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1〜3分で読める!〜1800字以内の創作小説
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【1話完結小説】隣人

【1話完結小説】隣人

ある春の朝、私はむずがる3歳の息子をマンション下の公園に連れて行こうといつもより早い時間帯に玄関を出た。
出たところでちょうど隣室のドアも開いた。このマンションに越して3ヶ月、隣人と初めての遭遇だった。今から出勤するのだろう。パンツスーツとヒールが板についたアラフォーと思われる女性だ。
「あ、おはようございます」
思わず声をかける。何度か引っ越しの挨拶に伺ったのだが、タイミングが悪く今まで会うこと

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【1話完結小説】140字の向こう側

【1話完結小説】140字の向こう側

「140字で紡げる物語なんてたかが知れてる!限界だ!もう、このジャンルは限界なんだよ!」
トーマは突然悲痛な叫び声をあげその場に崩れ落ちた。
「150字じゃダメなんですか?160だと不都合あるんですか!?」
頭を抱えながらブツブツ呟き続けているトーマは、Twitterの創作アカウントですでに300以上の140字小説を発表していたが全くもって鳴かず飛ばずであった。
俺は震える彼の肩に手を置いた。

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【1話完結小説】セクシー美女になりたい

【1話完結小説】セクシー美女になりたい

もしも願いが叶うならセクシー美女になりたい。
好みの服に身を包み、毎日男に言い寄られ、その日の気分で遊び相手を取っ替え引っ替え。しかし「本当の私を見てくれる人はどこにもいない」と心には常に冷めた風が吹いていた。最終的に選んだ男は胡散臭いがカリスマ性のあるIT社長で「この人だけが私の真の理解者だ」と半ば洗脳されつつのモラハラ奥様ライフ。我に返り離婚成立した時には美貌のピークもとうに過ぎていた。外見に

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【1話完結小説】お母さん型AI

【1話完結小説】お母さん型AI

家に帰るとお母さん型AIが台所から明るく声をかけてきた。
「お帰りなさい!今日の夕飯はカレーですよ」
言いながら、手慣れた仕草でテーブルの上にミルクたっぷりのカフェオレと手作りクッキーを素早く並べる。
「今日も疲れたでしょうから、まずはおやつでもどうぞ。食べる前にちゃんと手を洗ってくださいね」
言われなくても外から帰れば当然手ぐらい洗うが…お母さん型AIは帰ってきた家人にそのように一声かけるプログ

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【1話完結小説】コツコツコツ

【1話完結小説】コツコツコツ

コツコツコツ___

真夜中。私の部屋の窓ガラスを外から誰かがノックしている。ここ、アパートの5階なのに。
…なんてよく聞く幽霊話。無視すりゃいいじゃん。カーテンさえ開けなきゃ外に何がいようが分からないよ。私は今、そんなもの相手にしてる場合じゃないんだから。イヤフォンを耳にはめ、お気に入りの音楽を聴きながら目を閉じた。段々意識が遠のいていく。

…なんてごめんね。無視されるのって辛くて悲しいよね。

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【1話完結小説】感情

【1話完結小説】感情

パタン。
「ふぅ」

読み終えたばかりの小説を閉じて僕は思わずため息をついた。

家族愛がテーマの短編集だった。どの話もとても良くできていて、読書中何度も涙が溢れた。
なのにどうして。
どうして僕はそれらを他人事だと捉えてしまうのだろう。自分と家族の間には、小説の中みたいな愛や思いやりに満ちた出来事は起こり得ないと考えてしまう。
小説を読みながら泣くことはあっても、リアルの世界でそんな風に大きく感

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【1話完結小説】良い母親

【1話完結小説】良い母親

子供を持ってからずっと、「良い母親」の影が私を執拗に追ってくる。

そいつは時に私の母親の顔だったり、近所のママ友の顔だったり、情報番組のコメンテーターの顔で私をじっとりと見つめてくるのだった。
私が子育てで何か失敗をする度に、「昔の母親はもっと我慢強かった」「そんな接し方じゃ全然言うこと聞かないでしょ」「最近のお母さんは孤立しがちだから地域コミュニティをもっと活用すべきですね」としたり顔でまくし

