善家 忠勝

SEの息子と介護士の母さんペアです。愛しい息子の手ほどきのもと忠勝さんの遺志を皆様にお…

善家 忠勝

SEの息子と介護士の母さんペアです。愛しい息子の手ほどきのもと忠勝さんの遺志を皆様にお届けできるよう頑張っています。優しい気持ちで人と向き合えるよう心の修行中です。応援お願いします。

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満州からの手紙#1をお読みいただく前に

 これからお届けする150通の手紙は、昭和13年から当時通信兵として日ソ国境警備へと出兵した若き日本兵が、故郷(愛媛県宇和島市)に住む父母に宛てた手紙です。  そこには一人子として遠く離れた戦地にありながら、故郷に残した父母への心温まる思いや、帰還を夢見る若者の恋の悩みと葛藤が生き生きとえがかれています。 また満州北部の悠々たる自然や日本兵の日常の描写など、コッケイとも言えるジョークを交え、美しくも壮大に描いた感動のドキュメンタリーです。  時を超え現代によみがえった忠勝

    • 満州からの手紙#151

      満州からの手紙#151(K兵営便り) 1、 父さん冬が来ましたネ その後お変わりないですか 大寒小寒の朝夕は 仕事疲れのお体に 定めし寒さが身にしみて 御苦労様で御座います。 2、 {髭/ヒゲ} も延びたし人相も 大分凄く成りました。 昨日出かけた錦州の {喇麻/ラマ}の古塔のあの {人/シタ}の ひげの仁王もなんのその チャンコロ位一にらみ 3、 朝の便所のお務めは 全く困ってしまいます。 鼻をつまんで飛び込めば 凍りつくよな寒風が 下からサッ!! と吹き上げ

      • 満州からの手紙#146~#150

        満州からの手紙#146 お母さん。 今日は正月の二日です。 舎外はサンサンとして小粉雪が降り積もっています。 静かに故郷のお正月を想起しながら、今年に入って最初の筆をお母さんにお便りすべくとったのです。  昨、元旦は実に愉快でした。班長殿始め戦友一同が集まってお酒を呑んで大騒ぎをしたのです。 ハッハーーーーーーーー。 無事に新玉の年を迎え、二十六の春をみることが出来ましたが、昨年をふりかえってみるとまだまだ慚愧にたえぬことが数かぎりなくあります。 常日頃から懸命に寸刻暇をみ

        • 満州からの手紙#141~#145

          満州からの手紙#141 粉々たる降雪のため広野は一望千里、 白皚々たる銀世界です。 お父さん、元気でいますか。私は自重して真面目に御奉公していますから御安心下さい。  後半月すると新玉の年を迎えると共に私も二十六才になります。しかし、歳月空しく年と共に過ぎて、今に至るも何等みるに足るべき功なく思えば慚愧の念にたえぬものを覚えます。 『嗚呼吾二十七まさに一生の半を終わらんとす。  肺肝それよく何処にか傾けん』 彼の南州先生の歎は、そのままに私の歎となって切実に胸をうちます。

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        • 満州からの手紙
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          満州からの手紙#136~#140

          満州からの手紙#136 今日はどんより曇って底冷えのする日です。 刺すような外気の冷たさから想像して零下を相当に下っていることと思います。 明治節で部隊は休日になっているので、戦友達は町へ出かけて行きました。 僕はお手紙を書き終わったら、呑気に終は読書する考えで、班内に残っているのです。  実は、暫くお母さんから音信が無かったので、どうされておいでなのだろうと案じていたのですが、昨日のお手紙で、全くホッ!!と安堵しました。 僕も相変わらず張り切っています。元気でピンピンして

          満州からの手紙#136~#140

          満州からの手紙#131~#135

          満州からの手紙#131 四温の日が過ぎたのでしょう。 昨日あたりから上天気のわりに吹く風のしんが妙に肌にしみて来るのを覚えます。 今朝は水溜りに薄氷の張っているのをみました。 丘の姿も全くうらぶれて、緑衣の影さえもみられぬまでになりました。 つい四、五日前まで盛んに耳にしていた虫の声もいつしか絶えて、満々たる風の音がわびしく耳辺をかすめて行きます。  お母さん。 今日は広満君の妹、俊子君から手紙が来ました。 又、京都の帝大に行っている 前田活郎君からもお便りがありました。

          満州からの手紙#131~#135

          満州からの手紙#126~#130

          満州からの手紙#126 お母さん。 暫くお手紙を書く暇がなくて意外に御無沙汰していましたが、お変わりありませんか。 私は至って頑健でいますから安心して下さい。 こちらも昨日、今日あたりから驚く程朝夕が涼しくなりました。 曠野には今、ききょうの花 や、萩、なでしこ、{女郎花/オミナエシ}、リンドウ、あざみなぞ秋の七草が一面に咲き乱れて実に美観です。  この間、正月が来たナ!! と思っていたのに早や八月!! 次の正月が訪れて二十六才の春を向かえるのも目前です。 男の二十六才と言

          満州からの手紙#126~#130

          満州からの手紙#121~#125

          満州からの手紙#121 若草の丘に、黒土の営庭にサラサラと雨が降りそそぎます。 雨にたたかれた楊柳の梢がゆれているのも情趣に富んだジョウ影です。 靄に煙った広野の果てには国境の山が地平線をぬーとぬきでて山姿がボンヤリぼやけてみえるのも面白い眺めですよ。  お父さん。 こんなにながい間お手紙をさぼってしまってほんとにすみません。 軍務多忙だとつい心にもない御無沙汰をしてしまうのです。 昨日来たお父さんとお母さんのお手紙を読んで私はすっかり嬉しくなりました。暫くたれからもお手

