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クリストファー・ロビンの詩

『クマのプーさん』が絵本として出来上がったのは、新聞・雑誌に寄稿していた詩、クリストファー・ロビンの詩(のちにWhen We Were Very Youngに収められている)が好評をえたことがきっかけでした。

息子、クリストファー・ロビンが3歳になるころ、子供のための詩を書き始め、それをまとめたもの。その後、クリストファーが6歳のころ、『わたしは六歳(”Now We are Six”, 1927)』という詩集が出ている。両者を合わせて、『クリストファー・ロビンの世界("The World of Christopher Robin")』という本にもなっています。

『クリストファー・ロビンの詩』の初版は5000部印刷されましたが、発売初日に完売し、3か月後には再販で4万4千部が売れています。この成功の理由は、『クマのプーさん』が子供だけでなく大人にも受け入れられたといわれれます。批評家たちが非常に優れた作品と太鼓判を押し、詩だけでなくシェパードが描いた挿絵も各々の誌を完璧に表現しており、欠点が見当たらないと評しました。

この詩集の前書きにおいて、Milneは、当初、英国の有名な詩人ワーズワースの作風をまねて、詩の一つ一つにちょっとした注を付けようと思っていたといいます。

「この詩集の中に白鳥についての詩(実際には『鏡』というタイトルになっている)がでてくるとき、そこで、脚注をつけて、「クリストファー・ロビンは、毎朝えさをやるこの白鳥に、「プー」という名前をつけました。これは白鳥に対してはとてもよい名前でしょう。なぜなら、白鳥は呼んでも来ないときがあります(白鳥はよくそういうことをしますね)。そんなとき、あなたは、別に大した期待をしていなかったことを示すために、「プー」といったとうそぶくことができます。・・・湖の白鳥のことを考え始めると、最初は、かれの名前がプーであることがとても幸運だと思いました。それ以上のことは考えませんでした。・・で実際の詩のほうは、自分が意図していたものとはかなり変わったものとなりました。そして、今、いえることは、クリストファー・ロビンがいなかったらば詩を書いていなかっただろうということです。」

ということで、クマのプーさんの話にでてくる、白鳥にプーという名前を付けたという話は、この前書きにのみ登場し、詩のほうには出てきません。
また、37番目の詩『テディ・ベア』は、名前にはプーはでてこないものの、「クマのプー」のキャラクターとなっています。

以下、『鏡』と『テディーベア』を紹介します。訳は、ノート筆者がつけた仮訳です。元の詩は読んで美しい響きが聞こえる韻を踏んでいることを踏まえて七五調にしてみました。

The Mirror(鏡)

Between the woods the afternoon
Is fallen in a golden swoon,
The sun looks down from quiet skies
To where a quiet water lies,
And silent trees stoop down to trees.

午後の林に うっとりと
とどくは光 金色に
静かな空の 太陽は
静かな水面を 見つめてる
木々は静かに 枝をまげ
静かな森で 重なって 


And there I saw a white swan make
Another white swan in the lake;
And, breast to breast, both motionless,
They waited for the wind's cares…
And all the water was at ease

そこでみたのは 白い鳥
水面にうつる 白鳥と
胸と胸とを 寄せ合って
波ひとつない 水面では
じっと動かず 風を待つ

Teddy Bear(テディベア)


A bear, however hard he tries,
Grows tubby without exercise.
Our teddy Bear is short and fat
Which is not to be wondered at;
He gets what exercise he can
By falling off the ottoman,
But generally seems to lack
The energy to clamber back.
どんなことでも してみても
運動しなくちゃ 太っちゃう
われらがクマさん 太っちょだ
不思議と思う までもない
自分でできる 運動を
しては椅子から 落っこちて
どうやら力が 足りないな
這い上って 戻るには

Now tubbiness is just the thing
Which gets a fellow wondering;
And Teddy worries lots about
The fact that he was rather stout.
He thought:"If only I were thin!
But how does anyone begin?"
He thought;"It really isn't fair
To grudge me exercise and air."
太っちょなんだ そうなんだ
なんだろなぁと 友達は
思いめぐらす そのことが
とても気になる テディだが
確かに彼は 太ってる
"痩せてたらな”と 思うクマ
だけどどっから 始めよか?
外で運動 しろという?
できるわけない フェアじゃない



For many weeks he pressed in vain
His nose against the window-pane,
And envied those who walked about
Reducing their unwanted stout.
None of the people he could see
"Is quite" (he said) "as fat as me!"
Then, wich a still more moving sigh,
"I mean" (he said) "as fat as I!"
何週間も 窓に鼻
おしつけてみた むなしくも 
羨んだのは 歩く人
太らないように 歩くのを
どの人見ても 見つからない
自分のような 太っちょは
自分のように 太っちょは

Now Teddy, as was only right,
Slept in the ootoman at night,
And with him crowded in as well
More animals than I can tell;
Not only those, but books and things,
Such as kind relation brings---
Ond tales of "Once upon a time,"
And history retold in rhyme.
足置きの上 夜もすがら
寝てるのだから クマさんは
ほかにもたくさん どうぶつと
ほかには絵本と いろいろと
親せきたちの ものもある
昔ばなしも なん冊も
歴史を語る 詩の本も


One night it happened that he took
A peep at an old picture-book,
Wherein he came across by chance
The picture of a King of France
(A stoutish man) and, down below,
these words; "King Louis So and So,
Nicknamed 'The Handsome.'" ! There he sat,
And (think of it!) the man was fat!
それはある夜の ことだった
クマが絵本を 見ていると
偶然みつけた その中に
フランス王の 姿の絵
太っちょ男の 下のほう
ルイ王様とか 書かれてた
ニックネームは ハンサム王
だけども彼は 太っちょだ! 

