人喰い
祭りばやしで騒がしかった外も、ようやく静寂を取り戻した。
夜が更ける頃、扉の向こうから数人の忍び声が聞こえた。
「幼な子の肉が好物と聞いていたが、こんな肉の少ねぇガキじゃあ鬼も喜ばんじゃろう」
「一人も捧げないよりはましじゃろう」
大きなものを投げ捨てるような音が響く。
「しかし、こんな汚ねぇガキを食うなんざ、とんだ悪食だなぁ」
「ヒトを食う時点ですでに悪食じゃろうて」
「おめぇら鬼さまに聞こえたらどうすんだ」
「どうせ姿は現さんさ。いつものように、明日になりゃあガキの着ていた服だけ外に捨てられてごちそうさん、さ」
「へへっ、悪食でも服は食わねぇのな」
「こら!聞こえてまうぞ!ほれ、おめぇたちも膝つけ!」
手を二度叩いた音の後、経のようにだらだらと長い言葉が唱えられた。
「これで今年も大丈夫じゃろう」
「そういやぁさっき飲みかけてた酒、まだ残っとったか」
「つまみに今朝獲った魚が…」
少しずつ声が離れていく。
風の音しかしなくなり、扉を開けた。
足元には、みすぼらしい格好をした娘が転がっていた。
口に布を通され頭の後ろで結ばれている。
鬼に渡す前に自害されては敵わん、というところか。
覗き込むと、生気のない瞳と目があった。
この目を見れば、自害する気など無いことくらい、わからないものだろうか。
ヒトを食べているところを見たことなど無く、ただ異形であるが故に鬼と呼ぶ。
更には、毎年祭りのあと、頼んでもいない娘を献上物と称して家の前に捨てていく。
その娘たちは決まって皆、小汚い服を着ており、身体中に傷や痣がある。
そして、自分を見てくる双眸は闇を孕んでいる。
「お前、名は」
ヒトは、どちらか。
鬼は、どちらか。
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