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小説

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記事一覧

神のいない星

「ここは?」

「『神のいない星』さ」

「神のいない星?」

「ああ。正しくは神から見放された大地とでも言えばいいのかな」

「お前は?」

「この星に残ったたった2人の人間、その1人だよ」

「他の人間はどうした?」

「死んだよ」

「なぜ?」

「少し長くなるけどいいかな」

「ああ。時間ならある」

「この星には昔、神がいたんだ」

「神か」

「君は神を信じるか?」

「私はよく分から

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『未来の私/あたし』

「生きていれば、必ず良いことがあるから」

 目の前にいる、今にも零れそうな程に目に涙を溜めている少女に、今日だけで3回目にもなる台詞を私は言う。すると少女はふるふると首を横に振る。その所為で目からは涙が零れ出る。

 私はその少女を力強く抱きしめる。

 理由は、いくらでも思いつく。でももしかしたら、その子の顔をもう見ていられなかったからなのかもしれない。

「ヤだよ……もうヤだ……。誰もあたし

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憧れのフォロイーと心中オフ会する話

憧れのフォロイーと心中オフ会する話

生き損なったまま死んでいく

Chapter:0 -アカウントを復活させますか?-

2021年10月某日

 その日、消していたアカウントを復活させた。今回、アカウントを消していた期間は5日。持った方だ。

 人間関係から逃げて、逃げて、逃げおおせて。そのくせ孤独が嫌いな僕に残された、たった一つの社会との繋がり。それがTwitterだった。そんな僕だけど定期的にアカウントを消している。きっかけは

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モノクローム・ブルー・スカイ

 バシャリ。と、シャッターが閉じる。
 レンズが世界を捕まえる。
 その瞬間だけ、フラッシュが瞬くよりも短いそんな一瞬だけ、思い出の中の君が手を振る。
 写真にも、データにも残らない。思い出の中だけの君が。

 君と出会った8月のあの日も、こんな薄暗い、灰汁でも零したのかと言うほどの曇り空だった。

 砂浜の上を、靡く髪を右手で押さえながら歩く君の姿は、まるでそこだけ光が差し込んでいるかのようだっ

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星新一の『処刑』へ。愛を込めて

星新一の『処刑』へ。愛を込めて

 砂漠を歩く。

 砂漠を歩く。

 砂漠を歩く。そんな夢を見る。

「……!」

 ガバッと上体を起こして辺りを確認する。まだ暗くてそれでいてとても寒い。岩陰に隠れて蹲ったまま寝ていたが、一層体を縮込める。
 バッグからガチャガチャのカプセルほどの大きさをした球体を取り出す。天頂の赤いボタンをボタンを押すと球全体がオレンジ色に光り始める。コップを取りだして数秒待つと、ビーッと音が鳴って、注ぎ口が

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パウダーオレンジと夜の空

 部屋の窓から、夜の空を見る。大きく息を吐くと、肺の中から白く有害な煙が出る。少し目に染みる。
 顔の前にふわっと、あの人の匂いが広がる。別れを告げたあの日から連絡は来ていない。僕に残されたのは君を懐かしむための習慣だけだった。
 君の部屋に入ると、いつものこの匂いがした。ベランダで空を見る君と、それを見つめる僕。
「こっちにおいでよ。涼しいし、星が綺麗だよ」
 君が言う。僕は促されるままにベラン

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日はまた沈む

日はまた沈む

 電車に揺られてきみに会いに行く。前は一緒に行ってたのに、今日は現地集合だなんて。こういうのも、たまにはいいね。
 窓の外を見慣れたようで小懐かしい景色が流れる。街が遠くなる。しばらく続いた山の景色が暗くなって、それからオレンジの光がわたしの目に刺さってくる。水面がキラキラと乱反射して、海に来たんだなって思う。きみの既読のまま止まったトーク画面。きみは誘ったら断れないから。今日は来てくれるって思っ

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【リクエスト】猫の話

【リクエスト】猫の話

 最近、やたらと懐いてくる子猫がいる。

「にゃあ」

 それは今、おれの足元でうろちょろしているこいつだ。小さい体で足元をうろつかれたら歩きにくいと言ったらありゃしない。
「おい」
「?」
 おれが怒り調子で声を掛けても素知らぬ顔だ。まるでおれがなぜ怒っているか分からないとでも言いたげな表情で小首を傾げる。
「はぁ……あまり足元を歩くな。邪魔で仕方ない。『猫踏んじゃった』なんて物騒な歌もあるが、

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