私のリモートワーク経験について
ここ数年間の自分自身のリモートワークの経験と感じたことをまとめます。一般的な話が多いかもしれませんが。私はいわゆる「意識が高い」系ではないので、普通の感覚、普通の業務能力、普通の生活、の範囲内での経験です。
1, 仕事の内容とリモートワーク(その1)
仕事の内容は大雑把に言って、企業の広報部門の中で自社のウェブサイトや公式SNSなどの企画と運営でした。パンデミック以前から会社のシステムのクラウド化は進んでいたので、リモートワークは可能な環境でしたが、ウェブコンテンツの企画〜制作やシステム周りの改善、新しいシステムの導入、ウェブ広告の企画、などをスピード感を持って進める為には、やはりオフィスに集まって、お互いの顔を見ながら、雑談も含めて相談しながらというスタイルが最適だと思っていました。スタッフ部門も含めて約30人くらいの体制でした。
で、パンデミックに突入して、いきなり「オフィスに集まるのは危険だ」という方針に変わったので、急遽(ほぼフル)リモートワークに移行しました。
オフィスは東京都心なので、メンバーは東京、神奈川、埼玉、栃木などの通勤圏に在住。それぞれが自宅で「ホームオフィス環境」を整える必要がありました。それについての会社からの補助はほぼ無し。ネットワーク環境くらいは元々あるだろう、と。実家、一軒家、マンション、とそれぞれ住環境の差はありましたが、自宅の一角を確保して、ほぼフルタイムでのリモートワークが始まりました。
もともとオフィスにいてもパソコンを叩いての個人作業は多かったので、その点は心配なかったのですが、リモートワークに際して重視したことは
・メンバー間のコミュニケーションをいかに維持するか
・メンバーの心の問題をいかに解消するか
・仕事(プロジェクト/タスク)の進捗状況をいかに可視化するか
・創造性をいかに維持するか
・成果をいかに可視化して評価するか
メンバーはそれぞれ専門領域を持っていて、IT系、コンテンツ系、データ解析系、プロモーション系、メディア連携系、などのバックグラウンドを持っていました。気をつけないと、それぞれが自分のタスクに集中し過ぎてしまい、スケジュール面や品質面で連携が取れていない状況に陥りがちなので、いかにそれを回避するか、が重要でした。
簡単にひとつずつ説明すると
・メンバー間のコミュニケーションをいかに維持するか
全て「オンラインでにのコミュニケーション」に移行したことで、効率優先になりがちなところを「オンラインでの雑談もO.K.というか大事」「議論は広げる」「記録を残す」という方針で、あえて「無駄かもしれない」コミュニケーションも大事にしよう、と。リアルオフィスにいた時よりも(オンライン)会議の頻度は増えました。定例のものと随時開催のものも含めて、週10回は開催されていました。ITに強いメンバーが大半だったので、オンラインツールの使いこなし、ペーパーレスへの移行は比較的スムースでした。
ツールはMSのTeamsやZoom、SkypeなどとMSのメール/シェアポイントなど。その他必要に応じて携帯電話(音声通話)やLINEも。
オフィスにいた時よりもむしろ「カジュアルな挨拶」や「近況報告」を頻繁にするようになりました。
・メンバーの心の問題をいかに解消するか
もともと日本の企業がリモートワークに消極的だったのは「従業員がサボるから」ではなく「従業員が自分のペースで働き過ぎてしまう」懸念があったからです。個々の従業員に過剰に「責任」を持たせてしまう日本式のマネジメントの闇ですね。「他のメンバーに相談出来ない事」「自分が失敗したと思う事」「疲労感」などの仕事関係だけでなく、自宅にずっと居ることで生じる家族との問題、親の介護や子育てとの兼ね合いなどの個人生活に関することも、とにかく「隠さずにお互いで共有して、相談しよう」というのをメンバー間の約束事にしました。飲み屋での愚痴で解消される場合も多かったのでしょうが、それも難しくなったので。
自分で「些細なこと」だと思うことを抱え込んでしまうと、それが徐々に心を蝕んでしまうので、包み隠さずに吐き出し合おう、と。すぐに解決策が見つからない場合もありますが、吐き出してしまったことで一旦整理が付く問題もあります。
・仕事(プロジェクト/タスク)の進捗状況をいかに可視化するか
これはいわゆるプロジェクトマネジメントツールを導入して可視化しました。それ以前にも環境はあったのですが、オフィスに集まって「進捗会議」が出来る状況だとPMツールのありがたみが薄れるのでフル活用されていませんでした。様々な種類・規模の「プロジェクト」が並行して走る日本企業のマネジメントスタイルには合わない面があります。経過報告を書いているうちに終わってしまうプロジェクトもありますからね。ただ全てがオンラインコミュニケーションに移行して、それぞれが働く時間帯もバラバラになってくると、やはり可視化は重要です。
プロジェクト毎にリーダーを立てて、タスクを振り分けして、進捗と課題を記録していく、というシステム開発系では当たり前のやり方が、他の業務領域では意外とちゃんと行われていない場合も多いですね。
