、痕跡もなさそうだ。せっかくなので、個人的な記録とし…

外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

現代の東京が舞台。役所広司が主人公の公衆トイレ清掃員・平山を演じた。カンヌでは男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞を受賞したのは記憶に新しい。 監督のヴィム・ヴ…

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エディ・スリマンの現在地から連想したこと。

エディ・スリマンの現在地から連想したこと。

セリーヌ退任の噂が絶えないエディ・スリマンが、2024 WINTERのメンズコレクションをビデオで発表して話題だ。当然のことながら、ビデオの監督もエディ本人である。そして、すごく予算がかかってそう…。

テーマは「SYMPHONIE FANTASTIQUE」で、ベルリオーズの幻想交響曲にちなんでいる。ビデオのキャプションによると、エディは11歳のときにこの曲と出会って魅了されたという。さらに、「史

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アートはもっとしどけなく、放縦であってもいいんじゃない? 第8回横浜トリエンナーレ

アートはもっとしどけなく、放縦であってもいいんじゃない? 第8回横浜トリエンナーレ

横浜トリエンナーレは、2011年の第4回から毎回通っている。同時代のアートの動向、もっとざっくばらんに言えばキュレーションの「気分」のようなものを、3年ごとに定点観測できるいい機会なのだ。

第8回となる今年のアーティスティック・ディレクターは、リウ・ディン(劉鼎)とキャロル・インホワ・ルー(盧迎華)の2人で、ともに中国出身。コンセプトの「野草:いま、ここで生きてる」は、魯迅の詩集『野草』(192

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スティーヴ・アルビニに続く才能は、あまり見当たらない。

スティーヴ・アルビニに続く才能は、あまり見当たらない。

スティーヴ・アルビニ逝去。享年61は早すぎる。ミック・ジャガーやイギー・ポップがあんなに元気にピンピンしているのが、恨めしくなるほどだ。

小野島大氏は、以下のように指摘する。

1986年において、アルビニ率いるビッグ・ブラックの『Atomizer』と、ミニストリーの『Twitch』が、同種のノイズを鳴らしていたのは、ロック史の重要なトピックだと思う。

"Kerosene"の4分46秒~と、"

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ドラクロワを模写していたというミステリー。『マティス 自由なフォルム』

ドラクロワを模写していたというミステリー。『マティス 自由なフォルム』

国立新美術館でのマティス展。昨年、東京都美術館で回顧展があったので、またですか?という感じではある。昨年の展覧会のレビューは以下。

大きな違いは、昨年はポンピドゥー・センター、今回はニース市マティス美術館の協力ということ。後者は、切り紙絵のコレクションが充実しているそうで、それに関連した展示が多かった印象がある。日本初公開の大作《花と果実》が話題だ。

みんな大好き《ジャズ》も再登場。《ジャズ》

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自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

本日(5/12)終幕。出品者の飯山由貴が、内覧会でイスラエルのガザ進攻に抗議し、美術館の支援企業を名指しで批判したことでも話題となった企画展だ。

タイトルの『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』は、ドイツの作家ノヴァーリスが、18世紀末に書き記した以下のような文章に依拠している。

国立西洋美術館は、「現在」ではなく「過去」、「東洋(日本)」ではなく「西洋」の作品が集められ

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人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

没後50年記念の回顧展。木村伊兵衛について、「日本のアンリ・カルティエ=ブレッソン」と称するのは、少し強引だがあながち間違いではない。1954年のヨーロッパ取材時、実際にパリでブレッソンと面会を果たし、親交を結んでいる。木村は、念願だった渡欧によってむしろ志向に迷いが生じてしまったそうだが、ブレッソンとの語らいによって、自己の進むべき方向をあらためて見出したという。その折に木村がブレッソンを撮った

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やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

2023年11月にリニューアルした三の丸尚蔵館。2024年6月まで、4期に分けて記念展『皇室のみやび―受け継ぐ美―』が開催されている。当館に収蔵された名品を順次紹介するコレクション展シリーズであり、再出発にあたって、まずは景気付けといったところか。

