記事一覧
伐られてしまった実家のケヤキ | More-Than-Human Stories
先週末、実家のそばに生えているケヤキの大木が、伐られた。
それを知ったのは、母から届いたLINEを読んだときだった。
その土曜はやることが色々あったのだけど、僕はほとんどなににも着手することができず、結局一日中ボーッとしながら、時に流れ落ちる涙がセーターを濡らしていく様子を眺めているだけだった。
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僕が育ったのは、茨城県のつくば市という人口20万人ほどの町である。
筑波山と筑波大学で知
ヒューマニズムの、その先へ | ハイデル日記 『ポストヒューマニズム』
「ポストヒューマニズム」についての記事を書こうと思い、日本語で簡単にGoogle検索してみたら、あることに気づいた。
参考になる内容が、あまりにも少ない。
ポストヒューマンやトランスヒューマニズムといった概念と混同されていたり、断片的にしか取りあげられていなかったり、包括的にポストヒューマニズムを理解するのは難しそうだ。
まあそれも、無理もないかもしれない。欧米の哲学や文化論、人類学やアート
改めて問う、「国民」という不思議 | ハイデル日記 『ナショナリズム』
このnoteの記事に立ち止まってくださったすべての日本人、あるいは日本語を読める方に向けて一つお聞きしたいのは、
「普段くらしていて、一週間以上「日本」という言葉を聞かない・見ない人はどれくらいいますか?」
という問いだ。
たぶん、かなり少ないと思う。
あるいは気づいていないだけかもしれないけれど、「日本」や「日本人」という言葉は当然のように日々、私たちの世界に飛びこんでくる。ニュースの報
人間が地質学的な行為者となった時代 | ハイデル日記 『人新世に生きる』
西暦2000年に世界で初めて「Anthropocene」という言葉が使われてから21年が経った。
その提案者パウル・クルッツェンは、安定と繁栄の時代「完新世(Holocene)」は数百年前にもう終わり、我々はすでに次なる地質時代「Anthropos(人類)+ cene(新たな時代)」ーー人類が地球の地質や生態系における支配的アクターとなり、地質学的なスケールの影響力をもつようになった時代ーーに突
「ワクチンを打つ、それは境界線をまたぐこと」 | エッセイ
先日、ワクチンを打ちました。
そしたらなんと、注射器が刺さるその瞬間に予期せぬ思いや感覚が体じゅうを駆け巡ったので、そのときは言葉になるものだけメモしました。
後日、夏学期に取っていた「Dwelling in the Anthropocene(人新世における棲みつき)」という環境人類学系のセミナーの期末課題で短いエッセイを書くことになり、このときのワクチン体験とセミナーでの学びを織りまぜつつし
概念の歴史は、僕らの歴史 | ハイデル日記 『グローバル概念史学』
もし宇宙人が地球にやってきて、あなたにいま「この”社会”という概念とはなにか、説明してくれ」と頼んできたら、あなたは説明できるだろうか?
もちろん、彼らは地球に降り立ったばかりでなにもわからない。
人によっては、学校や仕事、メディアを通じて学んだことを自分なりに表現しようとする人もいれば、「社会」を構成する要素(人間の集団、経済活動の場、政治の役割など)を分解していくアプローチをとる人、あるい
つながりと結節点の学 | ハイデル日記 『越境の文化学』
実は、ずっともやもやしていたことがあった。
オランダでの3年間のリベラルアーツ型学士号で人類学や哲学を学んで以降、世界を謙虚な目でとらえなおそうとすると、よく「相対主義」という大きな壁にぶちあたる、ということだった。どういうことか?
たとえば、日本における捕鯨を例にあげてみよう。日本では古くから捕鯨がおこなわれてきた。しかし近年、環境NGOなどがその過度な捕獲量と残酷な手法を批判し、国際社会(
砂とエージェンシーと共生成 | ハイデル日記 『砂の人類学』
10月、到着したばかりのハイデルベルクのホステルの談話室で第一学期に取りたいコースのリストを眺めていた僕の目を止めたのは、「砂の人類学」という文字だった。
そもそも人類学とは、その名のとおり人間存在や文化にかんする学。コースリストには他に「記憶の人類学」とか「医療人類学」といった、人間を主題としたテーマが並ぶなか、唯一地質学的な「砂」というものと人類学を組み合わせたワードには何か惹かれるものがあ