善家 忠勝

SEの息子と介護士の母さんペアです。愛しい息子の手ほどきのもと忠勝さんの遺志を皆様にお…

善家 忠勝

SEの息子と介護士の母さんペアです。愛しい息子の手ほどきのもと忠勝さんの遺志を皆様にお届けできるよう頑張っています。優しい気持ちで人と向き合えるよう心の修行中です。応援お願いします。

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固定された記事

満州からの手紙#1をお読みいただく前に

 これからお届けする150通の手紙は、昭和13年から当時通信兵として日ソ国境警備へと出兵した若き日本兵が、故郷(愛媛県宇和島市)に住む父母に宛てた手紙です。  そこに…

善家 忠勝
11か月前
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満州からの手紙#154【追憶の記】幼い頃の思い出より

お母さん 私の幼い頃の思い出を 覚えているだけ このノートに書き留めておきます。 満州からの手紙#154「雀の子」お母さん 毎日兵隊本部へ事務を手伝いに来ている私を心か…

善家 忠勝
10日前
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満州からの手紙#152#153【追憶の記】幼い頃の思い出より

お母さん 私の幼い頃の思い出を 覚えているだけ このノートに書き留めておきます。 満州からの手紙#152「石堂丸」私の家の前が、今は無き青木家!! お母さんは、お産屋だっ…

善家 忠勝
1か月前

満州からの手紙#151

満州からの手紙#151(K兵営便り) 1、 父さん冬が来ましたネ その後お変わりないですか 大寒小寒の朝夕は 仕事疲れのお体に 定めし寒さが身にしみて 御苦労様で御座います。…

善家 忠勝
2か月前
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満州からの手紙#146~#150

満州からの手紙#146 お母さん。 今日は正月の二日です。 舎外はサンサンとして小粉雪が降り積もっています。 静かに故郷のお正月を想起しながら、今年に入って最初の筆を…

善家 忠勝
4か月前
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満州からの手紙#141~#145

満州からの手紙#141 粉々たる降雪のため広野は一望千里、 白皚々たる銀世界です。 お父さん、元気でいますか。私は自重して真面目に御奉公していますから御安心下さい。 …

善家 忠勝
4か月前
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満州からの手紙#136~#140

満州からの手紙#136 今日はどんより曇って底冷えのする日です。 刺すような外気の冷たさから想像して零下を相当に下っていることと思います。 明治節で部隊は休日になって…

善家 忠勝
4か月前
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満州からの手紙#131~#135

満州からの手紙#131 四温の日が過ぎたのでしょう。 昨日あたりから上天気のわりに吹く風のしんが妙に肌にしみて来るのを覚えます。 今朝は水溜りに薄氷の張っているのをみ…

善家 忠勝
4か月前
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満州からの手紙#126~#130

満州からの手紙#126 お母さん。 暫くお手紙を書く暇がなくて意外に御無沙汰していましたが、お変わりありませんか。 私は至って頑健でいますから安心して下さい。 こちら…

善家 忠勝
5か月前
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満州からの手紙#121~#125

満州からの手紙#121 若草の丘に、黒土の営庭にサラサラと雨が降りそそぎます。 雨にたたかれた楊柳の梢がゆれているのも情趣に富んだジョウ影です。 靄に煙った広野の果…

善家 忠勝
5か月前
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満州からの手紙#116~#120

満州からの手紙#116 お母さん。 今日はとても上天気です。 赤い夕日が地平の果てに沈みます。 ポツンと立っている電信柱の影が地上に長い影を落として黄昏の色が次第に濃…

善家 忠勝
5か月前
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満州からの手紙#111~#115

満州からの手紙#111 お母さん。 昨日お手紙と同封のお写真確かに戴きました。 ほんとうに嬉しく思いましたよ。 私がさき頃から想像していた白髪だらけの弱々しい感じのす…

善家 忠勝
5か月前
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満州からの手紙#106~#110

満州からの手紙#106 お母さん。 元気で暮されておいでになるのですか。 四月に入って一度もお便りを戴かないので心配しております。 まさか体でも悪くされて床についてお…

善家 忠勝
5か月前
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満州からの手紙#101~#105

満州からの手紙#101 お母さん。 兵舎の影がながながと地上に横たわっています。 落日の丘に肌寒い北満の黄昏が刻一刻しのびよって来ます。  今日は三月三日日曜日です。…

善家 忠勝
6か月前
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満州からの手紙#96~#100

満州からの手紙#96 お母さん。 今日はお手紙を有難うございました。 お元気とのことなので大安心をしました。 この頃随分御無信勝ちに成ってほんとにすみません。 殆ど寸…

