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ドレスは学問に貢献できるか?

わたしの活動が、なんと論文に掲載されました。

ドレスの仕事をしながら通信制大学に通うわたしですが、「論述」は大の苦手。このnote上でも、たびたびそのできなさっぷりを披露してきました。そんなわたしが、なんと論文デビューです。といっても、自分で書いたのではありません。

なんと、わたしのドレス活動が、学生さんの卒業論文に掲載されたのです。論文タイトルは「ウェディングドレスから見るファッションの消費文化」です。

wedding dresses!

掲載された論文の内容について読みたい方は、目次から「ウェディングドレスから見るファッションの消費文化」までスキップしてくださいませ。それまでの部分は「インタビュー」を引き受けた理由と、インタビューを受けてわたしが感じたことなどを書いています。

卒業論文に!

掲載されたのは、立教大学・社会学部の学生さんの卒業論文です。現代文化学科でファッションの「消費文化」を研究されている学生さん(以下Nさん)が、わたしが仕事にしているウェディングドレスのリメイクやエシカルウェディングに興味を持ってくださり、インタビュー内容を論文に掲載してくださいました。

ウェディングドレスから見るファッションの消費文化

インタビューを引き受けた理由

大学生のNさんからインタビューの打診を受けたのは、2020年の年末のことでした。最初は、なんでわたしに? という気持ちでした。わたしはウェディングドレスのオーダー制作と、ウェディングドレスのリメイクを個人向けにしております。

とくにお母さまが結婚式に着用されたウェディングドレスを、花嫁さま用にリメイクする仕事は、わたしがもっとも大切にしている仕事のひとつです。もちろんリメイクならではのむずかしさもありますが、家族の思い出や物語をつなぐ、とても意義のある仕事だと考えています。まだ数自体は多くないのですが、コロナで結婚式の機会が減少しているなか、リメイクの仕事が途絶えないのはとてもありがたいことです。

ちかごろは社会全体でも環境問題やSDGsへの関心が高まってきており、オーガニックコットンやシルクなどの天然素材でドレスをオーダーしてくださるお客さまも、少しずつですが増えてきたように思います。

ただ、それでもやっぱり業界全体としては、相当なレアケースであるということはじゅうぶんに自覚しております。ビジネスとして成功しているかと問われると、そこはなんとも言えません。いや、むしろ「成功してないです」と正直に言うしかありません。ただ、リメイクは大好きな仕事だし、環境への負荷も少ない。わたしにとって「じぶんの好きと現実社会との間に矛盾のないものをつくること」はとてもしあわせなことなのです。

でもその姿勢は、みる人によったら、きっと「フン、甘っちょろいな」と思われることでしょう。論文はきっとちゃんとしたえらい人が見るのだろうから、こんなわたしでほんとうに大丈夫なのかな、と思ったのです。

それでもインタビューを引き受けてみようと思ったのは、Nさんが、「ウェディングの消費」という言葉を使われたからです。ハッとしました。「消費」、それはウェディングドレスをなりわいにするわたしにとって、少なからずショックな言葉でした。一生に一度しか着ないドレスを「消費する」という感覚がわからなかったからです。けれども若いひとが「消費」ということばを使うには、それなりの理由や、世代の事情みたいなものもあるのかもしれないと、そこは逆にこちらから聞いてみたいなと思いました。

それより何より、Nさんのメールの文面から、「ファッションの諸問題」に真摯に向き合っておられることが感じられ、ぜひ協力したいと思いました。

ドレスが若いひとの学問に貢献できるのなら、こんなにうれしいことはありません。そして、Nさんがわたしを見つけてくださったきっかけはこれらのnoteだったそうです。それはもう、やっぱり、貢献するしかありません!

