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シン・映画日記『FALL/フォール』

MOVIX三郷にてイギリス映画『FALL/フォール』を見てきました。


久しぶりにソリッド・シチュエーション・スリラーらしい作品で、しかも少ない登場人物の中での人間関係の深彫りと深層心理をついた超傑作のソリッド・シチュエーション・スリラーだった!!

主人公ベッキーは彼氏のダンと友人のハンターの3人でロッククライミングをするが、この時、ダンを滑落で亡くし、以降およそ1年間ベッキーは傷心で塞ぎ込んだ生活を送る。ある日、久しぶりにハンターから連絡があり、600mあるテレビ塔へ一緒に登る動画企画を提案され、ベッキーはハンターに押される形で企画に参加することに。

ここから、二人はテレビ塔にハシゴで登るが、頭頂後、少し下のセクションに戻ろうとした際にテレビ塔の全体的な老朽化からハシゴが落ちてしまい、高さ600mのテレビ塔の上で遭難状態に。

東京スカイツリーの634mとほぼ近い地上600mの足場が畳1畳ぐらいの足場しかない場所での遭難劇は見たこともないシチュエーション・スリラー。
物凄いアイディア賞作品だが、
主人公ベッキーの彼氏ダンの喪失感と悪夢を見る程のトラウマ、父親との関係も上手くいかない様子など、テレビ塔に登る前にしっかりと人物像が描けている。
彼女のバディとなるハンターの人物像も良く描けていて、向こう見ずで楽天的で、SNSにハマっているため承認欲求が高く、それが災いを招くタネとしてよく設定されている。
二人の冒険性とロッククライミングをする体力から、テレビ塔に登る様子やその後の厳しい地上600mのサバイバルも決してご都合ではなく、納得いく。

それとこの映画、随所でアルフレッド・ヒッチコック監督の映画の影響が見受けられる。
地上600mから下を見下ろすやつはもちろん『めまい』だが、白頭の鷲を随所で出し、襲ってくる様子はまさしく『鳥』になっている。しかも、この鷲のシーンで意外にもグロ描写があり、パニック映画としてより盛り上がる。

この映画、遭難パニック&サバイバルだけで終わっていない所を高く評価したい。
サバイバルしている極限状態から二人の関係の奥底にあった物が引き出せたり、数少ない塔の近くの通行者たちの反応もある種人間らしい。
地上600mだけあって、その唯一無二とも言える風景はどの角度からも絵になるとにかく地上600mの稀なシチュエーションをふんだんに活かしている。
リュックや靴、ドローン、充電器など数少ない小道具も非常に上手く使え、しかも伏線回収をも見せている。

さらには音楽もいい。
ウォレントの代表曲「チェリーパイ」を随所でしかも的確に使っている。以前、『ジャッカス』シリーズでも使われていた80年代末期のアメリカンハードロックの名曲で、
『ジャッカス』の時もそうだが、向こう見ずなバカに不思議とぴったりな曲である。
それと、あるアメリカの童謡を口ずさむシーンがあるが、よりによってその曲を歌うか、と突っ込みたくなる強烈なブラックジョークでここを見逃してほしくない。
煽りのSEやBGMもベタだがしっかりしていて、音楽にはかなりこだわりが感じられた。

まさしく天の神が「ウェーイ!」と登ってきたYoutuberへの天罰であり、
極限の状況下での人間と心理がよく描かれている。

単なるシチュエーション・スリラーかと思いきや、高さの恐怖を徹底的に描き、人間の深層心理をついたヒッチコックイズムもラストまで浸透している。
『キューブ』や『SAW』、『127時間』、『ロスト・バケーション』に並ぶ超傑作のソリッド・シチュエーション・スリラーである!!

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