鳳家実秋

たかやみのるです。主に賞や何かに応募して落選したものを手直しして載せています。 ただ消…

鳳家実秋

たかやみのるです。主に賞や何かに応募して落選したものを手直しして載せています。 ただ消えていくのを待つだけの物語たちに日の目を見せようという思いから始めました。 つたない文章かもしれませんが、物語にお付き合いください。

最近の記事

foundling ~見つけられた子供4 兄弟の夏~

 コートを羽織らなければまだまだ寒さに耐えられない3月上旬。 ある一家が8畳一間のアパートに引っ越して来た。これで3度目の引越しになる。  一度目の引越しは母親が子供たちを置いて逃げてしまった時。二度目は近所の人に児童相談所へ通報され、それ以来頻繁に人が来るようになった去年の夏。そして三度目の今回もやはり児相に通報されてしまったため、逃げるように隣の区から引っ越してきた。  雲竜(うんりゅう)は荷物を運びながら空を見た。パラパラと粉雪が舞い始めていた。 本当は転校

    • foundling ~見つけられた子供3 私が捨てる~

       ユマは無人駅の改札口に立っていた。  雪が降る一月の寒空。まだ明るさが残る冬の夕暮れの中、一人待っていた。 「君がユマ、さん?」  声を掛けられて顔を上げると、20代らしき男性が立っていた。中肉中背の普通のどこにでも居そうな、男性だった。 (やば。やっぱヤバ系のサイトだったかな………)  しかし、男性の方が困っていた。 「うーん。うち、確かに15歳までと書いてあるけど………、君いくつなの?」 「え? あ、あの14歳です。」 「14歳ねえ………。君はもうこの状

      • foundling ~見つけられた子供2 マリアンの場合~

         もし赤ちゃんポストよりもっと身近で、もっと簡単に子供を手放せられる方法があったら、子供が犠牲になる事件は減るだろうか。 もちろん法には触れない範囲で。  それで小さな命が救われるなら、それは良いことだろうか。それとも例え殺されることになっても親元にいるべきだろうか。  もちろん、愛ある親の下で暮らせることが一番の幸せであることは大前提だ。  それでももし、赤ちゃんポストがもっと全国的に存在していたら、救われる命は増えるのではないだろうか。  それともただ安易に子供を捨てる親

        • foundling ~見つけられた子供1 ミツルの場合~

          「赤ちゃんポストよりもっと手軽なポストがあるらしいよ……」 そのウワサは女子の間でまことしやかに囁かれていた。ネットでも掲示板でも、そんな話題が上がることが時々あった。 しかしほとんどの者が、ただの都市伝説として面白がっているだけで、真面目にとらえる者はいなかった。 そのウワサを耳にした時、サツキは藁をも掴んだと思った。 少し前から生理が来ていない。正確には五ヶ月前からだ。 心当たりはある。LINEとあだ名しか知らないけれど、相手は分かっている。  どうして私だけこん

        foundling ~見つけられた子供4 兄弟の夏~

          おつかい

          朝のコンビニから玉子を抱えた少年が出てきた。 8、9才くらいの小学生だろうか。 エコバックを左手に玉子を右手に持って少年はトコトコと歩いている。 日曜の8時前、こんな朝早くに一人少年が玉子を持って歩くのを見て、私は思わず微笑んだ。 きっと親にお使いを頼まれたんだな。 もしかしたら少年が卵料理を食べたくて、自らお使いに来たのかな。 そんな勝手な想像をしながら、少年の姿を追った。 どうやら同じ方向のようだ。 玉子、持ってるエコバックに入れたら良いのに。そう思うも、彼は持って運ぶだ

          辻の神様 -6月11日-

          毎年、6月11日が近づいてくるとそわそわする また、この日が来る この日は、この辻に悲しい出来事が起きた日 とてもとても前、この辻で一つの命が失われた ある雨の日、急いで家路を歩いていた通行人が、ちょうどこの辻に差し掛かった時、よそ見をしていた車に轢かれたのだ 以来、この日が近づくと、一人の美しい女性がやって来る だから辻の神様は、いつもこの頃になるとそわそわする また彼女が来る まるで逢瀬のようだ むこうは丸っきりこちらのことなど気にしてもいないけど 辻さんはそわそわドキド

          辻の神様 -6月11日-

          辻の神様 -おしごと-

          信号機が出来てからというもの、辻さんの仕事は減った。 辻の神様の仕事は、辻を見守ること。 見守るだけでいいのだけど、見守るだけじゃつまらないので、辻さんは交差点の面倒を見ている。 辻さんがいる辻は小学校の西側にある小さな交差点。近くの小学校の通学路になっているから、小さいと言ってもそれなりに人も車も行き交う。 毎朝元気に登校していく子どもたち。 それを辻さんはニコニコと見送っている。 朝の7時半を過ぎると辻さんはそわそわ そわそわ。 そのうちぞろぞろぞろぞろ、子どもたちが

          辻の神様 -おしごと-

          辻の神様 -辻さん-

          ここに留まるモノはいない。 立ち止るモノはいても。 そこに居るのは…… 辻さんをご存知か? 辻さんは辻という名前の人ではない。人でもない。 辻の神様という、いわゆる神様だ。 辻の神様は、辻に住んでいる神様だ。 ただ辻に居るのでそう呼ばれているだけ。 辻さんは中仙道一丁目の交差点に住んでいた。 信号機のない時代、辻さんは交差点の隅っこで寝ていた。 昔はボロボロな祠があったのに、ある日妙な石に取って代わられ、仕方なくそれを枕にしていたが、その石も道路の改良工事で消えてしまい、