善家 忠勝
6か月前
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満州からの手紙#91~#95

満州からの手紙#91『命捧げて来た身じゃけれど 今日も昨日も吹雪の満州』 物凄い昨日の吹雪もいつかとだえて、曇日ながら今日は心楽しい日曜日です。 『今日はお母さんに…

善家 忠勝
6か月前
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満州からの手紙#1をお読みいただく前に

満州からの手紙#1をお読みいただく前に

 これからお届けする150通の手紙は、昭和13年から当時通信兵として日ソ国境警備へと出兵した若き日本兵が、故郷(愛媛県宇和島市)に住む父母に宛てた手紙です。

 そこには一人子として遠く離れた戦地にありながら、故郷に残した父母への心温まる思いや、帰還を夢見る若者の恋の悩みと葛藤が生き生きとえがかれています。
また満州北部の悠々たる自然や日本兵の日常の描写など、コッケイとも言えるジョークを交え、美し

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満州からの手紙#154【追憶の記】幼い頃の思い出より

満州からの手紙#154【追憶の記】幼い頃の思い出より

お母さん
私の幼い頃の思い出を
覚えているだけ
このノートに書き留めておきます。

満州からの手紙#154「雀の子」お母さん
毎日兵隊本部へ事務を手伝いに来ている私を心から喜ばせてくれるものは、あの新緑のしたたるような勝山城の若葉の色と、ちょうど二階の窓に並んで見える松の木に飛び立ったばかりの雀の子です。

お母さんは自宅の二階の窓から燕の子を眺めて皆と喜んでいるそうですネ。
私は可愛い雀の子のよ

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満州からの手紙#152#153【追憶の記】幼い頃の思い出より

満州からの手紙#152#153【追憶の記】幼い頃の思い出より

お母さん
私の幼い頃の思い出を
覚えているだけ
このノートに書き留めておきます。

満州からの手紙#152「石堂丸」私の家の前が、今は無き青木家!!
お母さんは、お産屋だった青木家の叔母さんとは大の仲良しだったでしょう。
夏になって、かいこ様が出る頃に成ると、あの田舎ではまれな二階建ての養蚕室が若い村の娘さんたちで一杯でしたネ。

いつかお母さんは、階下の小川によった養蚕室の一室で「石堂丸」の小説

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満州からの手紙#151

満州からの手紙#151

満州からの手紙#151(K兵営便り)
1、
父さん冬が来ましたネ
その後お変わりないですか

大寒小寒の朝夕は
仕事疲れのお体に
定めし寒さが身にしみて
御苦労様で御座います。

2、
{髭/ヒゲ} も延びたし人相も
大分凄く成りました。

昨日出かけた錦州の
{喇麻/ラマ}の古塔のあの {人/シタ}の
ひげの仁王もなんのその
チャンコロ位一にらみ

3、
朝の便所のお務めは
全く困ってしまいま

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満州からの手紙#146~#150

満州からの手紙#146~#150

満州からの手紙#146 お母さん。 今日は正月の二日です。
舎外はサンサンとして小粉雪が降り積もっています。
静かに故郷のお正月を想起しながら、今年に入って最初の筆をお母さんにお便りすべくとったのです。

 昨、元旦は実に愉快でした。班長殿始め戦友一同が集まってお酒を呑んで大騒ぎをしたのです。 ハッハーーーーーーーー。
無事に新玉の年を迎え、二十六の春をみることが出来ましたが、昨年をふりかえってみ

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満州からの手紙#141~#145

満州からの手紙#141~#145

満州からの手紙#141 粉々たる降雪のため広野は一望千里、 白皚々たる銀世界です。
お父さん、元気でいますか。私は自重して真面目に御奉公していますから御安心下さい。

 後半月すると新玉の年を迎えると共に私も二十六才になります。しかし、歳月空しく年と共に過ぎて、今に至るも何等みるに足るべき功なく思えば慚愧の念にたえぬものを覚えます。
『嗚呼吾二十七まさに一生の半を終わらんとす。
 肺肝それよく何処

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満州からの手紙#136~#140

満州からの手紙#136~#140

満州からの手紙#136 今日はどんより曇って底冷えのする日です。
刺すような外気の冷たさから想像して零下を相当に下っていることと思います。
明治節で部隊は休日になっているので、戦友達は町へ出かけて行きました。
僕はお手紙を書き終わったら、呑気に終は読書する考えで、班内に残っているのです。

 実は、暫くお母さんから音信が無かったので、どうされておいでなのだろうと案じていたのですが、昨日のお手紙で、

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満州からの手紙#131~#135

満州からの手紙#131~#135

満州からの手紙#131 四温の日が過ぎたのでしょう。 昨日あたりから上天気のわりに吹く風のしんが妙に肌にしみて来るのを覚えます。
今朝は水溜りに薄氷の張っているのをみました。
丘の姿も全くうらぶれて、緑衣の影さえもみられぬまでになりました。
つい四、五日前まで盛んに耳にしていた虫の声もいつしか絶えて、満々たる風の音がわびしく耳辺をかすめて行きます。