結局はこれをやらないと「リソース(人材、費用、時間、必要な環境の整備、など)」をどう割当てるべきなのかが判断出来ないので、プロジェクトが滞って、人材も疲弊していくことになります。結局は「キャパのある有能な人材」に多くのタスクが振り分けられることにはなってしまいますが。
働いていて病んでしまう原因のひとつはタスクに対して充分なリソースが割当てられておらず「何とかしろ」とか言われること。リソース不足は担当者の責任ではないはずですが、日本型のマネジメントでは「それを何とかするのが担当者の仕事」という間違えた解釈が横行していますね。それこそがマネージャーの役目なんですが、そういうことも知らずにマネージャーにアサインされてるひとも多いですね。リソースの状態が可視化出来ると、不足も偏りも分かるので、マネージャーの一存ではなくチームとしてどう解消するのかを検討することが出来るようになります。
あらゆるプロジェクトでは「目的」と「手段」が混同されやすくて「手段が目的化してしまう」ことも起きやすいので、そこを再整理することも必要になりますね。
・創造性をいかに維持するか
広報業務、特にウェブメディア周りはどんどん流行が変わっていって、自分が生活者として接して理解していかないと、どんどん感覚がズレていってしまいます。YouTuber、VTuber、TikToker、などに自分もなってみて、発信側と情報消費側の両方の感覚を掴む必要があります(そこから副業に繋がる人もいるかもしれません)。そこまで極端な例でなくてもオリジナルのウェブコンテンツを作り続けていこうとすれば、世の中の関心事の変化に敏感でなければなりません。結局は世の中にある沢山の情報/コンテンツを体験してみることが大事で、普通のオフィスでこれをやっていると、他の部署からは「あの連中はいつもYouTubeとか観ている」「なんか遊んでいる」と勘違いされがち。
リモートワークだとそういうところに気を遣わなくてもいいのが大きいです。音楽を聴きながら仕事してもいいし、テレビをつけっぱなしにしてもいいし、YouTubeで何かを流していてもいい。極端な話、ゲームしていてもいいし、お経を唱えながら仕事してもいい。
本当に一番いいのは「クリエイター」達と一緒に遊びながら、彼らの視点や手仕事を実際にそばで見ることですが、今の時代はそれをウェブメディアで擬似体験も出来るので。
効率化だけに走らないように、バランスを取って「(オンラインで)遊ぶ」ことを推奨していました。
・成果をいかに可視化して評価するか
リモートワークの最大の課題は「お互いの顔色が見えない」ことかもしれません。ビデオ会議の画質もだいぶ良くなりましたが、よほど知っている間柄でないと、顔の表情の変化までは読み取れません。
仕事の「指示」はオンラインの方が明確になるので、便利ですが、個々人の、あるいはチームとしての「成果」の評価をいかにフィードバックするか、とくに「褒める」かはオンラインでの日本人のコミュニケーションで一番苦手なところかもしれませんね。それを怠ると、メンバーのモチベーションはどんどん下がっていきます。数字に合わられる成果だけでなく、ちょっとした工夫や気遣いなども成果として把握して、評価してあげるべきです。
プロジェクトマネジメントツールは「進捗管理」だけに使うのではなく「(小さな)成果」を可視化するツールとしても使えます。オンライン会議も(意図的に)褒める場として使えます。
成果管理としてはMBOが全社的に導入されていましたが、やはり「抽象的な目標設定」に偏ることも多くて、それだけでは成果管理が難しいし、モチベーションの維持にも工夫が必要ということですね。
2, 仕事の内容とリモートワーク(その2)
もう少し具体的に体制も含めた説明をすると
・中核メンバーは10名程度、それぞれがプロジェクトリーダー
・スタッフは、システム系が10名程度、コンテンツ系が数名程度、データ解析系が数名程度、プロモーション系が5名程度、その他プロジェクトに応じてスタッフィング
・社内の他部署との連携プロジェクトが10テーマ程度
・外部スタッフが5-10企業程度
という規模感で、システムの大幅改修の期間はさらにスタッフが増えました。
どのプロジェクトも基本的にはオンラインでコミュニケーションを取って進めていました。各自がお互いのスケジュールをスケジューラーで公開してあり、定期ミーティング以外は空き時間を検索してミーティングを調整して、インバイトされたら断れないルール。
すべてのオンラインミーティングは
・事前にアジェンダを作成して、共有
・発言機会は参加者全員にある
・議事録を取る、必要ならビデオ会議を録画
・議事録はすぐに共有
・ミーティング内でタスクの割当て、担当者、スケジュールを決める
というルール。
まぁ、単なる情報共有のミーティングもあるので、最後の項目は守られない場合もありましたが。
「チームとしての(文化的な)健全性」を定点観測する試みも全社的に行われていましたが、ライン業務とスタッフ業務でも異なるし、個人裁量の範囲によっても異なるはずなので、まだ試行錯誤という段階だったと思います。
