マガジンのカバー画像

文化人類学者 岩田慶治氏の著作を読む

8
岩田慶治氏の著作についての読書メモを集めました。「人類」と「人類ならざるもの」の区別、境界の生成について思考する、岩田氏の論考を読み解いて行きます。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
未完成のまままわり続けること −パース『連続性の哲学』と岩田慶治『コスモスの思想』を読む

未完成のまままわり続けること −パース『連続性の哲学』と岩田慶治『コスモスの思想』を読む

(この記事は有料設定ですが、全文を公開しています)



チャールズ・サンダース・パースの『連続性の哲学』に「われわれの探求の途(みち)」を「妨げる」、四つの「有害な思想の形態」という話が出てくる。

第一に「絶対的な断言」

第二に「いくつかの事柄は絶対に不可知である、と主張すること」

第三に「科学におけるあれこれの要素が根本的かつ究極的であり、他のものから独立であって、それ以上の説明を寄せ

もっとみる
区別の仕方をメタモルフォーゼさせる ー岩田慶治著『草木虫魚の人類学』を読む

区別の仕方をメタモルフォーゼさせる ー岩田慶治著『草木虫魚の人類学』を読む

(この記事は有料に設定していますが、おわりまで無料で読めます)



岩田慶治氏の著書『草木虫魚の人類学』を読む。

人類学、人類つまり「人間」について考えるはずなのに、草、木、虫、魚、と来る。草は人類なのだろうか?木は?虫は?魚は人類だろうか?

駅前で100人に聞けば、おそらく多くの人は、草は人類ではない、木も虫も魚も人類ではない、と当然のように答えるのではないか。私たちの日常の常識は、人間

もっとみる
文化「と」自然、文化「にとっての」自然 −岩田慶治著『コスモスの思想』を読む

文化「と」自然、文化「にとっての」自然 −岩田慶治著『コスモスの思想』を読む

(この記事は有料設定ですが、さいごまで「試し読み」できます)



文化人類学者岩田慶治氏の著書『コスモスの思想』を読んでいる。読み進めるにつれて、岩田氏の論は核心へと入っていく。そして次のような一文がある。

「われわれの眼に写った自然、言葉に転化した自然はすべて半自然である」岩田慶治『コスモスの思想』p.121

半自然というのはどういうことだろうか?

文化と自然文化人類学では「自然」とい

もっとみる
コスモスとしての文化と、カオスとしての文化 −岩田慶治著『コスモスの思想』を読む

コスモスとしての文化と、カオスとしての文化 −岩田慶治著『コスモスの思想』を読む

文化人類学者 岩田慶治氏の著作『コスモスの思想』を読んでいる。

文化人類学が研究対象とする「文化」というものは、「自然」との対立関係の中で存在するようになるものだ。

例えば、山に大きな石が転がっていれば、私たちはそれを「自然」のものだと言うけれども、もしその石の表面がなめらかに整えられて規則的なパターンで線が刻まれていたならば、私たちはそれを文化的な何かだと考えてみたくなる。

つまり、どこか

もっとみる

文化人類学者 岩田慶治氏『コスモスの思想』の一節

「究極において、わかるということは、どうしても意味づけ得ないものに直面することである」

わかる:わからない=意味づけ得る:意味づけ得ない

という関係は「わかる」範囲が「意味づけ得ない」ものによって縁取られているということ。

魂と樹木と「ある」と「ない」 −岩田慶治『アニミズム時代』を読む

魂と樹木と「ある」と「ない」 −岩田慶治『アニミズム時代』を読む

(この記事は有料設定ですが最後まで試し読みできます)



前のnoteで文化人類学 岩田慶治氏による「こころ」と「魂」の話を書いた。

魂、タマシイというと、怪談のなにかかと思われるかもしれない。

しかし、文化人類学にとっては、そしておそらく情報学にとっても、私たち人間の共同主観性を扱おうとする限りタマシイというのは極めて重要な思考の核になる概念である。

概念、といっても難しい話ではない。

もっとみる
森と人、こころと魂−岩田慶治著『アニミズム時代』を読む

森と人、こころと魂−岩田慶治著『アニミズム時代』を読む

岩田慶治氏の『アニミズム時代』をひきつづき読んでいると、「森の思想・森の生き方」という章で次のような一節に出会う。

岩田慶治氏が、文明の袋小路を逃れ「やり直す」ために、「身体からこころへ、こころから魂へ」と戻っていく必要があると論じる下りである。そこに次の一節である。

こころと魂「こころの世界は二元的で、形がある。海と山、善と悪、子どもと老人、男と女の差違と葛藤がある。」(岩田慶治『アニミズム

もっとみる
「万物はそれぞれに自分自身を描いた画なのだ」ー岩田慶治『アニミズム時代』を読む

「万物はそれぞれに自分自身を描いた画なのだ」ー岩田慶治『アニミズム時代』を読む

岩田慶治氏の『アニミズム時代』を読んでいる。

岩田慶治氏は文化人類学者であり、この『アニミズム時代』も岩田氏ご自身が調査した東南アジアの稲作農耕民族のアニミズム的な信仰や儀式のお話である。

天と地を媒介する儀式『アニミズム時代』の最初の方に「魂のトポロジー」という節がある。

そこでは「凧揚げ」「竜船競漕」「産髪」を残すこと、根を切った竹や樹木などを空に向けて立てることなどなど、いずれも、天と

もっとみる