インタビューを受けるということ

インタビューは昨年の2021年1月、オンラインにて行われました。

仕事に関して、インタビューを受けるということは何回か経験したことはありましたが、オンラインでのインタビューははじめての体験でした。ましてや、これが論文になるだなんて緊張します。

でもきっと、大学生のNさんも相当緊張したと思います。それでも彼女はとてもしっかりとしていて、インタビューの進行もとてもスムーズでした。すごいな、かなり準備されたんだろうな、と思いました。そういうことってやっぱり伝わるものですよね。

のちに大学で「インタビューと取材の方法論」という授業を受け、自分でもレポート課題でインタビューをすることになりますが、この時の「インタビューされる」体験は非常に役に立ったと思っています。そこでも、準備の大切さについて学びました。やっぱり準備するって大事なんですよね。準備をするとインタビューをするときの自信につながり、その姿勢が相手にも伝わって、いいインタビューになるそうなのです。

全然関係ないのですが、今朝の朝ドラ「カムカムエブリバディ」で、時代劇の下っ端役者が、アドリブでとっさに斬られる演技をしました。監督はそれを「ふだんから練習してないと、とっさにあの演技はできへん」と好評価したのです。わたしはちょっと感動してしまいました。ドラマに英文のナレーションが入るのですが、「練習する」を「preparing(準備する)」と英訳していました。

ともすれば「練習する」という言葉には、うさぎ跳びで階段登るとか、1000本ノックだとか、養成ギプスだとかの、根性論的なイメージがつきまといます。(昭和世代だから? )一方で「preparing(準備する)」には、やがて必ず来るチャンスに対しての心がまえ、みたいなポジティブなイメージがあります。とても明るく前向きで、すがすがしい。これからは努力することを「preparing(準備している)」ということにしよう。

「消費」について聞いてみた

インタビューでは、「リメイク」をはじめたきっかけについて質問されました。

もともと、わたしは会社員としてファッションの商品企画の仕事をしていました。会社を独立して服づくりの仕事をはじめたとき、オーダーとリメイクの仕事を中心にすれば、余剰在庫を持たない働き方ができるのではないかと考えたのです。

そんな時に「お母さまのウェディングドレスをリメイクしてほしい」というオーダーがあり、それをきっかけにドレスのリメイクをはじめました。エシカルウェディングの活動も、「できるだけ環境に負荷のない結婚式をしたいので天然素材のドレスを作ってほしい」という花嫁さまのご希望からスタートしています。

つまり、求められていた仕事をしていたらこうなった、というだけの話なのです。でも根本にはやはり、環境問題への意識があったと思います。

だからよけいに、「ウェディングドレスの消費」という言葉にビクンと反応してしまったのです。

ひととおりインタビューに答えたあと、その「消費」について聞いてみました。

Nさんは、ウェディングやファッション業界に興味をもち、調査をしていくなかで、ファッション消費のファスト化に対して多くの研究がなされていることを知ったそうです。そしてその流れに合わせて、ウェディングドレスもファスト消費の傾向が強まっていることに気づき、あえて「ウェディングの消費」という局面を調査しようと考えたのだとか。

そしておそらく、リメイクをはじめとするわたしの活動はその「消費」の対極にあると感じられて、話を聞いてみられたかったのではないでしょうか。

消費と聞いてドキッとしましたが、Nさんのように若い学生さんがファッションへの問題意識を持っておられることを、とてもたのもしく思いました。

ウェディングドレスから見るファッションの消費文化

それではここで、Nさんの卒業論文の概要を説明したいと思います。なお、内容についてここに書くことを本人にはご承諾いただいております。

「ウェディングドレスから見るファッションの消費文化 The consumer culture of fashion from the perspective of wedding dresses」

【要旨】 今日、ファッションのファストな消費文化が問題視され、衣服の大量生産、大量消費に関して多くの研究が行われてきた。その流れに合わせて、ウェディングドレスもファストな消費傾向が強くなっている。しかし、ウェディングドレスは一生に一度しか着ることが無いために、特別感があり、日常着よりも装飾的な衣服である。そして、その制作方法や制作にかける時間も、既製服と異なる。そのため、本研究では日常着と異なる部分の多いウェディングドレスのなかでもリメイクやヴィンテージドレスのウェディングドレスに焦点を当て、ファッション消費の中で見失われている、ものの「物語性」や「受け継ぐ」姿勢を明らかにしている。

