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映画『青いカフタンの仕立て屋』をみる。

『To Leslie トゥ・レスリー』鑑賞直後の、シネ・リーブル梅田であります。緊縮財政気味にまいりますとは一体何やってん、とはいえ日本ではまだ2作目となるモロッコ長編映画の公開、かつその両作を手掛けたのがマリヤム・トゥザニ監督であるという圧倒的事実。映画通のみならず美術好きから雑貨マニアまでをも虜にできる、優しくも温かな至高の122分間です。

近東諸国やイスラム文化圏で着用されていた民族衣装に由来する、ゆったりとした長丈の衣服「カフタン」。その職人ハリム(サーレフ・バクリ)と接客担当の妻ミナ(ルブナ・アザバル)の元へある日、ユーセフ(アイユーヴ・ミシウィ)と名乗る青年が訪ねて来る。端正な顔立ちと確かな手筋に思わずミナも嫉妬心を抱く、湧き出る感情を抑え切れないのにはもう一つ理由があった。

本作の最重要ファクターである「同性愛」について。異性愛のみが許容され得るモロッコ社会にはいわば「本当の自分」を隠して生きる、そんな人々の存在がある。例えばそこは大衆浴場であったり、市場であったり、カフェであったり。「伝統を守り抜く」という職人としての矜持と「伝統に反する」生き方と常に向き合い続けなければならないという現実、この対比が見事。

あるいは「生と死のコントラスト」。余命幾許もないミナが、ハリムに時折見せる甘えた姿。ハリムとユーセフの間に流れる、花風のような心地良さ。あくまでさりげなく、そこはかとなく連なる映像の数々に時を忘れて酔う。「フォーマル・ドレス」としてのカフタンをここまで意欲的にかつ挑発的に描いたラストというのも、かつてなかったように感じます。非常に力強い。

色彩心理の妙、つまりなぜ「青いカフタン」を選んだかについても考察してみようと思います。見立ては二つです。「穏やかさ/冷静さ」を表す寒色の青と、「青信号」の青。このダブルミーニングであると考えましたが皆様の見解はいかがでしょうか。一度走り出したらこの気持ちにもう誰もブレーキを掛けることなどできない、ただあくまでもクールにやってこうな。の意。

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