辻の神様 -6月11日-

毎年、6月11日が近づいてくるとそわそわする
また、この日が来る
この日は、この辻に悲しい出来事が起きた日
とてもとても前、この辻で一つの命が失われた
ある雨の日、急いで家路を歩いていた通行人が、ちょうどこの辻に差し掛かった時、よそ見をしていた車に轢かれたのだ
以来、この日が近づくと、一人の美しい女性がやって来る
だから辻の神様は、いつもこの頃になるとそわそわする
また彼女が来る
まるで逢瀬のようだ
むこうは丸っきりこちらのことなど気にしてもいないけど
辻さんはそわそわドキドキする
こんな時しか会えないなんて

年に一度しか会えない人がいれば、辻にずっと留まろうとする者もいる
辻さんは嬉しい反面、哀しさもある
「あなたはここにいてはいけない。死んだのだから。あそこに往きなさい」
空を指して諭す

少し前に、近くの三叉路で事故があった。
雨が降っていた日だった。ちょうど辻さんは信号機の中で休んでいた。
辻さんが目を離していた最中に事故は起きた。
全ての辻を守り、管理できるわけじゃない。
それでも自分の管轄内で起きた悲劇は哀しい。
事故から数日して彼女はそこに来るようになった。
夕暮れ時の逢う魔が時。
遊んだ子供たちが家に帰る頃になると、彼女は現われ、物寂しげに子供らを見ている。
「子供を残して逝ったのかな?」
彼女が微かに辻さんを見た。
「だったら、いやだからこそ、一度上がっておいで。そこの辻ならいつでも譲ってあげるから」
悲しい目をした彼女は一つ瞬きをして、すうっと去っていった。

辻さんはまた一人。

また、逢えるといいな。

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