辻の神様 -おしごと-

信号機が出来てからというもの、辻さんの仕事は減った。

辻の神様の仕事は、辻を見守ること。
見守るだけでいいのだけど、見守るだけじゃつまらないので、辻さんは交差点の面倒を見ている。

辻さんがいる辻は小学校の西側にある小さな交差点。近くの小学校の通学路になっているから、小さいと言ってもそれなりに人も車も行き交う。
毎朝元気に登校していく子どもたち。
それを辻さんはニコニコと見送っている。
朝の7時半を過ぎると辻さんはそわそわ そわそわ。
そのうちぞろぞろぞろぞろ、子どもたちがやって来る。
子どもたちは交差点に差しかかると、そばに立っている辻さんを気にすることなく、電信柱に取り付けられた黄色い旗を取り合いながら、赤から青になるのを待っている。
そして、青になりメロディが流れると、わーわー言いながら渡り出す。少し駆け足で渡る子、ふざけて後ろ向きで渡る子、黄色い旗を振り回す子、中にはぐずぐずと白線を踏まないように渡る子もいる。
「おい、早く渡らないと赤になっちゃうよ」
辻さんは気が気ではない。
その横をカシャカシャと自転車が渡っていく。
「あ、そこの自転車。ちょっと気をつけて! 子供たちとぶつかっちゃうよ」
何とか渡り終えた小学生たちは、校門へと消えていった。
青になると、臭い息を吐く自動車たちが我先にと交差点を走り抜けていく。
信号に間に合わなかった子供たちが白線の手前に集まってきた。
遺憾にも、黄色になっても、赤になっても、交差点をすり抜けていく車はいるものだ。
「おい! 子供たちが居るんだ。気をつけろ!」
何度言っても自動車は辻さんの言葉をすぐに忘れてしまう。いや、聞こえていないのかもしれない。
「車は急には止まれないのさ」
信号機が黄色の光で呟く。
信号機は人間が作ったものだけど、心はある。ただ、信号機はしゃべらない。光ることが意思であり、言葉でもある。
「止まれないのじゃなくて、止まる気がないんじゃないか!」
辻さんは憤りながらつぶやいた。
通学路と知らないのか、スピード出して近づく車がいた。
辻の神様が睨みをきかす
途端に車はスピードダウン。
「あれ、あれ?」
困惑気味に通り過ぎていく車。
効果抜群!
子供が登校する道は徐行して!

「ふーう」
まだまだ辻さんの仕事は終わらない。

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