ずっと行きたいと思いつつ、なかなか足を運ぶことができていなかったが、ようやく第3期(5/12マデ)に駆け込むことができた。

”近世の御所を飾った品

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生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音楽体験だった。

シカゴ・ハウス~アシッド・ハウスのみならず、ガラージュ、ジャズ、アフロが渾然一体となった一大音絵巻。それはディープ・ハウスの多様性を詳らかにするものであり、総体としては、ブラック・ミュージック以外の何物で

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【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

『PLAYBOY』日本版(2008年休刊)は、ときどき硬派なジャズの特集をやっていた。2006年3月号のコルトレーン特集に寄せた原稿をここに再掲する。編集部からのお題を受けて、ジャンルを超えたコルトレーンの影響力を考察したものだ。

今、読み返すと、内容がいささか古くなってしまっているのは否めない。とはいえ、取り上げたアーティストはかなり広範に及び、手前味噌ながらけっこうレアな論考になっていると思

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『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

藤沢(上白石萌音)はPMS(月経前症候群)、山添(松村北斗)はパニック障害を患い、それぞれ生きづらさを抱えている。ああ、そっち系? その種のドラマは正直あまり好みではない。序盤、藤沢のナレーションが延々と流れ、なんだか説明的だな、とさらに警戒を強めたほどだ。監督の三宅唱がインタビューで明かしているとおり、彼の過去作ほど各ショットは作り込まれておらず、自然なフローが意識されているためか、とっつきやす

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、4枚目。

ひとつ問題提起をしてみよう。そもそもアート・ブレイキーのドラミングに、ハード・バップ~ファンキー・ジャズの器はふさわしいのだろうか? なにをバカな、と思われるかもしれない。だが、あの畳み掛けるロール奏法やニュアンスに富んだポリリズムを“祭祀のBGM”と捉えるならば、ビバップの刹那主義を乗り越えて確立されたハード・バップの構

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、3枚目。

もしレア・グルーヴ/アシッド・ジャズのムーヴメントがなかったとしたら、いまでもルー・ドナルドソンは、“大衆音楽にセル・アウトしたアルト・サックス奏者”という不名誉な称号を戴いたままかもしれなかった。大ヒットした67年の『アリゲイター・ブーガルー』に当時の生真面目なジャズ・ファンが困惑したという話を、笑ってすませていいとは思

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映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

ビクトル・エリセの久方ぶりの長編。プロモーションのコピーには「31年ぶり」とあるが、それはドキュメンタリーの『マルメロの陽光』からであって、純然たるフィクション作品としては、『エル・スール』から41年ぶりとなる。変化の激しい現代において、まさに異例のインターバルだ。この間、実際のところ製作上のさまざまな苦難もあったようだが、この時間の経過はエリセにとって無駄ではなかった。本作を観れば、それが容易に

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。

鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー作にしてスペシャルな一枚。アルバム・タイトル曲のオープニングの構成・展開を聴いて、少しでも惹きつけられるところがなかったら、ジャズとは無縁の人生を生きるべきだ、と傲慢にいい放ちたくもなる。もう少し穏便にいい換えれば、惹きつけられない人もそ

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

2000年代の前半の一時期、ジャズに関する原稿を書いていた。ほとんどは紙媒体に寄稿したものだから、ネットには当然、痕跡もなさそうだ。せっかくなので、個人的な記録としてここに残しておこうかと。いかにも若書きで、詰めも甘いのだが、ご容赦ください。書名、筆名は伏せておきます。

まず、ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューがいくつかあった。今回はそこからまず1枚。

無数にあるマイル

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外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

現代の東京が舞台。役所広司が主人公の公衆トイレ清掃員・平山を演じた。カンヌでは男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞を受賞したのは記憶に新しい。

監督のヴィム・ヴェンダースらしい音楽へのこだわりについてまず触れておきたい。『PERFECT DAYS』は、ルー・リードの名曲(こちらは単数形のDAY)にちなんだタイトルである。劇中で当曲が使われるほか、彼が在籍したヴェルヴェット・アンダーグラウンドから

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