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福田恆存を読む

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『福田恆存全集』全八巻(文藝春秋社)を熟読して、私注を記録していきます。
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2023年6月の記事一覧

【閑話】福田恆存とフランス現代思想

【閑話】福田恆存とフランス現代思想

 『現代思想入門』(千葉雅也)を読んでいる。直接的にフランス現代思想というものに触れるのは初めてなのだが、福田恆存の考え方や態度と通じるものを多く感じて驚いている。

たとえば、二項対立のどちらかに正しさを求めるのではなく二元論(多元論)で矛盾を許容していく態度や、絶対的な正しさなるものよりも現実的な生き方に重きを置いている点など。

また新たな視点をもって福田を読めそうだ。

『文学の効用』書きつづけることによつて、その意思の突端がわづかに美にふれる

『文学の効用』書きつづけることによつて、その意思の突端がわづかに美にふれる

 この論文は昭和二十二年に発表された。

福田は、文学の効用を考えるにあたり、まず芸術至上主義とは何を意味するかを問う。人はよく芸術のための芸術を批判して、人生のための芸術を説く。それに対して福田はこう反論する。

屁だってくしゃみだって、身体の健康のために行っている行為なのだ。すなわち人生のために行っている行為なのだ。ただそれをいちいち意識していないだけのことである。つまり同じように、芸術のため

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【閑話】読み終えるなんてことはないと知る

【閑話】読み終えるなんてことはないと知る

 「福田恆存を読む」において行っていたことが、『勉強の哲学 来たるべきバカのために』(千葉雅也)を読むことで、少しばかり自分の中で明瞭になった気がする。 

「福田恆存を読む」は、私という一個の人間が五感をフルに使って福田恆存という人間に対面しようという試みだった。少なくとも意識的な動機はそのようなものだった。これまで私は出来る限り正確に、福田の意を読み取ろうとして注釈を続けてきた。

しかし、私

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【閑話】はじめての文芸誌

【閑話】はじめての文芸誌

 文芸誌なるものを生まれて初めて買いました。まぁこれは買わざるを得ないです。

表紙の似顔絵すごく似てますね。漂う雰囲気も。

面白いです。

えっ、タランティーノ小説家デビューしたんだ。読みたい。

『批評の非運』あへてしらふで酔つてみせる

『批評の非運』あへてしらふで酔つてみせる

 この論文が発表されたのは昭和二十二年である。

ここに批評家に対するひとつの批判がある。
批評家とは自らの手を汚さずに大言壮語ばかりする人間のことであり、彼らには生活がない、というものだ。

福田は答えて曰く。
仰る通り、私には自信が欠けている。「これぞわが生活といふほどの生活もなく、このひとを見よといふほどの自己もなく、汚すにたるほどの手ももたぬ」。だが「そのふがひなさだけは身にしみて承知して

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『文学に固執する心』文学などは社会の役に立たないことは知っている

『文学に固執する心』文学などは社会の役に立たないことは知っている

 この論文は昭和二十二年に発表された。福田は「文学の社会性」について問う。

福田の考える「正しい意味における近代の市民社会」とは何であろうか。それは法律的に支えられた精神の自由であると考えられる。

法律や制度を整えるのが政治の役割だとするのならば、政治の未成熟な場所では精神的自由も得られないことになる。なぜなら、政治が未成熟な場所においては、精神は「政治の無力の尻ぬぐひをさせられる」からである

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