Our bear rejoiced like anything
To read about this famous King,
Nicknamed "The Handsome." there he sat,
And certainly the man was fat.
Nicknamed "The Handsome." Not a doubt
The man was definitely stout.
Why then, a bear (for all his tub)
Might yet be named "The Handome Cub"!
"Might yet be named." Or did he mean
That years ago he "might have been"?
大喜びの クマさんは
読んでみました 物語り
ハンサム王と 呼ばれてた
けれども彼は 太っちょだ
ハンサム王と 呼ばれてた
けれども彼は ふとっちょだ
それだったらば クマだって
ハンサムクマと 呼べるかも
呼ばれてたかも そんな名で

For now he felt a slight misgiving:
"Is Louis So and So still living?
Fashions in beauty have a way
Of altering from day to day.
Is !Handsome Louis' with us yet?
Unfortunately I forget."
心配になった 少しだけ
ルイ王様は 生きている?
時代で変わる 流行は
日々、いちにちと 変わってる
ハンサム王は 今も居る?
忘れちゃったよ わからない

Next morning nose to window-pane)
The doubt occurred to him again.
One question hammered in his head:
"Is he alive or is he dead?"
Thus, nose to pane, he pondered; but
The lattice window, loosely shut,
Swung open. With one startled "Oh!"
Our Teddy disappered below.
次の朝来て 窓に鼻
こすりつけては 考えた
だいじょうぶかな ほんとうに
王さま生きて いるのかな?
窓にお鼻を こすりつけ
も一度クマは 考えた
窓はかるく 開いていて
急に開いて 驚いた
クマは下へと 消えてった

There happened to be passing by
A plump man with a twinkling eye,
Who, seeing Teddy in the street,
Raised him politely to his feet,
And murmured kindly in his ear
Soft words of confort and of cheer:
"Whell, well!" "Allow me!" "Not at all."
"Tut-tut! A very nasty fall."
そのときやって 来たおとこ
目が輝やいて 太っちょな
落ちたクマを 見つめてた
礼儀正しく 立ち上げて
優しく耳に ささやいた
やすまる言葉 はげましの
やれやれなんと いうべきか  
なんともひどい 落ちかただ  


Our Teddy answered not a word;
It's doubtful if he even heard.
Our bear could only look and look;
The stout man in the picture-book!
That "handsome" King---could this be he,
This man of adiposity?
"Impossible," he thought. "But still,
No harm is asking. Yes I will!"
クマはなんにも 答えずに
聞いたことさえ 疑わしい
クマはただただ 見るばかり
太っちょおとこだ 本に居た
あのハンサム王 この人が?
わけがないよね でもしかし
聞いてしまおう それならば

"Are you," he said, "by any chance
His Majesty the Kig of France?"
THe other answered, "I am that,"
Bowed stiffly, and removed his hat;
Then said "Excuse me, " with an air,
"But is it Mr. Edward Bear?"
And Teddy, bending very low,
Replied politely, "Even so!"
もしやあなたは ひょっとして
王さまですか フランスの?
返事はなんと ”その通り”
帽子をとって かしこまり
「失礼ですが あなたさま
クマの紳士の エドワード?」
そこでクマは ふかぶかと
お辞儀を返した 「そうですよ」


They stood beneath the window there,
The King and Mr. Edward Bear,
And, handsome, if a trifle fat,
Talked carelessly of this and that….
Then said His Majesty, "Well, well,
I must get on," and rang the bell.
"Your bear, I think," he smiled. "Good-day!"
And turned, and went upon his way.
二人は立ってた 窓の下
フランス王と エドワード
ハンサム同士 ちょい太り
話を交わす あれこれと
そして王さま 言いました
わたしそろそろ 帰ります
ベルを鳴らして 尋ねるに
「あなたのクマさん そうですね?」
戻っていった 来た道に

A bear, however hard he tried,
Grows tubby without exercise.
Our Teddy Bear is short and fat,
Which is not to be wondered at.
But do you think it worries him
To know that he is far from slim?
No, just the other way about---
He's proud of being short and stout.
一生懸命 頑張るが
体操なしは 太るんだ
われらがクマは ふとっちょだ
おどろくまでも ないけれど
だけどクマさん 気にしてる?
痩せてないこと 気にしてる?
いやいやそんな ことはない。
誇りにしてるさ 太っちょを。

(おしまい)

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