Shuhei Tashiro 田代 周平

博士学生。デンマーク・オーフス大学。人類学/環境人文学。研究テーマは、人とサンゴ礁が共…

Shuhei Tashiro 田代 周平

博士学生。デンマーク・オーフス大学。人類学/環境人文学。研究テーマは、人とサンゴ礁が共生成するランドスケープの変容。地形とそこの生態系が、農業やインフラを通じてどう改変するか、陸と海の物質循環がどうつながっているのか、に関心がある。フィールドは喜界島、南西諸島。

最近の記事

伐られてしまった実家のケヤキ | More-Than-Human Stories

先週末、実家のそばに生えているケヤキの大木が、伐られた。 それを知ったのは、母から届いたLINEを読んだときだった。 その土曜はやることが色々あったのだけど、僕はほとんどなににも着手することができず、結局一日中ボーッとしながら、時に流れ落ちる涙がセーターを濡らしていく様子を眺めているだけだった。 * 僕が育ったのは、茨城県のつくば市という人口20万人ほどの町である。 筑波山と筑波大学で知られるこの町は、20世紀後半から研究学園都市として開発され、1985年には科学万

    • ヒューマニズムの、その先へ | ハイデル日記 『ポストヒューマニズム』

      「ポストヒューマニズム」についての記事を書こうと思い、日本語で簡単にGoogle検索してみたら、あることに気づいた。 参考になる内容が、あまりにも少ない。 ポストヒューマンやトランスヒューマニズムといった概念と混同されていたり、断片的にしか取りあげられていなかったり、包括的にポストヒューマニズムを理解するのは難しそうだ。 まあそれも、無理もないかもしれない。欧米の哲学や文化論、人類学やアートの世界でポストヒューマニズムという概念が議論されるようになったのはここ10〜15

      • 改めて問う、「国民」という不思議 | ハイデル日記 『ナショナリズム』

        このnoteの記事に立ち止まってくださったすべての日本人、あるいは日本語を読める方に向けて一つお聞きしたいのは、 「普段くらしていて、一週間以上「日本」という言葉を聞かない・見ない人はどれくらいいますか?」 という問いだ。 たぶん、かなり少ないと思う。 あるいは気づいていないだけかもしれないけれど、「日本」や「日本人」という言葉は当然のように日々、私たちの世界に飛びこんでくる。ニュースの報道、駅のポスター、noteの記事。あまりに当たり前になっていて、それがなんなのか

        • 人間が地質学的な行為者となった時代 | ハイデル日記 『人新世に生きる』

          西暦2000年に世界で初めて「Anthropocene」という言葉が使われてから21年が経った。 その提案者パウル・クルッツェンは、安定と繁栄の時代「完新世(Holocene)」は数百年前にもう終わり、我々はすでに次なる地質時代「Anthropos(人類)+ cene(新たな時代)」ーー人類が地球の地質や生態系における支配的アクターとなり、地質学的なスケールの影響力をもつようになった時代ーーに突入したと考えるべきだと訴えた。 今や自然科学から環境人文学、アートから政治まで

        伐られてしまった実家のケヤキ | More-Than-Human Stories

          「ワクチンを打つ、それは境界線をまたぐこと」 | エッセイ

          先日、ワクチンを打ちました。 そしたらなんと、注射器が刺さるその瞬間に予期せぬ思いや感覚が体じゅうを駆け巡ったので、そのときは言葉になるものだけメモしました。 後日、夏学期に取っていた「Dwelling in the Anthropocene(人新世における棲みつき)」という環境人類学系のセミナーの期末課題で短いエッセイを書くことになり、このときのワクチン体験とセミナーでの学びを織りまぜつつしたためてみました。 以下は、そのエッセイの冒頭部分を日本語訳したものです。最下

          「ワクチンを打つ、それは境界線をまたぐこと」 | エッセイ

          概念の歴史は、僕らの歴史 | ハイデル日記 『グローバル概念史学』

          もし宇宙人が地球にやってきて、あなたにいま「この”社会”という概念とはなにか、説明してくれ」と頼んできたら、あなたは説明できるだろうか? もちろん、彼らは地球に降り立ったばかりでなにもわからない。 人によっては、学校や仕事、メディアを通じて学んだことを自分なりに表現しようとする人もいれば、「社会」を構成する要素(人間の集団、経済活動の場、政治の役割など)を分解していくアプローチをとる人、あるいは「社会」という単語自体がもつ意味を説明しようとする人もいるかもしれない。 お

          概念の歴史は、僕らの歴史 | ハイデル日記 『グローバル概念史学』

          つながりと結節点の学 | ハイデル日記 『越境の文化学』

          実は、ずっともやもやしていたことがあった。 オランダでの3年間のリベラルアーツ型学士号で人類学や哲学を学んで以降、世界を謙虚な目でとらえなおそうとすると、よく「相対主義」という大きな壁にぶちあたる、ということだった。どういうことか? たとえば、日本における捕鯨を例にあげてみよう。日本では古くから捕鯨がおこなわれてきた。しかし近年、環境NGOなどがその過度な捕獲量と残酷な手法を批判し、国際社会(IWCなど)からプレッシャーを受けるようになる。彼らの主張の根幹にあるのは、動物

          つながりと結節点の学 | ハイデル日記 『越境の文化学』

          多元的な過去、旅する記憶 | ハイデル日記 『記憶の人類学』

          あなたは1週間前の今日、何をしていたか覚えているだろうか? では、その日の昼ごはんは?履いていた靴下は?就寝時間は? 不思議なことに、たった7日前のことを覚えてないことはよくあるわりに、10年前に友人がボソッとつぶやいたことは鮮明に覚えていたりする。このように僕らの「記憶」には不可解なことが多く、その謎を紐とくべく脳科学から心理学、社会学から歴史学まで、さまざまな分野で研究が進んでいる。 その一端を担うのがほかならぬ人類学であり、そう気づかされたのが先学期に僕が履修した

          多元的な過去、旅する記憶 | ハイデル日記 『記憶の人類学』

          砂とエージェンシーと共生成 | ハイデル日記 『砂の人類学』

          10月、到着したばかりのハイデルベルクのホステルの談話室で第一学期に取りたいコースのリストを眺めていた僕の目を止めたのは、「砂の人類学」という文字だった。 そもそも人類学とは、その名のとおり人間存在や文化にかんする学。コースリストには他に「記憶の人類学」とか「医療人類学」といった、人間を主題としたテーマが並ぶなか、唯一地質学的な「砂」というものと人類学を組み合わせたワードには何か惹かれるものがあった。僕はすぐその教授にメールを送った。 結論からいうと、このコースはとてつも

          砂とエージェンシーと共生成 | ハイデル日記 『砂の人類学』