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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その6


6.   相棒はゴム




さっそく仕事を伝授し始めようとする細野先輩。
木の作業台の上やら下やらをキョロキョロと何かを
探している模様。



作業台の位置は、ちょうど洗濯機の横。



「ここが6区の人の作業場所。この机1列で3人が作業するから
ちょうど新聞3枚分が1人分の作業スペース。やたら狭いから工夫しないと
すぐ散らかるから気をつけて。まぁ実際にやる時にやり方は見せるよ。あれー?無いなぁ。」



何かを探しながら、とりあえず教え始めてくれた。
先輩は下を向きながら話していたので、
ほとんど聞こえていない私。



【6番テーブルは、この長いテーブルの右側の3分の1のみ使用可能だから
隣に気を付けろ】ということだろう。
隣国に攻め込まれたり攻め込んだりした苦労を
後輩に語る日が私にも来るのだろうか。



細野先輩は優子さんに聞いた。



「俺のゴム知らない?ここに置いてあったのになぁ新品。」


「えー。置いてたら無くなるよー。新しいのあげる。」



な、なんの話だ?ゴム?
いきなりの急展開だ。



優子さんは食堂の横の小さい2畳ほどの事務室のような
小部屋の事務机のような机の引き出しを順番に上から開けていく。



「あれー、無いなー。」



事務机に無かったので、中の部屋に入っていった。
扉が開いた瞬間にコタツのおばあさまが見えた。



すぐに戻ってきた優子さん。



「新しいゴム無いから、私のを使って。
また買っとくよ。」



と言って細野先輩に渡したのは
オレンジ色の指サックだった。



細野先輩はその指サックを受け取って言った。


「優子さんのお古か。良かったね、はい。」



そう言って私にその指サックを手渡してくれた。


キョトンとしたまま受け取る私。



「あ、嫌だった?」

細野先輩が笑いながら言った。


「いや、全然使ってないし。」

優子さんがすかさず突っ込んだ。

「・・・・」

私は何を言っていいのかわからずに
突っ立ったままで居た。


私はまだ冗談に参加できる器を
持ち合わせていなかったので
沈黙したまま指サックを眺めた。



「それが無いと仕事にならんからね。大事にポケットに入れといて。」



そう言ってオッサンが機械で一つにまとめてくれただけのチラシを
手に取って6番テーブルの方へと持って行った。
そのチラシにはオッサンの汚い字で書いた【6区】と書いた紙が
挟んであった。



「それ6区の分。全部こっちに持って来て。後ろの台に置いていって。」



「えっ?あ、はい!」



ついに仕事が始まった。



初めての作業だ。



私は貴重な、おさがりの指サックをジーパンのポケットにしまって
チラシを先輩の元へと運び始めた。



先輩はクールにチラシを手に取り
爽やかに台の上でそれを叩き始める。



シュルッ、タンタン!
シュルッ、タンタン!



リズミカルに手際良く
チラシを立てたり横にしたりして
整えていく。
右手で立てたままのチラシから
少しはみ出している何枚かの広告を
折れないようにふんわりと右手で叩く。


チラシ達がどんどんと綺麗に整っていく。



オッサンはただ機械でひとまとめにしたチラシを
区域分ごとの枚数にして置いておくだけの
粗い仕事しかしていなかったことが判明した。



綺麗に整えたチラシを作業台の右端に置いていく先輩。
見事だ。
指サックが無くても大丈夫なのか。
私はいつ指サックをはめれば良いのか。
指サックのことばかり考えてしまう。



「見てる?強く叩きすぎたら潰れるから優しく。台の上に紙を立たせる感じで。」


「あ、はい。」



「叩いたチラシは右端に置く。6区は新聞が175部あるからチラシは180枚。
失敗が許されるほど余りが少ないから気を付けて。」



「はい。」



「折(オリ)が全部左側だと傾いて崩れるからある程度
で右にしたり左にしたりして積んだら高く積めるから。」



「はい!」


よく分からなかったので大きな声で返事をしてみた。


「あ、ちょっとやってみる?」



先輩にチラシをひと掴み渡された。


「あのぉ。指サックした方がいいですか?」



「いや、指サックは新聞に入れる時に使うから
今は要らない。」



「なるほど。」



私は指サックがちゃんとポケットにあることを
外側から確認してからチラシを手に取った。
指先が大事なモノに当たってしまったその後に。


さて、
まだまだ初日は続くのであった。





〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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