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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。

ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』

鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー作にしてスペシャルな一枚。アルバム・タイトル曲のオープニングの構成・展開を聴いて、少しでも惹きつけられるところがなかったら、ジャズとは無縁の人生を生きるべきだ、と傲慢にいい放ちたくもなる。もう少し穏便にいい換えれば、惹きつけられない人もそうはいないはずなんだけど……たぶん。

まずイントロの8小節で、ソニー・クラークのピアノが勇壮ながらも陰影に富んだマイナー・コードのテーマの一部を示し、ベースのウィルバー・ウェアがオフ・ビートで同一音をくり返す。ここで第1のゾゾッ。続いて、アート・ファーマー、ハンク・モブレー、カーティス・フラーの3管が揃ってテーマ本体を提示し、ルイス・ヘイズのドラムが「バーン、バーン、バーン」とテーマの骨組みを補強する、幕開けにふさわしい8小節がくる。ここで第2のゾゾッ。ベースとドラムスが4ビートに移行する次の4小節では、ホーン隊がテーマを解決させる新しいモチーフを付け加える。ここで第3のゾゾッ。か、かっこいい~。ここだけでご飯何杯でもいける。ハード・バップらしいブルーなムードと船出を決意した前向きさが両立した、まさに魔法のような時間だ。

この曲を含めて4曲がクラークのオリジナルだが、どれも渋いのにキャッチー。あと2曲は《イット・クッド・ハプン・トゥー・ユー》とガーシュイン作の《ラヴ・ウォークト・イン》。器楽家のクラークが作る曲とは明らかに発想から違っていて、妙にスウィートに聴こえるのが面白い。ピアニストのリーダー作なのにセクステットという大きめの編成。当時の気鋭が占めるサポート陣はそれぞれ充実した演奏をくり広げる。クラークはバド・パウエルの流れを汲むテクニックの持ち主だが、独善的なソリストではなく、むしろバンド・サウンドのオーガナイザー的資質が大きかった。のちの『クール・ストラッティン』ではジャッキー・マクリーンの奮闘を導いたし、サイドマンとしても、リー・モーガン『キャンディ』の仕上がりを一段上に押し上げた功績がある。トリオ・アルバムさえ2枚しか残していないが、本盤では、最後の《ラヴ・ウォークト・イン》だけがなぜかトリオ編成。自由に拍節を超えるチャーミングな無伴奏のピアノ・ソロ、リズム隊が加わった後のひたすらスウィンギーなプレイで、寛いだ終幕となる。

(2004年執筆)

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