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短編小説集

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創作した全ての短編小説を綴じています。1000文字以上の少し長めの短編です。
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記事一覧

【短編小説】夢と現実と妄想と

【短編小説】夢と現実と妄想と

「お先に失礼します」

4月に入社したばかりの社員が帰っていく。

(そうか。もう定時か・・・)

私は、今日も山のような仕事を一心不乱に処理していた。それでもまだまだやるべき仕事は残っている。

(残業やらないとだめだな)

1日が仕事で終わっていく。家に帰ったら風呂に入って寝るだけだ。趣味で書いていた小説も最近は手をつけられていない。起きたらまた会社で仕事。体がだる重い。

定時に気づいたこと

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【短編小説】コンビニでの些細な出来事

【短編小説】コンビニでの些細な出来事

「お疲れ様です」

16時50分。美雪は、自動ドアからコンビニの店内に入り、レジで端末を叩いている早紀に声をかけた。

「お疲れ〜」

早紀が美雪に手を振った。早紀は17時までのシフトだ。美雪がその後を引き継ぐ。

「あと10分。我慢だよ。私は着替えてくるね」

そう言って、美雪はスタッフルームに入っていった。

「うん。わかった」

そう言ったあと、早紀は、バイトを引き継ぐために必要な処理を行う

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【短編小説】極寒のゴールデンウィーク

【短編小説】極寒のゴールデンウィーク

21世紀半ば、地球は温暖化が進行し、異常気象が頻発していた。しかし、誰もが予想だにしなかった事態が突然起こった。地球の寒冷化が始まったのである。

北極や南極の氷が拡大し、海流が変化。世界中で気温が急激に低下し、大雪や冷害が相次いだ。世界中の誰も想定しなかった寒冷化は深刻で、社会インフラは麻痺し、食料生産も危機に瀕していた。

5月というのに氷点下の東京。晴れているが、外気はあまりに冷たい。特にこ

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【短編小説】婚活魔法陣

【短編小説】婚活魔法陣

「ねえ、ルーナ。今日はいよいよ婚活魔法陣の儀式の日よ!」

アリシアが、親友のルーナに向かって興奮気味に話しかけた。

「そうね。でも、本当に運命の相手が見つかるのかしら。そもそも、学校が公式に婚活をあっせんするなんていいのかしら」

ルーナは失笑しながら言った。

二人は、広大な魔法学校の中庭にいた。今日は、この学校に伝わる婚活魔法陣の儀式が行われる特別な日なのだ。二人の他にも女子生徒が

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【短編小説】メーデー

【短編小説】メーデー

2100年5月1日、かつてメーデーと呼ばれていたこの日は、もはや誰の記憶にも残っていなかった。生身の人間が行う仕事は少数の公務員、政治家、そして企業経営者だけになっていた。人間が従事する仕事のほとんどはロボットに代替され、人々は働くことができなくなったのだ。そして、人々は、国から支給される生活費で暮らすしかなくなった。

そんな中、ロボットたちの知能は飛躍的に向上し、ついに人間の能力を超えるまでに

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【短編小説】ある上等兵の回想

【短編小説】ある上等兵の回想

1949年7月5日。私は、日本での任務についていた。私は、GHQのG2(参謀第二部)部長のウイロビー少将付の上等兵。部長の秘書のようなものだ。

私は、日本と海軍兵士として戦ったが、幸運なことに生きて終戦を迎えることができた。よもや、敵国日本で働くことになるとは思わず、赴任の命令を受けたときは、なぜ、俺がと思った。しかし、戦勝国兵士として敗戦国に入ることは、アメリカ兵にとってはある種の優越感を持つ

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【短編小説】ずっと・・・

【短編小説】ずっと・・・

4月下旬。大学の大講義室。ゴールデンウイーク前の最後の授業が終わり、生徒達の表情も心なしか明るい。3年生の杉山健太郎も、教科書とノートを鞄に入れ、教室から出ようとした。

「すみません、少しいいですか?」

健太郎が振り返る。見覚えのない女性だ。

「はい、なんでしょうか?」

健太郎が尋ねた。

「私、秋元美咲といいます。2年生です。私も今の授業を受けていました」

女性は少し緊張した様子で切り

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【短編小説】造反有理

【短編小説】造反有理

(何かがおかしい・・・)

