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【読書ノート】28 「新しい世界の資源地図―エネルギー・気候変動・国家の衝突」 ダニエル・ヤーギン

エネルギー問題の第一人者であるダニエル・ヤーギンの最新刊(2020)。現在の世界のエネルギー・資源問題が俯瞰できる。その他電気自動車や再生可能エネルギーなどに関しても鋭い考察を述べている。前作の「探求」はあまり面白くなく、途中で読むのをやめてしまったが本作はとても良い内容。特筆すべきは著者は今後は当分の間「石油の世紀」は終わらないと結論付けていることである。

このシステムにおいては、石油が引き続きグローバルコモディティとして優位に立ち、相変わらず世界を動かす主要な燃料であり続けるであろう。このような見通しに耳を傾けたくない人もいるかもしれない。しかしこれは、あくまで現実に基づいた見通しだ。・・・結果として、石油は(今や同じようにグローバルコモディティである天然ガスと共に)世界経済においてだけでなく、環境や気候をめぐる議論でも、国家の戦略や国家間の対立でも、大きな位置を占め続けるだろう。

p493

レアアースについて

欧州では、電気自動車にも風力タービンには必要とされる希土類(レアアース)の95%を中国産が占める。欧州で使われているコバルトの60%はもともとコンゴ民主共和国で産出されたものだが。 実際に欧州に輸入されるコバルトの80%以上は中国で精製されている。「他国が欧州の利益を大目に見てくれのを当てにしていた、融和的ないし無邪気な欧州の時代は終わった」と、欧州の産業会の有力者ティエリー・ブルトンは言う。

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電気自動車はガソリン車の6倍、風力タービンは天然ガス発電所の9倍それぞれ多く鉱物を使用する。鉱物の需要は急増するだろう。その増加率はリチウムが4300%、コバルトとニッケルが2500%にものぼる。 これは大幅な不足が生じる恐れがあることを示していると、IEAは言う。 鉱物は普通最初の発見から生産の開始まで16年以上かかる。 しかも石油に比べ生産がはるかに一部の国に集中している。世界の三大産油国から30%だ。リチウムの場合、リチウムの場合、上位3カ国が供給量の80%以上を占める。 風車に必要な希土類の60%は中国で生産され、電気自動車のバッテリーに使われるコバルトの70%は、コンゴ民主国で生産されている。
鉱物のこの需要の急拡大は、IEAが 指摘するように、採掘の激増をもたらし、それによって二酸化炭素の排出量を増大させるとともに、環境面や社会面での問題も引き起こす。環境面での問題には、乏しい水の需要の急増や、生物多様性への脅威、土地利用や地域社会への影響、採掘の工程で出る膨大な廃棄物が含まれる。

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サウジアラムコについて

2019年の春、サウジアラムコがおおむね国有の石油化学製品会社SABICを買収するため、100億ドルの社債を発行した。世界の金融界はこれに色めき立った。応募が殺到し、応募額が募集額の10倍近くに達した。この起債で明らかにされたとても重要なことが1つある。それはサウジアアラムコが世界で最も収益性が高い会社であるということだ。
この起債の成功により、数年前には不可能と思われていたことへの弾みがついた。サウジアラムコの新規株式公開(IPO)だ。

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サウジアラムコはサウジアラビア経済の原料力であり、同国の最重要機関の1つだ。1980年代の国有化の完了以降、完全国有化されている。世界最大の石油会社で、手掛ける事業の規模はすべて桁外れに大きい。米英などの外国の大学で学んだ技術者や科学者を擁し、石油産業でテクノロジーの最先端を企業と一般に目されている。特許の取得数は世界の石油会社の中でトップクラスに入る。主要な投資計画のでは、向こう20年から25年の見通しが立てられている。2615億バレルという確認石油埋蔵量を誇り、他社の油田が枯活したあとも、生産が続けられる。
しかし、IPOで状況を大きく変わる。上場すれば、経営陣は4半期ごとに出資者に業績を報告しなくてはならない。サウジアラムコももはや国を代表する単なるNOC(国営石油会社)ではなくなる。 同時に金融資産にもなる。「石油はあくまで投資の対象として扱うべきだ」と皇太子は言い切った。

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サウジアラムコのIPOで調達した資金は、政府系ファンド、パブリック・インベスメント・ファンド(PIF)に移されることになった。これは、PIFを世界最大の政府系ファンドにするというさらに大きな戦略の一環であった。
サウジアラビアの政府系ファンドを上回る規模のファンドには、アブダビの 政府系ファンドと、1兆ドル以上の資産を運用するノルウェイの政府系ファンドがあった。しかしサウジアラビア常時、アブダビの3倍、ノルウェーの5倍以上の原油を生産している。したがって、皇太子に言わせると、サウジアラビアには「世界最大のファンドのよりも大きい」政府系ファンドがあってしかるべきだった。
そうなればPIFが得た資金は「ビジョン2030」を推進し、国を作りえる事業にも回せる。 「グローバルな投資の巨人」となる政府系ファンドを築きたいというのが、MBSの思惑だった。PIFが石油以外の大きな収入源になることは間違いない。 しかしそれを石油に代わる収入源にするのは、国際通貨基金が指摘する通り、かなり達成の難しい目標だ。

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※「ビジョン2030」:経済構造を多角化し、民間と非石油セクターに成長の軸足を移行させる構想(①脱石油依存経済、②雇用の創出、③効率的な行政の3つの目標)

(2022年7月24日)
(2024年2月19日)


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