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深堀り鑑賞会

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絵本等を、その時代的社会的背景、類似の作品、元となった話と変遷などを確認しながら掘り下げて鑑賞します。
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岡本かの子作「さくらんぼ」考察

岡本かの子作「さくらんぼ」考察


はじめに

とても短いながら、登場人物が多くて相関関係が錯綜しており、内容がぎゅっと凝縮されて話の外にも時空の広がりを感じさせる作品です。一度読んだくらいだと人物の関係がつかめないところか、台詞が誰のものかもすぐにはわからないところがありますが、紐解いていくとなかなか面白い作品です。岡本かの子自信の生い立ちも反映されているようです。

勝手な解説をつけます。ネタバレになりますので、先に原作を読ま

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夢野久作「キャラメルと飴玉」は誰が喧嘩している?

夢野久作「キャラメルと飴玉」は誰が喧嘩している?


はじめに

夢野久作の「キャラメルと飴玉」は、短編ですがマウントを取り合う喧嘩が面白い作品です。江戸弁で大人たちが大人げない喧嘩をしている様が浮かびますが、会話を少し変えると小さい子供たちの喧嘩になったり、山の手のご婦人のいやらしいマウントの取り合いになったりといろいろと遊べます。方言で読むのも面白そうです。

ということで、ここでは、子ども版と、山の手御婦人版をつけさせていただきます。

自由

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宮沢賢治作「春と修羅」について

宮沢賢治作「春と修羅」について

はじめに

宮沢賢治は、生前に詩集「春と修羅」と「注文の多い料理店」の2点だけ出版していますが、いずれも実態は自費出版で、両方とも売れずに困ったそうです。しかし、生前に賢治と親交があった高村光太郎は、賢治の作品を高く評価していました。また、賢治は、東京で当時の新交響楽団の大津三郎にチェロを習いましたが、その後に謝礼としてこの2つの作品を送っています。この詩集をみた大津は、賢治の作品のすばらしさに驚

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万葉集に見る七夕の歌

万葉集に見る七夕の歌



今年(2023年)の7月7日は過ぎましたが、旧暦であれば今年は8月22日となります。古代の人が見た七夕の空はこれからであり、秋を感じさせる歌があります。

七夕伝説は中国から伝わったされ、万葉集の時代に七夕の歌が入っています。七夕歌の前半は柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)歌集にあるものですが、その中には人麻呂以外の者が詠んだ歌も混在しています。斎藤茂吉が人麻呂作と認めた作品は以下ものです。なお

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お能の『葵上』と三島由紀夫の『葵上』

お能の『葵上』と三島由紀夫の『葵上』

お能と源氏物語お能の曲数は200-250と言われますが、源氏物語にまつわるものが十数曲あり、現在、上演されるものは次のような曲です。

「半蔀(はしとみ)」
市井の女性「夕顔」が源氏との恋物語を語る。「半蔀」とは、上半分を外側につるし上げるようにして開ける窓。

「夕顔(ゆうがお)」
物の怪に襲われて成仏できない夕顔の霊が昔を述懐する。僧侶の弔いにより成仏する。

「葵上(あおいのうえ)」
嫉妬で

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源氏物語の女君たち

源氏物語の女君たち

瀬戸内寂聴さんの本『源氏物語の女君たち』日本放送協会(2008)から、著者の紫式部と登場人物の女性たちについて語っている内容のポイントを拾ってみたものに、若干の多少の情報を加えています。絵、及び、系図はWebに掲載されているもので参考になるものを貼付してあります。

源氏物語に登場する舘内裏の構造

物語りの場面や女君たちの立場、相関関係を知るうえで、女君が内裏のどこにいたかは重要な鍵を握ります。

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有島武郎作『一房の葡萄』について

有島武郎作『一房の葡萄』について

このノートは、『一房の葡萄』を朗読する際の一助として、その背景などについてメモったものです。今後も、加筆修正を加えていくことになると思います。複製、転載はご遠慮ください。

