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2020年上半期ベストアルバム10

未知のウイルスの蔓延で、世の中ごとごっそりひっくり返った2020年上半期。とはいえ、例年通りに、上半期総括はやっていく所存。まずはアルバム編。相変わらずベストアルバム選出界隈との好みの乖離は著しいですが、今年は割とこちら側的には王道なセレクトな気が。

10位 Vaundy『strobo

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トラックメイクもアートワークも自ら手掛けるマルチアーティストの1stアルバム。初手「東京フラッシュ」と2手「不可幸力」がスムースなメロウラップだったので、あぁこの感じかぁと流しかけたのだけど、アルバム聴いたら曲を追うごとに重ね塗りされる驚きがあった。何といってもM4「怪獣の花唄」の直球のエナジーよ!このタイプのシンガーが切ってくるカードとは思えない、突き抜けたアンセム感があって思わず拳を握りしめた。トランシーな「soramimi」、軽快なネオアコ「Bye by me」など、どれもが悉く耳に馴染んでくる。スタイリッシュな岡崎体育とも呼ぶべき人懐っこい音楽だ。



9位 yonige『健全な社会

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大阪出身の2人組ロックバンド、2年半ぶりの2ndフルアルバム。2018年のEPから漂っていた平熱な生活感を中核に据え、ナチュラルな方向転換に成功している。初期は苛烈な感情をぶつけることがアイデンティティだったけれど、今回は淡々と気持ちの揺れ/機微を描写してある。決して怒らなくなったわけじゃないけれど、真顔で訴えかけてくる。歌声も包容力を得つつも、同時に突き放すような孤高さもあるのが良い。Gotchプロデュースによる1,2曲目の奥行きなど、これまで以上にふくよかで温かみのあるサウンドを手にしている。こういう変化って5thアルバムくらいで起こるものと思っていたよ!


8位 milet『eyes

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去年から色んなところで彼女の曲を聴くたびに耳を掴まれ、また君か!ってなっていたので、今回の1stフルアルバムはその驚きたちが塊になって襲来してくるような、凄まじい“圧”がある。こういう歌で魅了するシンガーの大作ってクドくなりがちだけど、それが全く問題ない。艶っぽくもクールにも聴こえるロー&ハスキーな声質はその楽曲を都会的にも野性的にも染めあげる。今っぽいオケや歌唱法を、今っぽいだけで済ませず、根底にあるメロディの力を全力で引き出す。そんな彼女の表現力がトラックを越える度に違った絶景を脳内に広げ、全く飽きの来ない18曲69分を作り出している。アッパーの中に翳り、ダウナーな中にも祈りがあるバランス感が秀逸。


7位 藤井風『HELP EVER HURT NEVER

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色気と破壊性がダダ漏れなルックス。上品さと粗野さを兼ね備えた佇まい。優しさも危なさも放つ歌声。先鋭的なビートの上で引用するのは吉本興業の芸人たち。落ち着きたい時もワクワクしたい時も聴くことも出来る。こういった両立をどちらも遜色なくやってのけてるとこに異常な才気を感じる。グッドメロディを歌うユーモラスなソロシンガー、国民的になり得るスターポテンシャルでは!クネクネと踊らせる曲が多い中、ラストにドカドカとしたロックナンバー「さよならべいべ」と故郷が涙で滲むような「帰ろう」が配置されているのも堪らない。最後の最後に、真っ直ぐなのもかましてくる。



6位 マカロニえんぴつ『hope

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マーケティングを周到にやってスピーディーに売れる手法が台頭する中、シーンの流行とかフェスでの機能性といった戦略から徐々に離れ、やりたい放題やり出してからの魅力が凄まじいのが彼ら。60分14曲のアルバムをつるっと聴かせる膨大なアレンジの引き出しで、どれもしっかりと個性が立っている。ユニコーン、フジファブリック、クリープハイプといった影響源などとっくに血肉にし、はっとりの振り絞るようなボーカルが映える劇的なサウンド展開を獲得している。ただ、そういう中で素朴な「ヤングアダルト」が白眉なのもまたイイ。<夜を超えるための歌が死なないように>、在りたい。



5位 ネクライトーキー『ZOO!!

