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#小説
【短編小説】The Angle’s Apple
ママと、幼稚園と、真っ赤な林檎。
それがハルの好きなもので、ハルを取り巻く世界の全てだった。
ハルは精神科の勤務医である猪俣晴(イノマタ ハル)から取って名付けられた。ハルは毎日幼稚園から帰って来ると、自ら制服を器用に脱いで部屋着に着替える。柔らかい綿素材で作られたピンク色のセットアップに、母親がうさぎのアップリケを付けた。母親が買ってきた安い衣料販店の服は、すぐにハルのお気に入りとなった。着替
【短編小説】オールドファッション
静かに眠る彼の二の腕が冷え切っていたので、私はそっと毛布をかけた。寒いと感じたら、彼が無意識のうちに毛布の中に潜っていくことを私は知っている。それでも私はそうせずにはいられない。
こういう些細な衝動は愛からくるのだろうか。だとしたら、愛は押しつけがましいものだ。
目が覚めた時には彼はもう起きていて、ケータイを見ながらコーヒーを飲んでいた。7時15分。アラームが鳴ったのは15分も前のことだったら
【短編小説】ぬるいプリン
落とした気分を拾ってもらって、冷めた身体を温めてもらって、私はどんどん彼にのめり込んでゆく。
この遣る瀬無い感覚にすら、恋は私を酔わせてゆく。
エレベーターの中は、いつも無言だ。
さっきコンビニで買ったプリンが入った袋が、微かに揺れている。その音が耳に障るくらいの静けさ。
だけど手を繋いでいるのだから、間を持たせる言葉は必要ないのだ。
部屋に入ると彼は、いつも通り先にお風呂を譲ってくれ