1.背景

『一房の葡萄』は、雑誌『赤い鳥』1920年8月号に掲載された作品です。その後、この作品を含む4編が単行本『一房の葡萄』(叢文閣)として1922年に出版されています。

この話は、有島武郎(1878-1923)が6歳

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『幸福の王子』と『燕と王子』

『幸福の王子』と『燕と王子』

オスカー・ワイルドの名作『幸福の王子』はご自身でも読まれた方は多いと思います。この話を、有島武郎は『燕と王子』として独自のストリーを作っています。ワイルドは、物語の最後で、神の命により遣わされた天使は、この世で最も尊きものとして、捨てられた王子の心臓と燕の屍を持ってきます。しかし、有島武郎の物語では、燕は南国に旅立ち、捨てられた王子は溶かされて鐘に作り変えられます。ワイルドは、精神の美しさと見かけ

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クリストファー・ロビンの詩

クリストファー・ロビンの詩

『クマのプーさん』が絵本として出来上がったのは、新聞・雑誌に寄稿していた詩、クリストファー・ロビンの詩(のちにWhen We Were Very Youngに収められている)が好評をえたことがきっかけでした。

息子、クリストファー・ロビンが3歳になるころ、子供のための詩を書き始め、それをまとめたもの。その後、クリストファーが6歳のころ、『わたしは六歳(”Now We are Six”, 1927

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ラプンツェル

ラプンツェル

(1)グリム童話とWanda Gagの再話
グリムは初版1812年版と1857年版を比較している。いずれも英訳は、ピッツバーグ大のProfessor D. L. Ashlimanによるもので、公開されてるものから引用している。日本語の訳は、中島孤島氏によるもので青空文庫に公開さ入れている。この訳は1857年版にもとづいている。

なんども出てくる、

「ラプンツェル、ラプンツェル
おまえの髪を降ろ

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Peter Rabbit作品集

Peter Rabbit作品集

はじめに
2022年に出版120周年を迎えたピーターラビット。1893年にBeatrix PotterがPotter自身が教わった3歳年上の家庭教師Annie Carter Mooreの息子(5歳のNoel Moore)が入院しているのを知り、励ますために、4匹のウサギが登場するストリーの絵手紙を送っている。後に、Annieから、この手紙で絵本が作れるのではないかと言われ、絵と話を膨らまして絵本を

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ヴァージニア・リー・バートンの世界

ヴァージニア・リー・バートンの世界

アメリカ絵本の古典、不朽の名作、『いたずら機関車ちゅうちゅう』、『ちいさいおうち』。ヴァージニア・リー・バートンの世界を覗いてみます。

ヴァージニア・リー・バートン(Virginia Lee Burton)とは

生い立ち

1909年、ボストン西部ニュートン・センターに生まれる。幼称ジニー(Jinnee)。母、Lena Dalkeithは英国出身の詩人でアーティスト。父、Alfred E Bu

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Winnie the Pooh (くまのプーさん)

Winnie the Pooh (くまのプーさん)

fTitle: Winnie-the-Pooh
Author: A. A. Milne
Illustrator: Ernest H. Shepard

このnoteは、Gutenberug eBookが公開しているテキストと絵を、同プロジェクトの使用条件に即して使用し、note筆者が仮訳を加えたものを使用しています。このnoteの複製、転載はしないでください。商業的目的でない朗読等の他引用等はno

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ペロー童話のシンデレラ

ペロー童話のシンデレラ

Cinderella; or, The Little Glass Slipper (Cendrillon ou la petite pantoufle de verre) (1697) Charles Perrault

はじめに
『シンデレラ』といわれれば、ディズニーの作品がすぐに思い浮かぶことと思います。『シンデレラ』は、もともと欧州で古くから口頭伝承されてきた話の一つですが、世界には500以

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