          満州からの手紙#121~#125

          満州からの手紙#116~#120

          満州からの手紙#116 お母さん。 今日はとても上天気です。 赤い夕日が地平の果てに沈みます。 ポツンと立っている電信柱の影が地上に長い影を落として黄昏の色が次第に濃く成って来ます。 兵舎の後の丘が紫色にそまって夕映えの空にクッキリとうきあがってとても美しいです。  今日は笹井君にお手紙をかきました。それから高橋の千代小母さん (エンドウ薬局の) からもお手紙を貰ったので、お返事を書きました。 大阪に行かれた佐野の小父さんからはお手紙は来ませんか、お手紙が来たら忘れず宛名を

          満州からの手紙#116~#120

          満州からの手紙#111~#115

          満州からの手紙#111 お母さん。 昨日お手紙と同封のお写真確かに戴きました。 ほんとうに嬉しく思いましたよ。 私がさき頃から想像していた白髪だらけの弱々しい感じのするお母さんと違って、みるからに以前とは見違える程元気そうなお母さんの姿をみて心の底から安心しました。 お父さんはお写真そっくりだとのことですね。 私はお母さんに比べてあんまり老いてみえるお父さんを実際のお父さんとはズーと違って写っているのではないかとさえ思いました。 以前のお父さんの写真にはまだまだ一種の気覇 が

          満州からの手紙#111~#115

          満州からの手紙#106~#110

          満州からの手紙#106 お母さん。 元気で暮されておいでになるのですか。 四月に入って一度もお便りを戴かないので心配しております。 まさか体でも悪くされて床についておいでになるようなことはないでしょうネ。 心配で心配でたまらなくなったのであわてて筆をとりました。 このお手紙がお母さんの処へとどいたらすぐ御一報下さい。  私は昨日から週番に服務しているのです。 北満もすっかり春の暖かさになったようです。今朝は曠野も丘も兵営も真白く雪が降っていますが、想像以上に暖かです。 よも

          満州からの手紙#106~#110

          満州からの手紙#101~#105

          満州からの手紙#101 お母さん。 兵舎の影がながながと地上に横たわっています。 落日の丘に肌寒い北満の黄昏が刻一刻しのびよって来ます。  今日は三月三日日曜日です。午前中は関東軍派遣の慰問演芸団が来隊しました。 午後は予定通りこうしてお母さんにお約束のお手紙をかいているのです。 さて今日は何からかきましょうか?  北満は今日この頃は随分暖かくなりましたよ、今までは寒さが酷烈だったので雪はあまりひどく降らなかったのですが、今からは雪がひどく降ることでしょう。 ぼたん雪が

          満州からの手紙#101~#105

          満州からの手紙#96~#100+α柔道編(柔道家・忠勝の活躍をご覧いただけます)

          満州からの手紙#96 お母さん。 今日はお手紙を有難うございました。 お元気とのことなので大安心をしました。 この頃随分御無信勝ちに成ってほんとにすみません。 殆ど寸暇もみい出せぬ日々の演習に、とても落ち着いて手紙なぞかいておれない気持ちです。それに読書に心を奪われているので一層お母さんの楽しみにして貰っているお手紙をかくのが疎に成った訳です。どうぞ悪しからず許して下さい。  過日の日曜日は紀元節で延刻外出を許されました。 『午後の八時迄に帰るように』との嬉しい命に東安の町

          満州からの手紙#96~#100+α柔道編(柔道家・忠勝の活躍をご覧いただけます)

          満州からの手紙#91~#95

          満州からの手紙#91『命捧げて来た身じゃけれど 今日も昨日も吹雪の満州』 物凄い昨日の吹雪もいつかとだえて、曇日ながら今日は心楽しい日曜日です。 『今日はお母さんにお手紙する日だぞ!!』 と考えながらも読みかけた漢書 『大学、孝経』 に心を奪われて、今朝から今迄お手紙しなかったのですが、 ついさっき戦友のYが 『おい善家、手紙が三通だ!!』 と知らせに来て呉れたのでさっそく事務室へ印をもって受領に行ったのです。そしたらお父さんとお母さんからのお手紙です。 十三日付の二通の

          満州からの手紙#91~#95

          満州からの手紙#86~#90

          満州からの手紙#86 悪いことをして道徳的良心の呵責の{鞭/ムチ}を心に受けぬ人間なぞ相手にしてもしかたがない。 古人はかく教えられています。 私はそんなにまで冷たい理性の眼で人を眺めようとは思っていません。しかし、 そんな人達が寧ろ気の毒に考えられて来ます。それに尽きぬ名残を心にとめて去って我が道に励むこそ却って別離が生きるのです。 ハ・・・・・。  孟子も、『天の{将/マサ}に大任を人に降さんとするや必らず先ずその心志を苦しめその筋骨を労し、その體膚を {餓/ウ} えし

          満州からの手紙#86~#90

          満州からの手紙#81~#85

          満州からの手紙#81 お母さん。 お手紙二通有難うございました。 私が急にお手紙をあげなくなったのは演習に忙しい毎日を送っていたからで、体が悪くてお便りしなかったのではありません。 どうぞ安心して下さい。 毎日を戦友達と愉快に御奉公しています。  次に、お手紙に寄ると清美君が結婚されるとのことですネ。 意外でもあったし、予期していた当然の事だとも考えました。 お母さん。雅さん達のお手紙を通して静かに眺めた清美君は、私には全くいじらしくてとても可憐に考えられていたのです。 そ

          満州からの手紙#81~#85