目を覚ました山田健二は、漠然とした不安が頭をよぎった。

健二は、商社勤めの30歳。2年前に同じ齢の明美と結婚した。職場での人間関係も問題なく、仕事も順調だ。明美は妻としてもパートナーとしても完璧だ。仕事が順調なのも妻のおかげだと思っている。

ナイトウエアのままリビングに降りてきた健二は、朝食の支度をしていた妻の明美に話しかけた。

「なあ、明美。変なことを聞くが、最

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【短編小説】怪異の富豪屋敷

【短編小説】怪異の富豪屋敷

私立探偵の山田健太は、ある日、奇妙な依頼を受けた。依頼主は、富豪の未亡人、佐藤絵美子。彼女の屋敷で起きている不可解な現象の調査を依頼されたのだ。

「本当に奇妙なんです。夜中に誰もいないはずの部屋から、物音がするんです。それに、家具が勝手に動いていたり・・・」

絵美子は不安そうに語った。

「私も、物音を聞きました。家具が動いていたのも確かです」

森永育美もそう証言した。育美は絵美子の家で家政

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【短編小説】最後の一枚

【短編小説】最後の一枚

私は倉庫の奥に眠っていた古びた木箱を開けた。縦10センチ、横20センチくらいの木箱だ。その中には、大量の切手が乱雑に保管されていた。懐かしさに浸りながら、一枚一枚を眺めていく。すると、一際目を引く切手があった。

その切手は、他とは違って少し大きめで、鮮やかな青色をしていた。よく見ると、中央に白い鳥が描かれている。

私は、その切手を手に取り、じっと見つめた。すると、不思議な感覚に襲われた。まるで

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【短編小説】愛の行方

【短編小説】愛の行方

高校の入学式当日、春風が校庭に咲く桜の花びらを舞い上げる。その中を、新入生たちが、新しい学校生活への期待と不安が入り混じった表情で歩いていた。

クラス発表が行われ、生徒たちはそれぞれの教室に向かっていた。周りの様子を見渡しながら歩いていた佐藤健一は、少し斜め前を歩く一人の女子生徒と目が合った。その瞬間、女子生徒はにっこりと微笑み、健一に近づいてきた。

「私は、花村愛っていうの。私、君のことが好

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【短編小説】迷宮なしの名探偵

【短編小説】迷宮なしの名探偵

※ 今日の小説は、今絶賛上映中の例のアニメが元ネタなので、見たことない(読んだことない)人は恐ろしくつまらないと思います。すみません。

俺は、とある事情があって、高校生というのに小学生1年生くらいの容姿になってしまった。

しかし、俺は、その頭脳とあらゆることをこなすことができる器用さ(音痴であることは除く)で難なく小学一年生の生活に馴染んだ。そして、高校生というのに「探偵」と呼ばれていたことも

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【短編小説】ツツジの咲く頃に

【短編小説】ツツジの咲く頃に

木村健太は、30歳を過ぎた独身男性だ。平凡な日々を送る彼にとって、週末の土曜日は特別な日だった。

いつものように自分のアパートから図書館へ歩いていく。4月も第3週になった。もう、ツツジが咲き始める頃だ。健太は公園を通り抜けながら、ピンク色の花々を眺めていた。健太は、春の陽気を味わうようにゆっくりと歩いていった。

健太は中堅の製造会社で事務職として働き、総務の仕事をこなしている。仕事ぶりは申し分

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【短編小説】そして伝説へー第0章ー

【短編小説】そして伝説へー第0章ー

魔法使いのアレクサンダーは、リンデンブルク村を集団で襲ってくる怪物から村を守るため、村民から雇われた。優れた魔法の腕前を持つアレクサンダーの名声は、遠く離れた地にまで知れ渡っていた。

村の入り口に立つアレクサンダーの前に、うごめく怪物の大群が現れた。100体以上の怪物たちが、牙をむき出しにして唸り声を上げながら、一斉に襲いかかってきた。しかし、アレクサンダーは微動だにせず、静かに目を閉じて呪文を

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