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「 ウエハースの椅子 」

「 ウエハースの椅子 」

「恋することの孤独と絶望を描く傑作」

この紹介文に惹かれて読み始めました。愛する恋人もいるし好きなことを仕事にし平穏な自分の暮らしを持っている、一見幸福な主人公。だけど絶望を抱えながら生きている。既に家庭を持つ恋人だからその幸せには絶望が付きまとうのです。読んでいても幸せな描写と孤独の描写が交互に入っていて、幸福と孤独は紙一重だなと感じました。

主人公と恋人の優しいやりとりが印象に残っています

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「 猫を抱いて象と泳ぐ 」

「 猫を抱いて象と泳ぐ 」

小川洋子さんの「口笛の上手な白雪姫」という短編集の感想をnoteに投稿してから1年半ほど経ってしまいました。

このnoteの終わりにも読みたいと書いた「猫を抱いて象と泳ぐ」の感想を今日は書きたいと思います。本当は1年くらい前に読み終えていましたが、すっかりタイミングを逃していました。

この本も、小川洋子さんの綺麗な文章と不思議な世界観に引き込まれ比較的短期間で読み終えました。小川洋子さんの小説

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「 赤と青とエスキース 」

「 赤と青とエスキース 」

帰省した時に母から借りた本。難しく考えないで読めて優しい気持ちになれる本を借りたいって言ったらこの本を貸してくれた。

一枚の絵画を巡る連作短編集。ひとつひとつの短編は独立してるように思えるが、最後まで読むと一本の線として繋がっていく。そこがすごく面白かった。

全体的にロマンチックだなあとは思うけど、ところどころ共感できる現実の部分もあり切なさも感じた。登場人物の弱さや不器用さも、まだ20年ちょ

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「 一人称単数 」

「 一人称単数 」

 村上春樹さんの小説を読むのはこれで2回目だ。

 1回目は中学生の時、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という本を読んだ。

 読んだきっかけは不純で単純。「中学生で村上春樹の小説読んでるのすごくない?」というちょっとした虚栄心からだ。

 実際に読んでみると、やっぱり難しい。そもそも当時の私にとって知らない言葉が多かった。あらすじも正直ほとんど覚えてなかったのだが、それでも結末のなか

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「 あなたは、誰かの大切な人 」

「 あなたは、誰かの大切な人 」

 10月末、秋だけど春みたいな気持ちが良い暖かい日に、家の鍵をなくした。

 ちょっとした外出の矢先だった。心あたりがある場所に電話を掛けても交番に行っても、どこにもなかった。

 一人暮らしなので鍵がないとどうにもならない。せっかくの日曜日に何をしてるんだろうと落ち込んだ。

 そんなわけで突然家に帰れなくなり、充電もギガも瀕死のスマホと財布しか持っていなく、ぼーっとしていてもどんどん落ち込むだ

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「 1984年に生まれて 」

「 1984年に生まれて 」

 長い時間をかけてゆっくり読んでいたこの本。とうとう読み終えた。

 1984年に中国で生まれた主人公の軽雲、それより15年以上も後に日本で生まれた私。環境も時代も異なるのに共感できる部分が多々あった。

 特に、軽雲が大学卒業を控え将来に悩む序盤のシーンは、現大学3年生の私も痛いほど分かる気持ちだった。

 平凡な毎日に少しの不満を持ちつつも、いざ挑戦しようとすると迷ってしまい決断できなくなると

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冷たい雨の降る秋の夜に

冷たい雨の降る秋の夜に

 だいぶ日が落ちるのが早くなってしまったこの季節になんとなく思い出した4冊の本について少しだけ語りたいと思う。



  ⚪東京タワー

 タイトルと表紙だけで読みたくなってしまった。どうして、東京タワーってこんなにも惹き付けられるのだろう。

 「待つのは苦しいが、待っていない時間よりずっと幸福だ 」(「MARC」データベースより)

このキャッチコピーも美しい。

 登場人物は年上の女性に夢

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「 新しい星 」

「 新しい星 」

 書店よりも古本屋で買う、もしくは図書館で借りる派の私が、新品の単行本で手に入れたくなる本がある。

 それは彩瀬まるさんの本だ。2年くらい前に「やがて海へと届く」を図書館で借りて読んだことをきっかけに彩瀬さんの本に興味を持つようになった。

 彩瀬さんの描く文章は綺麗で読みやすく、ときには中毒性がある。「やがて海へと届く」も本の中に描かれているある文章がなんとなく頭から離れず、数ヶ月前に新品の単

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「 口笛の上手な白雪姫 」

「 口笛の上手な白雪姫 」

夜、入浴剤を入れたお風呂に入りながら、この短編集を1つ読むという最近の楽しみがなくなってしまった。

1つ15分前後で読める短いお話にも関わらず、小川洋子さんの不思議な世界観に入ることができる素敵な短編集だった。

小川洋子さんのお話といえば、有名な「博士の愛した数式」と高校の現代文の教科書に載っていた「バックストローク」しか読んだことがなかったが、これをきっかけに小川洋子さん独特の世界観にはまり

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