辻の神様 -辻さん-


ここに留まるモノはいない。
立ち止るモノはいても。
そこに居るのは……

辻さんをご存知か?
辻さんは辻という名前の人ではない。人でもない。
辻の神様という、いわゆる神様だ。
辻の神様は、辻に住んでいる神様だ。
ただ辻に居るのでそう呼ばれているだけ。

辻さんは中仙道一丁目の交差点に住んでいた。
信号機のない時代、辻さんは交差点の隅っこで寝ていた。
昔はボロボロな祠があったのに、ある日妙な石に取って代わられ、仕方なくそれを枕にしていたが、その石も道路の改良工事で消えてしまい、今や辻さんの住まいは信号機の中だ。
ただ、意外と心地は良い。三色に光るのは外だから、中は関係ないし、機械熱で冬は暖かい。夏は中も暑くなるから、信号機の上で寝たり、近くの木陰で寝たり、その辺は気ままに適当に。
最近は信号機に合わせて、3色の着流しを着ている。自分ではちょっと気に入っているのだけど、評判はあまり良くない。

たいていは一つの辻にひと神様いる。
つまり辻の数だけ神様がいる設定だ。
ただ、すべての辻にいる訳ではない。
いない辻もある。
最近は人の数が増えた分、交差点も増えてしまい、人不足ならぬ、神様不足な状態。
そういう場合は、近くの神様が面倒をみている。

辻さんは、気づいたらそこに居たので、自分でもいつからそこに居るか知らない。
近くに他の神様はいないようで、仕方がないから辻さんも周辺の辻の面倒を見ている。
「前はいたような気がするんだけどなあ」
今時の辻は交差点と言うらしい
「長くね? 辻のほうが短いのに」
辻さんは今時の言葉についていけない。

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