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#クリエイターフェス
失恋墓地|毎週ショートショートnote
「よう、マスター」
私が右手を上げると、マスターは「いらっしゃいませ」と小さく会釈した。相変わらずオールバックがキマっている。もう10年来の付き合いたが、マスターの外見は全く変わらない。
カウンターの中心から、少し左の席に座る。
「水割りでよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
このバーで水割り以外の酒を頼んだことがない。いや、そもそも水割り以外の酒は置いてあるんだろうか。
「今月は1通だ
忍者ラブレター|毎週ショートショートnote
「前職は……忍者?」
「左様でございます」
「特技は諜報活動、暗号作成、暗号解読、暗殺……」
救いを求めるように社長を見ると、社長は目を閉じ、腕を組んでいた。
――任せた。
そういう意味だろう。
数多くの採用面接に立ち会ってきたが、このケースは初めてだ。
「うーん……」
僕は中途採用の面接に来た女性を見た。見た感じはビシッとスーツを着た普通の女性だが、元忍者ということは、変装している可
数学ダージリン|毎週ショートショートnote
――47点。
点数を見て絶望的な気分になった。中間テストは数学の点数だけが低い。苦手教科だからこそ、一番勉強したのに……。
僕は数学の吉野先生に相談することにした。
「先生、一体どうすれば数学が得意になるんでしょうか」
「そうですねぇ。とりあえず、ダージリンティーでも飲みましょうか」
吉野先生はこじゃれたティーカップに紅茶を注ぎ、僕の前に置いた。花のような、いい香りがする。
「ダージリン
スベり高等学校|毎週ショートショートnote
俺の高校は去年建てられたばかりでピカピカだ。最新の設備で、全室冷暖房完備という最高の環境。
しかし、この高校で気に入らないことが1つある。
――校歌がクッソダサい。
その名も……青空スーベニール。
教頭の話によると、校長がどこぞのアイドルグループにどハマりしていて、そのプロデューサーに直談判して校歌を作詞してもらったと言う。
校長、かなーりヤバい奴だな。
スーベニールとは、フランス語で「
秋の空時計|毎週ショートショートnote
ようやく暑さが収まってきた10月の始め、気象庁の気象予報士が投稿したSNSの内容に注目が集まった。
「秋の空は、過去の空を映し出している」
この文章と一緒に、気象庁の定点カメラが撮影したという数枚の空の写真がアップされた。
撮影日はそれぞれ
2023年 10月7日
2014年 10月7日
2005年 10月7日
1996年 10月7日
1987年 10月7日
となっている。9年おきのその
告白雨雲|毎週ショートショートnote
「雨雲が接近しています」
スマートフォンの雨雲通知が鳴る。
――またか。
僕が好きな人に告白しようとすると、いつもこうして邪魔が入る。どうやら僕と雨雲は、好みのタイプの女性が同じらしい。気にせずに出かけようとすると、僕の行く先々で局地的大雨(ゲリラ豪雨)が発生し、周辺は大パニックになる。
そして、確実にフラれる……。
前に、空に向かって
「なんで人の恋路の邪魔をするんだよ! 雨雲のくせに
棒アイドル|毎週ショートショートnote
「超大型アイドル鮮烈デビュー!」
「今までのアイドルの常識を覆す!」
「歴史が生まれる瞬間を見逃すな!」
ある日、煽りまくったCMコピーがネット上に踊った。詳細は一切なく、ただ日時と場所が記載されているだけ。
ネット上では
「新手の宗教勧誘か?」
「壺を買わされるのに一票」
「煽るほど内容はショボい予感」
などと否定的な憶測が飛び交うが、記事は拡散されまくった。
そしてライブ当日……。
ジュリエット釣り|毎週ショートショートnote
「なぁなぁ、お姉さん」
「なによ」
「なんで釣りしとんの?」
「だって、ロミオが来るまで暇なんだもん」
お城の裏の川で、女性とヒグマが並んで釣り糸を垂らしている。
「暇なのは分かるけど、なんで釣りなん? しかも、アウターもベストもリールもシマノやん? ガチ装備やん?」
「近くにシマノの店がオープンしたから、何となく全部揃えてみたのよ。私は形から入るタイプなの」
ジュリエットの姿は、パッと見
しゃべる画像|毎週ショートショートnote
(いやいや音楽室はヤバいって……)
(ヤバいからいいんだよ!)
深夜の中学校。
悪ガキが2人、興味本位で深夜の学校に忍び込んで探検をしている。そして今、まさに怪奇現象が起こる場所の定番、音楽室に入ろうとしている。
いや、怪奇現象と言えば、理科室の方が――ズキューン!(銃声)
悪ガキが2人、怪奇現象が起きるド定番、ここ以外では怪奇現象なんて起こらないんじゃないかと思うくらいの場所、音楽室に入っ