 お母さん。
今日は広満君の妹、俊子君から手紙

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満州からの手紙#126~#130

満州からの手紙#126~#130

満州からの手紙#126 お母さん。
暫くお手紙を書く暇がなくて意外に御無沙汰していましたが、お変わりありませんか。
私は至って頑健でいますから安心して下さい。
こちらも昨日、今日あたりから驚く程朝夕が涼しくなりました。
曠野には今、ききょうの花 や、萩、なでしこ、{女郎花/オミナエシ}、リンドウ、あざみなぞ秋の七草が一面に咲き乱れて実に美観です。

 この間、正月が来たナ!! と思っていたのに早や

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満州からの手紙#121~#125

満州からの手紙#121~#125

満州からの手紙#121 若草の丘に、黒土の営庭にサラサラと雨が降りそそぎます。
雨にたたかれた楊柳の梢がゆれているのも情趣に富んだジョウ影です。 靄に煙った広野の果てには国境の山が地平線をぬーとぬきでて山姿がボンヤリぼやけてみえるのも面白い眺めですよ。

 お父さん。
こんなにながい間お手紙をさぼってしまってほんとにすみません。 軍務多忙だとつい心にもない御無沙汰をしてしまうのです。
昨日来たお

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満州からの手紙#116~#120

満州からの手紙#116~#120

満州からの手紙#116 お母さん。
今日はとても上天気です。
赤い夕日が地平の果てに沈みます。
ポツンと立っている電信柱の影が地上に長い影を落として黄昏の色が次第に濃く成って来ます。
兵舎の後の丘が紫色にそまって夕映えの空にクッキリとうきあがってとても美しいです。

 今日は笹井君にお手紙をかきました。それから高橋の千代小母さん (エンドウ薬局の) からもお手紙を貰ったので、お返事を書きました。

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満州からの手紙#111~#115

満州からの手紙#111~#115

満州からの手紙#111 お母さん。 昨日お手紙と同封のお写真確かに戴きました。
ほんとうに嬉しく思いましたよ。
私がさき頃から想像していた白髪だらけの弱々しい感じのするお母さんと違って、みるからに以前とは見違える程元気そうなお母さんの姿をみて心の底から安心しました。
お父さんはお写真そっくりだとのことですね。
私はお母さんに比べてあんまり老いてみえるお父さんを実際のお父さんとはズーと違って写ってい

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満州からの手紙#106~#110

満州からの手紙#106~#110

満州からの手紙#106 お母さん。
元気で暮されておいでになるのですか。
四月に入って一度もお便りを戴かないので心配しております。
まさか体でも悪くされて床についておいでになるようなことはないでしょうネ。
心配で心配でたまらなくなったのであわてて筆をとりました。
このお手紙がお母さんの処へとどいたらすぐ御一報下さい。

 私は昨日から週番に服務しているのです。
北満もすっかり春の暖かさになったよう

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満州からの手紙#101~#105

満州からの手紙#101~#105

満州からの手紙#101 お母さん。
兵舎の影がながながと地上に横たわっています。 落日の丘に肌寒い北満の黄昏が刻一刻しのびよって来ます。

 今日は三月三日日曜日です。午前中は関東軍派遣の慰問演芸団が来隊しました。
午後は予定通りこうしてお母さんにお約束のお手紙をかいているのです。

さて今日は何からかきましょうか?

 北満は今日この頃は随分暖かくなりましたよ、今までは寒さが酷烈だったので雪はあ

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満州からの手紙#96~#100

満州からの手紙#96~#100

満州からの手紙#96 お母さん。
今日はお手紙を有難うございました。
お元気とのことなので大安心をしました。
この頃随分御無信勝ちに成ってほんとにすみません。
殆ど寸暇もみい出せぬ日々の演習に、とても落ち着いて手紙なぞかいておれない気持ちです。それに読書に心を奪われているので一層お母さんの楽しみにして貰っているお手紙をかくのが疎に成った訳です。どうぞ悪しからず許して下さい。

 過日の日曜日は紀元

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満州からの手紙#91~#95

満州からの手紙#91~#95

満州からの手紙#91『命捧げて来た身じゃけれど 今日も昨日も吹雪の満州』
物凄い昨日の吹雪もいつかとだえて、曇日ながら今日は心楽しい日曜日です。
『今日はお母さんにお手紙する日だぞ!!』
と考えながらも読みかけた漢書 『大学、孝経』 に心を奪われて、今朝から今迄お手紙しなかったのですが、 ついさっき戦友のYが
『おい善家、手紙が三通だ!!』
と知らせに来て呉れたのでさっそく事務室へ印をもって受

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