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人あたりなんていくらでも良くできるし、愛想笑いも習得した。だけどその分、ぶっ壊れそうな自我は内側でフツフツと煮えたぎり、時たま暴走が始まる、、そんなマトモな心象を素っ頓狂なバンドポップでメイクアップした1作。前作『ONE!』と比べると、幾分か前を向く曲も多い一方で過去の怨恨や現状への苛立ちを強めた曲も多く、メジャーに行ったくらいでこれまでの鬱憤を精算させてたまるかという強い意志と呪いが伝わってくる。本当は何より、今生かされてる世界が怖くて恐ろしくて、それでも取り続ける限界のファインティングポーズ。”何もなさ“をネクライトーキーは受け止める。嘘を嘘じゃなくできる音楽をかましてくれるのだ。


4位 リーガルリリー『bedtime story

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切れ味鋭いヒリついた演奏や神秘性を持つボーカルを継承しつつ、より感情を直線的に描き出す曲構成や轟音の中に柔らかさを残すサウンドスケープなど、メジャー1stフルアルバムにして新境地へと降り立った1枚。散文詩のように印象的なフレーズを連ね、"私"を世界の中心に据えるような詩作は、より自由で気高い美しさを湛える。このように、時代の潮流とは無縁なオルタナティブなバンドサウンドで限りなく“自己”を描く作品にも関わらず、間違いなく2020年の混迷する社会へもタッチしているのが不思議。優れた表現者は、敢えて今にチューニングせずとも、今を描いてしまえるということなのだろうか。


3位 眉村ちあき『劇団オギャリズム

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前作から8カ月足らずでのリリースの2ndアルバム。本能が赴くままに放出されたアイデアがハンドメイドで形にされており、ジャンクだが腹一杯食らいつきたくなる極彩色のJ-POPコンピレーション。ヒップホップ、ワルツ調のバラード、ホーン入りのギターロック、90s歌謡曲など参照点は多岐に渡るが、どんなジャンルも取り込み、全てを自分の一部として吸収してしまう。もはや何を歌っても良いモードに突入しているその奔放で純粋なキャラクターも味方につけ、キャラに添ったムーブも、ギャップ演出も自在にこなす。ハイカロリーで奇天烈、情緒不安定でフリーキー、一人芝居とは思えない濃厚なポップス劇場。


2位 Base Ball Bear『C3

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3ピースバンドとしての活動、レーベル移籍を経て発表された8thアルバム。2019年発表のEP2作を丸ごと収録し、新曲は4曲という構成にも関わらず、作品としての強度は抜群。ギター、ドラム、ベース、以上!という楽器構成でありながら、これだけ多彩で多面的な音楽の面白さをアピールしており、盛らずに削ることで特異的な進化を遂げ続ている。バンド自身の在り方やスタンス、思考を題材にした詩世界も、ベボベの歴史上かつてないことで、その新鮮さは作品全体を風通し良く仕上げている。グルーヴを磨き、適切な“描写対象”を選び取りながら研ぎ澄まされてきたベボベの、最新型の瑞々しさが迸る1枚。



1位 赤い公園『THE PARK

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バンドとしては通算5枚目、ところがボーカル交替後としては最初だし、ほぼセルフタイトルな題も相まってデビュー盤のようなフレッシュさ。歪な程の振れ幅の中で常に良い歌と良いプレイが鳴り続ける充実の11曲。ピアノとストリングスが踊る春めきナンバー「紺に花」はサビ裏のコーラスが妙で癖になるし、シンプルな四つ打ちに見せかけて終盤のノイズワークが光る「ジャンキー」など掴みづらい音像は健在。ところがボーカル石野理子の表現力が楽曲に凛々しい輪郭を与え、ポップソングに辿り着いてしまう。「夜の公園」を初めて聴いた時、これを出してしまったらもう無敵だ、と確信した記憶がある。そしてその予想は的中。10年目に手にした新しい初期衝動が全方向へ輝きを放つ。


1、2位はバンドがリニューアルしての1stとも呼ぶべき内容だし、どちらが1位でも遜色ないのだけど、ひとまず今はこの順位で決めた。下半期にはユニゾン、米津玄師が控えてるし、それ以外にもきっとコロナ禍を受けての作品も増えるはず。それを音楽好きとして、どう自分が受け止めるかなぁなど考えている。

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