*仕事をする上で支障があったのは他のメンバーで、小さい子供がいる家ではビデオ会議中に子供が乱入してきたり(たぶんリビングルームで働いていた)、夫婦で家事を分担していて、パートナーの体調が悪くなった場合には仕事どころではなくなったり。もともとオフィスに出勤していた時には参加出来ていなかった広義の「家事/家庭生活」の一端が見えていました。それが垣間見えるようになったのは「チーム」の雰囲気を良くして、団結力を高める方向に作用したのではないかと思います。
3, 海外企業との仕事の中でのリモートワーク体験
数年間、海外(カナダ)の企業と一緒にプロジェクトを行っていたことがあり、自社のコンテンツサービスのインフラを委託していました。2010年代の話です。
そのカナダの企業は従業員数100名強の規模で、カナダ人といっても、フランス系、ロシア系、インド系、南米系、インドネシア系、など出身はそれぞれ。共通語は英語ですが、訛りの強い人もいます。
当時すでに日本よりもリモートワークは進んでいました。
時差があるので、日本-カナダ間の会議は日本の早朝か夜。環境的にはまだ「音声会議」でした。カナダ側ではリモートワークも推奨されていて、というか「個人の生活を大事にする」ことが徹底されていて、通勤を減らす為に幹部クラスは自宅にかなり立派なホームオフィスを構えている人も。ある時は電話会議をしていると参加者のひとりの周囲がちょっと騒がしいので、聞くと「ああ、いま娘の学校に迎えにいく途中で、運転中なんだよ」と。24/365稼動させる必要のあるインフラを提供している企業だったので、「いつでも、どこでも働ける」環境にしていたようです。
日本側はまだリモートワークが本格的に導入されていない時期だったので、メンバーは早朝に出勤して、会議室に集まって電話会議に参加。またシステム開発の最盛期になると、カナダ側のエンジニアとは向こうの時間帯に合わせて打ち合わせしなければならないので、自宅から日本時間の深夜2時とかから打ち合わせしていました。
仕事の品質という面では日本側も負けていなかったと思いますが、カナダ側は「残業せずに必要なタスクをこなす」為に徹底的に効率化を行っていました。
・各自に与えられるタスクはブレイクダウンされていて明確で、それ以外のことはさせない
・必要なマニュアル類は整備されていて、すべてオンラインで参照可能
・参加している会議中に自分の出番じゃない時はメール打っていても良い
・誰かが休む時にはタスクの振り直しをマネージャーが行う
・幹部クラスも数週間の夏季休暇を取る
・成果もミスもデータ化されていて、それを根拠に評価
などなど。
それを見ていて「いつか日本の働き方もこういう風に変わるはずだ」と感じました。思ったよりも時間が掛かりましたが。
4, リモートワークとオフィスのあり方
2000年代には自社の「これからの働き方/これからのオフィスのあり方」の検討プロジェクトに参加していました。外資のIT系企業、戦略コンサル企業、オフィス環境提供企業、など様々な先進的なオフィスに見学に行き、参考事例を集めていました。
当時提唱されていた基本コンセプトは「街のオフィス化、オフィスの街化」というやつ。
街のオフィス化
仕事が出来るカフェなども徐々に増えつつあったので、企画・営業などお客さん(企業)を訪問して打ち合わせする必要のある職種は、帰社せずにお客さんの近くにそういう場所を見つけて、ラップトップで業務処理や製造指示を行う。
単に移動時間の節約になるだけでなく、自社オフィスの外で様々な人がいる環境の中で感じ取ること、流行や生活者の行動変化、他社の人達の働き方を見ることで、刺激を受けることが大きなメリットになるはず。
オフィスの街化
オフィスの中に「集中して作業する場所」「数人で相談する場所」「数人で共同作業する場所」「リフレッシュする場所」「発想する場所」などを設けて、各人は自席に留まらずに、必要に応じて移動してそれぞれの場所を使い分ける。リフレッシュは大事なので居眠りしても良い。
副次効果として「移動する中で出会う他の社員」とのちょっとした会話や情報交換が活性化、コンテキストの共有や人脈形成が進むという期待。実際こういうコンセプトに合わせて環境整備やオフィス設計を進めている企業も多かったと思います。
ところが前者については、タイミングが悪いことに「情報漏洩」「個人情報保護」など課題となって顕在化して、気軽にラップトップを持ち出したり、カフェや新幹線の中で開いたり出来ない風潮になってしまい、一気に減速化してしまいました。
それをちゃんと対策した企業や、あるいは「リスクはあるが」と割り切って使い続けた個人事業主やベンチャー企業だけが恩恵を受けた感じでした。
後者については、実際に取り組んだ企業も多かったのではないでしょうか。そこまで極端でなくても、「自席」という概念を無くしてフリーアドレス制にして、社内のどこで仕事をしていも良いというオフィスは増えたのではないかと思います。また「一見仕事をしているようには見えない」状態でも実は頭の中は全集中している場合もあるので、見た目だけで判断しない、というのも徐々に理解されてきていますよね。
随分時間は掛かりましたが、自社のオフィスも「街化」して、ノマドワーカーが増えました。パンデミック後は服装もまるでITベンチャー企業みたいな人も増えました。
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