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【1話完結小説】木瓜

【1話完結小説】木瓜

介護ベッドの上から爺さんが叫ぶ。
「婆さんや、ご飯はまだかね」
隣の部屋からヨタヨタと杖をついた婆さんが近付いてきて優しく答える。
「嫌ですよお爺さん、さっき食べたじゃないですか」
「何!?ワシはまだ食っとらんぞ!昨日からもうずっと食っとらんぞ!さてはお前ワシを殺すつもりだな!?この人でなしが!」
瞬間湯沸かし器のごとく急に激高した爺さんは側にあった湯呑みを掴み婆さんに投げつけようとしたが、その腕

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【1話完結小説】何者

【1話完結小説】何者

彼女がぷりぷり怒りながらやって来てまくしたてる。
「知らんけど、が流行ってるんやって。よその地域の言葉を面白おかしく使わんで欲しいわ。ホンマ腹立つ。大体軽い気持ちで“使ってる私(俺)、おもろない?”って思ってんのが見え見えでめっちゃムカつく!そんなんに飛びつく人って絶対自己顕示欲強いアホやねんで。ほんで飽きたらすぐ使わんくなんねやろ」




…アレ?僕は不思議に思って尋ねた。
「この流れだ

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【1話完結小説】Toおじさん Fromおじさん

【1話完結小説】Toおじさん Fromおじさん

寒くなってきたケド風邪などひいてないかな😷❓❓

ところで、最近TV📺やSNS💻でおじさん構文がダメ出しされてるからって、意識して絵文字やめたり短文にしたりするのはさ…何か違うし逆にダサいと思うんだヨネ🙅‍♂️💦時代に合わせてアップデート✨するスタンスも大事だけど、そんな簡単に自分がこれまで積み上げてきたもん捨てていいんかな😅⁉️っておじさんは悔しくてなりません🥺

謝れよ💢‼️全

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【1話完結小説】Trick or Treat or …

【1話完結小説】Trick or Treat or …

気だるい仕事帰り。僕はホームセンターに寄ってからいつもより少し遅い時間に最寄駅に降り立った。ライトアップされた駅前通りは浮かれた若者達の仮装行列でごった返している。今日はハロウィン。いつからこんな得体の知れない行事が市民権を得たのだろう。何が楽しいのかちっとも分からない、最低最悪の日だ。

若者達に圧倒されつつ駅前通りを抜け、ふらふらと住宅街に辿り着く。さすがにここまで来ると、ハロウィンの喧騒が嘘

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【1話完結小説】リクエスト

晩御飯の鍋が煮えるまで少し暇だったのでスマホをいじっていると、写真フォルダに覚えのない動画が入っていた。3分間のその動画を再生してみる。どうやら、今日の夕方スーパーへ行くため運転している私を助手席から撮影したものらしい。

「…あっぶな!このオバハンなんで急に車線変更すんのよ、下手くそは運転すな」
「お母さん口悪すぎ」

「まったく、雨降ってるし寒いわー」
「そうだね。僕、夜はお鍋が食べたいな」

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【1話完結小説】プレッピー

【1話完結小説】プレッピー

耳を澄ませてよくよく聞いていると
クルックー
と鳴いている公園の鳩たちの中に一羽だけ
プレッピー
と鳴いている鳩がいた。きっと良いところの出身なのだろう。育ちの良さを感じさせる佇まい。優等生的なカラーリング。
どうか周りに流されずそのままを貫いて欲しいと願うばかりだったが、一週間後、公園へ行くとどの鳩もみんな
クルックー
と鳴いていた。
やはり生き物というのは周りに染まってしまうものなのか…と僕が

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【1話完結小説】因果

【1話完結小説】因果

「この子達がいるから貴女は連れて行けないの。ごめんね」
弟1と手を繋ぎ、弟2を抱っこ紐で体にくくりつけ、母は笑顔で言った。

待って…!待って…!お母さん…!!

30年後。

母が生活保護受給の申請をしたらしく、役所が娘である私を探し当て経済的援助を打診してきた。30年ぶりに会った母は、私にとっては見知らぬおばさんも同然だった。一応孫を見せるつもりで息子達を連れて来たものの、母は興味もないようで

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