          辻の神様 -辻さん-

          天獄 第5話

          「あー、ごくらくごくらく」  湯船に身を沈めると、勝手に自分の口から言葉が飛び出してきた。  幸せは一瞬。  この湯船に入った瞬間に訪れる幸福感。冷えた身体がお湯に触れた途端、心地よい温もりに包まれる。肌にお湯がシュワシュワと染み込んでくるようだ。この瞬間に感じる、絶頂にも似た気持ち良さ 。この一瞬の多幸感が堪らない。  だけどこの幸福はこの湯船に入った瞬間だけ。しばらく幸福感に浸っていると、いつの間にかその有難味はどこに行っている。気づいた時にはお風呂の温かみに身体が慣れて

          天獄 第4話

           世界なんてなくなればいいのに。だけど世界なんてそう簡単にはなくならない。なくなってはくれない。  だから自分の世界をなくすことにした。  そうして見つけたのがこのシャングリラだった。  勿論ホンモノの理想郷や桃源郷ではない。ただしくはシャングリラのような施設だ。至れり尽くせりのサービスだけど、かかる費用は渡航費用だけ。  タダより高いものはないとはよく言うが、ここの支払いはお金ではない。この世で一番価値があるもの。それは何だろうか。人によって価値は異なるものである。とは言え

          天獄 第4話

          天獄 第3話

           ここに来てから幾日かたった。  あれから私は目が覚めたらベッドの上でぼーっと外を眺め、空腹を感じたらカフェでお腹を満たすと、そのままカフェでぼんやり外を眺めたり本を読んだりすることもあれば、部屋でぼんやり外を眺めたり本を読んだり、眠くなったらそのまま寝たりという、なんとも堕落した毎日を送っていた。  ここでの私の目的、というかここに来る者に求められているのは欲を満たすこと。 これまでにすでに満たしている欲があれば、それはそのままでも良い。しかし更に欲を深めたければ溺れるほど

          天獄 第2話

           このリゾート施設のホテルはカフェの隣の建物にある。もちろん雨が降っても大丈夫なように渡り廊下で繋がっている。  ホテルの建物もまた変わっていた。施設自体が起伏に富んだ地形に合わせて作られているため、入り口からではホテルの全貌を伺うことができない。ホテルは他の施設同様に美しい大自然の景観に溶け込むように、ナチュラルな配色の素材で建てられていた。  建物の中は意外と普通だった。ロビーや廊下はふかふかの絨毯が敷かれているものの、造りは簡素で、ここにはお金はかけないという意思が感じ

          天獄 第1話

           いつからか、死ぬことばかり考えるようになっていた。  それも誰にも迷惑かけずにだ。  そんなこと可能だろうか。  例えば病に罹れば、最終的には医療者に看てもらわねばならない。事故も事件もまた同じ。最終的には病院に送られる。  そして死後、最終的には残された家族もしくは親族の誰かの手を煩わせることになるだろう。  そう死はどうしたって、誰かの手を煩わせるのだ。死体がある限り。それが分かっているから中々その先へ逝くことができずにいた。  死を考えているからって、別段、何かある訳

          天獄 第1話

          風のうわさ

          誰かがうわさした 彼が死んだと 彼とは私のこと ああ、確かにそのとおりだ 私は確かにあの日死んだ 誰かに殺された だけども私は今生きている ふむ、どういうことか 殺されたのは私の心であって 私自身が死んだわけではない 私は、あの日犯人に殺されて時を止めた そしてずっと今にいる 今にたたずんでいる ここは地上の空の上 空っぽな地球の上に立っている 人間は消えた あの日、私が消した 私を殺した奴らによって消えた 彼らは知らなかった 私を殺すと

          風のうわさ

          【短編小説】待ち合わせ

           “伝説の三人組バンドGVS解散! 年末ライブがラストステージ!!”  スポーツ新聞の見出しにそのニュースが並んだ。スクランブル交差点の巨大スクリーンにおどる文字、しかし立ち止まってそれを見る若者はいない。  ひと昔前、社会現象を引き起こし、一世を風靡した三人組のロックバンド。それがガボールスクリーンことGVSだ。しかしそれもひと昔、いや、ふた昔前のこと。今はもう当時若者だった中高年たちの記憶にしか留まっていない、忘れられたレジェンド。  ジャーンと音が鳴った。エレキギター

          【短編小説】待ち合わせ

          【短編小説】今日のメニュー

          ニャオンと飼い猫のモフが鳴きながら帰ってきた。  雲一つない朝、庭で洗濯物を干していた頼子は、しゃがんでモフを出迎えた。よく見ると、小鳥をくわえている。残念ながらもう手遅れのようだ。 「あら、今日は小さめね。でも自分で食事を捕ってきたんだからエライわ」  モフは頼子の足元で戦利品を器用に前足で挟むと頭から食べ始めた。その様子をぼんやり見てつぶやいた。 「今日のメニューは何にしようかしら?」  バリバリと食む音がする。しばらく眺めていた頼子がにやりと笑った。  つ

          【短編小説】今日のメニュー