「ウェディングドレスから見るファッションの消費文化」立教大学 社会学部 2021年度卒業論文より

論文の前半の第一章と第二章では、研究概要と背景が述べられ、大量消費社会、ファストファッション、消費者への影響などの先行研究が紹介されています。第三章では、ウェディングドレスの歴史や、日本に伝わった歴史までが詳しく調査してありました。

海外の事例から、皇室の婚礼衣装の影響でウェディングドレスが日本に浸透した経緯まで、本当によく調べられたなあと思います。

また、現代の若者たちの結婚式の動向なども調査されていました。SNSの影響や特にコロナ後のフォトウェディングの動向調査など、ふつうに仕事の参考になることばかり。とてもよく調査し、まとめられています。

そして、リメイクやヴィンテージドレスの物語性に注目してくださり、「受け継ぐこと」「物語」についてとても丁寧に言及してくださっていました。

リメイクの過程を写真付きで紹介していただいた

お母様のウェディングドレスを花嫁さまにリメイク

論文の中で紹介してくださったリメイク事例を紹介します。

リメイクを依頼してくださった花嫁さまは語学も堪能な研究者さん。今までご試着したたくさんのドレスのレポートを、事前に提出いただきました(笑)お伺いすると最初にこのドレスを着られたお母さまも、研究をされていて、著書もおありだとのこと。どうもこのドレスは、学術的な運命を持っているようです。そういうことって、なんかあるんです。おもしろいですよね。

花嫁さまはたくさんドレスをご試着されたけれども、どうもピンとこなかったご様子です。ウエストに合わせるとここがダメ、反対にここに合わせるとここがダメ。そして最後にお母さまのドレスを着てみたら、なんとなく合っている感じがして、リメイクしたらどうかということになったそうなのです。

お会いしてみて、花嫁さまがピンとこられなかった理由がわかりました。花嫁さまは上半身がとてもコンパクトな方だったのです。だからどうしても既存のドレスにはウエスト位置が合わないんですね。ところが、お母さまとお嬢さまの体型は似てくるので、そのあたりがぴったりだったのでしょう。いつだってシンデレラドレスは、いちばん身近なところにあるのです。しあわせだってそうですよね。

こちらがリメイク前のお母さまのウェディングドレス。

before

袖を外し、襟ぐりのデザインを変更し、ビジューを縫い付け、スカートにチュールを重ねています。

after

ベルトと、ウエストベルトはそのまま活かしました。お母さまのドレスが、花嫁さまのドレスになりました。

ウェディングドレスのリメイクは、「思い」を引き継ぐ仕事です。ドレスひとつひとつに物語があります。それは世界にふたつとない、それぞれに愛おしい奇跡の物語です。わたしはその奇跡を知りたい。物語を読み、語りつないでいきたいのです。

撮影:michi photography  https://camera-ai.com/wedding/


リメイクをひとつの選択肢として

論文の要旨の終わり頃にこう書いてあります。

 リメイクとヴィンテージのウェディングドレスでは「物語」や「受け継ぐ」ことが重要であると分かった。プロフェッショナルな技術を一消費者として体験することは現代において価値のあることである。本研究で明らかになった上記の点を、日常のファッションに広げていくためには、生産側がものに「物語」を込める必要がある。消費者は流行を追いすぎることを辞め、その「物語」を吟味し、必要な分だけ消費することが大切である。「受け継ぐ」ことは現代の消費文化において、「楽しみ」になり、流行を追い続けるファストな消費サイクルから脱却することが可能であるのではないか。

「ウェディングドレスから見るファッションの消費文化」立教大学 社会学部 2021年度卒業論文より

この部分の、「受け継ぐ」ことが「楽しみ」になる。というところ、とてもいいなあと思いました。そう、ものごとは楽しくないとね。

若い人たちが、ものを大切に受け継ぐことを「楽しい」と思ってもらえるよう、わたしはもうちょっと頑張らないと、いや「preparing(準備する)」をしないとな、と思いました。

リメイクやものを大切に受け継ぐことが、選択肢のひとつになりますように。


どうぞ末永くおしあわせに




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