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生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音楽体験だった。

シカゴ・ハウス~アシッド・ハウスのみならず、ガラージュ、ジャズ、アフロが渾然一体となった一大音絵巻。それはディープ・ハウスの多様性を詳らかにするものであり、総体としては、ブラック・ミュージック以外の何物でもない。

4つ打ちが基調だが、シンコペートするハネ系ビートが頻繁にかぶさる。ところどころ狙いすましたように巧みなフィルインが入るのに惚れ惚れしてしまった。彼が元々ドラマーだったことを如実に物語っている。フロアのテンションをピークのまま持続させる繋ぎの妙は、DJとしての反射神経の賜物だが、肝心のサウンドメイクを支えるのは、古典的といってもいい確かなミュージシャンシップなのだ。

アゲアゲで押し通した後、終幕に向けてダウンテンポのモードに移行。本人が生歌を添えた“Can You Feel It”で、会場全員の期待に応えた。続く “What About This Love”も、同曲収録の名作『Introduction』を愛する私には最高のプレゼント。その艶やかなピアノ・リフと密やかなグルーヴにマッサージされた。

Mr. Fingers『Introduction』

その後、ペット・ショップ・ボーイズの“West End Girls”にちょっとびっくりしたのだが、あまり会場は反応してない?(苦笑)ラリーは、当たり前のようにエレポップやエレボディも聴いていたんだろうな。2024年の東京のクラブで、この曲を大音響で浴びられたのが素直に嬉しい。UKのマルチカルチャーな実相を体現するグループだったソウルⅡソウルの“Happiness”で締めたのにもグッときた。ラリーらしい広大でしなやかな音楽観を垣間見る思いだった。

40年に及ぶキャリアの総決算を示しながらも、ノスタルジーや枯淡の境地とは無縁。徹頭徹尾ドープで、生気と色気に満ちた、夢のような3時間超だった。ありがとう、ラリー!

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