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記事一覧

滅びの花を

滅びの花を

使ってはいけない禁断の魔法だった。

ひとを呪い、焦がれると生まれる花を、

ひとは『滅びの花』と呼んだ。

呪うために生んだ花は、強く、強く

自身を色濃くしていくだけ。

枯れることのないその花は、

少しずつ己を侵食していく。

呪われたのは、

ひとか、

己か。

Synchkrie

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人を呪わば穴二つ…🤭

白梅

白梅

「しらうめ?何それ」

「しらうめさ、ま、じゃ。白梅様。この町を守る御神木じゃ」

煙を吐きながらじいちゃんは言った。

「昔はわしも白梅様と話せたんじゃがのう…」

「今はしらうめとお話できないの?」

「まだ若かった隣のじいさんと、近所の悪ガキを川に流そうとしてサツに世話んなったり、そこらのばあさん騙して金せびろうとしたりしてたら、いつの間にか声すら聞こえんようになっとったな」

かっかっ、と

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蝕

今日も水晶玉を見つめる。

水晶玉に映るのは、私より537歳若い人間の男。
…と、いつもそばにいる人間の女。

楽しく笑う2人。

水晶玉の向こうの彼を見るたび、あの日を思い出す。

森で帽子を無くした私。

隠さなければ、隠さなければ、と必死になって帽子を探していた。

「これ、君の帽子?」

そう声をかけられて見上げると、帽子を持っていたのは人間の若い男。

「あり…がとう」

久々に私の口か

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影

足元に伸びる影を見つめた。

彼女は赤い瞳でこちらを睨んでいた。

彼女もまた泣いていた。

額を触っても、ない。

けれども影には確かにあるのだ。

醜く生えた一本の角が。

Synchkrie

願いを叶える苗木

願いを叶える苗木

『大特価!!』

そう大きく書かれた札は、スーパーの野菜売り場でよく見かける。

しかし、売られているのは玉ねぎやじゃがいもなどではない。

鉢に入った苗木だ。

願いを叶える苗木

「おねえちゃん、その苗木、気に入ったのかい?」

腰の曲がったおばあちゃんは、にんまりと笑ってそう言った。

「あ、いえ、そういうわけでは…」

「今なら税込みで9999円。安くしておくよ」

「えっ」

高っ!この

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人喰い

人喰い



祭りばやしで騒がしかった外も、ようやく静寂を取り戻した。

夜が更ける頃、扉の向こうから数人の忍び声が聞こえた。

「幼な子の肉が好物と聞いていたが、こんな肉の少ねぇガキじゃあ鬼も喜ばんじゃろう」

「一人も捧げないよりはましじゃろう」

大きなものを投げ捨てるような音が響く。

「しかし、こんな汚ねぇガキを食うなんざ、とんだ悪食だなぁ」

「ヒトを食う時点ですでに悪食じゃろうて」

「おめぇ

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手紙

手紙

泣き腫らして真っ赤になった目元、鏡に映った自分はまるでうさぎのようだった。
近くにあったティッシュを取り、鼻をかんだ時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

「郵便でーす」

こんな泣き腫らした顔では外には到底出られやしない。
まあ、郵便を受け取るくらいならいいだろうと、顔を上げないようにして鍵をひねる。

「えっ」

扉を開けると、来訪者と目が合ってしまった。
下を向いたままではあり得ないことだった。

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KERRY

KERRY

僕の名前はケリー。

K、E、R、R、Y、で、ケリー。
何でケリーっていうかって?

実は、初めてもらった名前はキティだったんだ。
K、I、T、T、Y、でキティ。
お姉ちゃんがつけてくれた。
キラキラした金色のメダルに、KITTYって彫ってくれた。
で、メダルをつけた僕は、抱っこされてお母さんのところに連れて行かれた。

「ねえ!見て!この子の名前、キティにしたの!かわいいでしょ!」
「そうね…。

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勝利

勝利

俺が物心つくころには、父はすでに大酒飲みだった。

父のお気に入りの酒は、4リットルのペットボトルに入った焼酎。
それを、がばがば飲むのだ。
ラベルには父の名前、“ 勝利 (まさとし) ” が印字されていた。

「この間の腕相撲大会あったろ!あれで優勝した記念にって、2丁目の酒屋のじいさんが俺用に作ってくれたんだ!」

ある日、そう言って嬉しそうに両脇に抱えながら帰ってきた。
2丁目の酒屋のじいさ

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森のケーキ屋さん【ヘーゼル】

森のケーキ屋さん【ヘーゼル】

オレンジ色の光が窓から差し込み、テーブルが影を作った。空になったグラスとお皿を引き上げ、こぼれていたカスを拭き取る。ティータイムが過ぎると、店内はがら空きになった。

ようやく一息つける。と、ミルクティーを入れていると、ドアのベルが鳴った。

「いらっしゃいませー。あ、ヘーゼル」

「こんにちは〜、あ、もうこんばんは  かな?」

きょろきょろしながら入ってきたのは、リスのヘーゼルだった。誰もいな

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あたたかいもの

あたたかいもの

「おばあちゃんとこ、今朝、雪降ったらしいよ」

廊下とリビングを慌ただしく往復する私を余所に、母は乾ききった手にクリームを念入りに擦り込みながらそう言った。次に言う言葉はだいたい予想がつく。

「だから今日は暖かくしていきなさい」

「うん、でも大丈夫」

「あんたまたそう言って。今は動いてるからでしょ。外出てしばらく経つ頃にはあっという間に寒くなるんだから。カイロだって貼るの嫌がるし、あんた寒が

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