幼なじみの男の子、都合のいい夢の話。

夢を見た。
大好きだった異性の友人、レンが出てきた。
この夢は絶対に忘れたくないと思ったのに、
昨日見た夢だったのか、おとといのことだったのか
なぜか正確には思い出せないことが少し寂しかった。

でも、内容はハッキリと覚えている。

どこかの駅のホーム。地元ではない、知っている人と会うはずもないような場所で
突然すれ違った人に腕を掴まれた。
びっくりして顔を見るとレンがいた。
なんでこんなところに?と混乱しながらも、それは紛れもなくレンだった。
学生時代にひょんなことから知り合い、それから15年以上仲の良かったレンの顔を見間違えるはずがなかった。
細身のストライプのジャケットを着こなし、髪はいつものように個性的で鮮やかなカラーリング。
最後に会った約2年前よりさらに大人っぽくなって、元々の顔の良さがさらに際立っている。
会わない間にこんなにカッコいい男の人になっていたのか、と
腕を掴まれたほんの数秒の間に私は思考を巡らせた。

「やっと見つけたよ」
夢の中のレンはそうつぶやいた。

見つけた?
探していたわけでもないだろうに。
けれどその言葉の理由に覚えのある私は罪悪感から顔を直視できず、
腕を振りほどきたくなるが
力が強いのだろうか、まだその腕は解かれない。

「連絡が来なくなって、こっちがどれだけ寂しい思いをしたのか分かるか」

夢の中だけではもったいないほど、現実味のある寂しい表情だった。

私はとても困惑し、何も言えなかった。
そう、私は レンのある報告を境に連絡を取ることをやめていた。

やめていた、というと少し語弊があるかもしれない。
なんて返事をしようか迷って考えている間に、かなりの時が過ぎてしまっていた。
全てを告白するために、長い手紙を書いたりもしたけれど
今それを知って、あいつはどう思うのか。
邪魔をしてはならないし、余計な情報は慎むべきなのではないかと思った。

それならば本心を隠して当たり障りのない返信をすれば良かったのだが
これまでの付き合い、そしてこれからの付き合い
全て同じなんて無理だと思った。

心から申し訳ないと思ったけれど、
本人を前にしても、言うべきか、何も言わないべきか
腕を掴まれている間に決断することはできなかった。
悩んでいる間に現実の世界になっていた。

夢の中ですら渡せなかった手紙。

寂しい?
私だってそうだ。
連絡をしなくなったのは私の意思だ。
寂しさを埋めることは簡単だった。
自分を偽ればいいだけだ。
だからこそ、「そうしたくなかった」。

ある報告とは、レンの結婚報告だった。

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