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奥田 繭
2023年3月28日 21:19
おだやかな天の光が降りそそぐ、ある街のある日の昼下がりのことでした。小さな女の子とお父さんが歩道にたたずみ、いっしょうけんめいにお話をしていました。「お父さん、どうしてあの虫さんはあんな高いところにずっといるの?」「それはね、あの虫さんはあそこでみんなの『時間』をいっつも食べているからなんだよ」 2人の目の前の壁はガラス張りになっており、その向こうには巨大でまあるい時計がはめこまれてい
2022年1月5日 20:34
もう終末時計はてっぺんを過ぎているのです、と彼は言った。 地球科学、人文科学、社会科学、統計学、植物学、細胞生物学、遺伝子学、原子力工学、精密工学、熱力学、航空宇宙工学、ロボット工学、天文学、量子力学、素粒子物理学、数理物理学、宇宙物理学、エトセトラエトセトラ……どんな自然科学的見地から見ても、とっくにてっぺんは過ぎているはずなのです。 彼は、額からジュワっとにじみ出ている汗をハンカチで
2021年10月21日 09:11
9才の誕生日に、わたしとニコは出会った。それがどちらの夢の中なのかは、よく分からなかったけれど、わたしたちは会った瞬間に友だちだった。「あら、こんにちは。あなたはだあれ?」「こんにちは、わたしはニコ。あなたは?」「わたしはピコ。……ニコ、どうしてわたしのお部屋にいるの?」 ニコは不思議そうにわたしの部屋をぐるぐると見まわして、分かんない、とだけ言った。 でもニコには怖がっている様子もな