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foundling ~見つけられた子供4 兄弟の夏~
コートを羽織らなければまだまだ寒さに耐えられない3月上旬。
ある一家が8畳一間のアパートに引っ越して来た。これで3度目の引越しになる。
一度目の引越しは母親が子供たちを置いて逃げてしまった時。二度目は近所の人に児童相談所へ通報され、それ以来頻繁に人が来るようになった去年の夏。そして三度目の今回もやはり児相に通報されてしまったため、逃げるように隣の区から引っ越してきた。
雲竜(うんりゅう
foundling ~見つけられた子供3 私が捨てる~
ユマは無人駅の改札口に立っていた。
雪が降る一月の寒空。まだ明るさが残る冬の夕暮れの中、一人待っていた。
「君がユマ、さん?」
声を掛けられて顔を上げると、20代らしき男性が立っていた。中肉中背の普通のどこにでも居そうな、男性だった。
(やば。やっぱヤバ系のサイトだったかな………)
しかし、男性の方が困っていた。
「うーん。うち、確かに15歳までと書いてあるけど………、君いくつ
foundling ~見つけられた子供2 マリアンの場合~
もし赤ちゃんポストよりもっと身近で、もっと簡単に子供を手放せられる方法があったら、子供が犠牲になる事件は減るだろうか。
もちろん法には触れない範囲で。
それで小さな命が救われるなら、それは良いことだろうか。それとも例え殺されることになっても親元にいるべきだろうか。
もちろん、愛ある親の下で暮らせることが一番の幸せであることは大前提だ。
それでももし、赤ちゃんポストがもっと全国的に存在してい
foundling ~見つけられた子供1 ミツルの場合~
「赤ちゃんポストよりもっと手軽なポストがあるらしいよ……」
そのウワサは女子の間でまことしやかに囁かれていた。ネットでも掲示板でも、そんな話題が上がることが時々あった。
しかしほとんどの者が、ただの都市伝説として面白がっているだけで、真面目にとらえる者はいなかった。
そのウワサを耳にした時、サツキは藁をも掴んだと思った。
少し前から生理が来ていない。正確には五ヶ月前からだ。
心当たりはある
辻の神様 -6月11日-
毎年、6月11日が近づいてくるとそわそわする
また、この日が来る
この日は、この辻に悲しい出来事が起きた日
とてもとても前、この辻で一つの命が失われた
ある雨の日、急いで家路を歩いていた通行人が、ちょうどこの辻に差し掛かった時、よそ見をしていた車に轢かれたのだ
以来、この日が近づくと、一人の美しい女性がやって来る
だから辻の神様は、いつもこの頃になるとそわそわする
また彼女が来る
まるで逢瀬のよう
辻の神様 -おしごと-
信号機が出来てからというもの、辻さんの仕事は減った。
辻の神様の仕事は、辻を見守ること。
見守るだけでいいのだけど、見守るだけじゃつまらないので、辻さんは交差点の面倒を見ている。
辻さんがいる辻は小学校の西側にある小さな交差点。近くの小学校の通学路になっているから、小さいと言ってもそれなりに人も車も行き交う。
毎朝元気に登校していく子どもたち。
それを辻さんはニコニコと見送っている。
朝の7時
辻の神様 -辻さん-
ここに留まるモノはいない。
立ち止るモノはいても。
そこに居るのは……
辻さんをご存知か?
辻さんは辻という名前の人ではない。人でもない。
辻の神様という、いわゆる神様だ。
辻の神様は、辻に住んでいる神様だ。
ただ辻に居るのでそう呼ばれているだけ。
辻さんは中仙道一丁目の交差点に住んでいた。
信号機のない時代、辻さんは交差点の隅っこで寝ていた。
昔はボロボロな祠があったのに、ある日妙な石に取っ
【短編小説】待ち合わせ
“伝説の三人組バンドGVS解散! 年末ライブがラストステージ!!”
スポーツ新聞の見出しにそのニュースが並んだ。スクランブル交差点の巨大スクリーンにおどる文字、しかし立ち止まってそれを見る若者はいない。
ひと昔前、社会現象を引き起こし、一世を風靡した三人組のロックバンド。それがガボールスクリーンことGVSだ。しかしそれもひと昔、いや、ふた昔前のこと。今はもう当時若者だった中高年たちの記憶にし
【短編小説】今日のメニュー
ニャオンと飼い猫のモフが鳴きながら帰ってきた。
雲一つない朝、庭で洗濯物を干していた頼子は、しゃがんでモフを出迎えた。よく見ると、小鳥をくわえている。残念ながらもう手遅れのようだ。
「あら、今日は小さめね。でも自分で食事を捕ってきたんだからエライわ」
モフは頼子の足元で戦利品を器用に前足で挟むと頭から食べ始めた。その様子をぼんやり見てつぶやいた。
「今日のメニューは何にしようかしら?