結婚したかったかもしれない幼なじみの近況

が、急にFacebookで流れてきてハッとした。

ワールドワイドなあいつらしく、何度目かの海外旅行に出かけた写真が複数掲載されていた。


ていうか、Facebook開いたつもり、まったくなかったのだけど。
スマートフォンの誤作動でいつのまにかFacebookの新規投稿画面が開いていて、
しかも謎のひらがな呪文が羅列されていて、
あやうく乗っ取りみたいな投稿をしてしまうところで、
やれやれと慌てて投稿画面を閉じたら、

レンの知らない写真が目の前に表示されていた。


幼なじみだったレンへの想いは、この投稿で詳しく書いている。
出せなかった手紙の内容も、残してしまっている。



ああ、相変わらず、髪は緑色だ。
18年前からその色って、先駆けすぎだよな。
いまはその派手な色も、自由なファッションもそこそこ市民権を得ているよ。
レンはもしかしたら、見た目だけじゃなくもっとカルチャーを知ってほしい、なんて言うかもしれないけれど。


笑顔で写っている素敵な女性が奥さんかな。



あいつが変わっていなくてよかった。
そして、楽しそうでよかった。
もっと複雑な気持ちになるかと思っていたが、心は、大丈夫だった。


3年連絡を取っていないのに、まだFacebookでつながっていたや。
忘れていたよ、そんなことも。


今でも、どんな場所にいてもすぐに周りに溶け込んで、
みんなをパッと笑顔にしてしまうんだろう。
カナダ、インド、どんな場所に行ってもあっけらかんと帰ってきて、
レン曰く「楽勝な人生」を、そのまま力強く歩いているんだろう。
そうであってほしいと願っている。

たぶん、私が、あの人たちよりも強く。



君の生命力の強さが大好きだった。



少しだけ年下のレンとずっとふたりで会っていた時代、
約15年間。まるで長い物語のようだ。


物語後半になると半年や1年に1回ぐらいしか会うことはなかったけれど、
会うたびに嬉しかったし、会うたびに安心した。


そして、会うたびに
「遠くなっていく」
「共通点がなくなっていく」。
そんな事実と違和感にも気がついていた。



はじまりはお互い学生だったからか、なんとなく同じ世界にいた。
でも社会人になって、お互いまったくべつの業界で、べつの地域で働くようになってからは
お互い会うたびに「違う世界」の話をしていた。


レンが恋人と海外に留学したあたりから、「巣立った」感覚を覚えるようになった。
知らない土地、知らない話題、べつべつの日常。


留学を終え、1年以上ぶりにTシャツにサンダルのラフな服装で私の家近くまでやってきたとき、「いつものレンちゃんが戻ってきた」とひどく安堵した。


当時のレンの恋人は私を敵視した。
レンとふたりでファミリーレストランでご飯を食べていると、1分に1回様子を伺うように携帯電話がふるえていた。


「なんであいつ、ララとはなにもないってこと分かってくれないんだろう」


苛立つレンに、

「そうだね。でもそれは、“あの頃”だったら嘘になっていたね。」

そう返答することはしなかった。


君が私を好きだったときと、
私が君を好きだったとき。
タイミング、どうしても合わなかったな。


帰国したレンは、程なくして彼の祖母の薦めである外国語に特化した専門学校に入学した。

「まあ使ってないと忘れちゃうし、ちょうどいい」


国内にいても飛躍的に語学力が上昇していくレン。


「英語を生かした職に就くのもいいんじゃない?」

定職に就いていなかった頃のレンに提案したことがある。


「このレベルなんて、だれでもできる」

「英語ができるやつなんて溢れてる。仕事で武器にはできないよ」


自分の努力の賜物で、自分の価値が想像以上に高いとはどうしても思えないようだった。


海外の友達の話が多くなった。
定職に就かなくても彼には妙な生命力とたしかな人望があったから、たぶん、だれも心配していなかった。少なくとも私は1ミリも心配していなかった。
ただ本人が夢中になれる世界が見つかればいいと思った。


バイトでまとまったお金を貯めては、いつも気軽に日本の外に出かけた。
パソコンに届いたメールには、向こうで本格的なクリスマスを楽しむ様子や、美しい氷のオブジェのようなものに溶け込む、つめたい藍色の世界が添付されていた。
日本にはない景色と温度がそこにあった。


最近ハマっていること、仕事で好きなミュージシャンに会えた話、ライティングの仕事ができた話、尊敬できる人に出会えた話、両親への悩み。
私も私の世界で起こるさまざまな出来事を共有した。
自慢に取られかねない話題も、レンの前なら「ただの事実」として話せた。


どうしても歌いたくて一生懸命覚えた好きなバンドの英語曲を、カラオケで歌ってみた。
発音がめちゃくちゃでも、レンならべつに批判しないと思った。

「ララって英語勉強してないのになんでそんなにスラスラと歌えるの?向いてるかもしれんわ」

予想外の答えと笑顔が返ってきて、ちょっと嬉しかった。



時が経ち、外国人も多く集まる某大手企業でいつのまにか正社員になっていたレンが、私の隣で愛車のハンドルを握りながらぽつりと言った。


「人生楽勝だなって」


藍色の夜に放たれた真理。



「え?どういう意味で?」

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