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📚 【小説】 登堎人物たちの蚀葉 ドむツを舞台にした緊迫のスパむ小説 『JADE 衚象のかなたに』より

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2016幎刊行の小説『JADE 衚象のかなたに』PHASE シリヌズ第二匟


※本䜜の抂芁ずプロロヌグの詊し読みは、こちらの蚘事でご芧いただけたす▌

💡この蚘事は、2016幎初版第䞀刷発行文芞瀟の小説『JADE 〜衚象のかなたに〜』の本文から、登堎人物たちの科癜や回想、印象的なシヌン等をピックアップした切り抜き玹介の蚘事です▌


●憲玲ケンレむ

「あなたがたさか、䞀囜の嚁信や利益のために他囜ず利暩の奪い合いをするような組織に身をおいおきたなんお  。それも政治的郜合次第では、時に教団ず戊った過去のあなたず同様の、怪物化した勢力に察抗する掻動家たちや、どこかの囜の人民解攟軍を暙的に、力を行䜿しかねない情報機関よ もちろん、逆にそういう掻動家たちに手を貞しお、埌抌しをする偎に回るこずもあるでしょうけど。時ず堎合によっお、自囜の郜合次第でね」


ドむツ連邊情報局BNDの諜報員

「期埅倖れで悪いんだが、珟圚いたある俺の䟡倀芳自䜓、そもそもが無数の過ちの䞊に成り立぀ものだ。さんざん加担しおきた身だからこそ、数倚の教蚓を埗おこうなった。軌跡をたどれば、矛盟たみれの人間さ」

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【十数幎前の回想】

●はふず、自分がスカりトされた日のこずを思い出しおいた。最初にを蚪ねおきた䞉十代半ばぐらいの勧誘員は、゚リヌト意識の匷い錻に぀く態床で、こう投げかけおきた。

「私は囜家ず欧州の治安のために働いおいる。君のその才芚を、より倚くの人々のために掻かさないか」ず。

 駅たでの近道に圓たる公園の䞭、人通りの少ない堎所を通り抜けおいくずころで、出し抜けに本名で呌び止められたは、その蚀葉に醒め醒めずした衚情を浮かべ、逆に勧誘員を問い詰めた。

「 ─── それで あんたは今の仕事に満足なのか 本気で自分が意矩ある確かなこずのために、陰で人知れず英雄的行為を果たしおいるずでも」

 想定倖の切り返しに面食らった様子で、勧誘員は䞀瞬衚情を曇らせおいた。

「特定の組織における『仕事』ずいうや぀は、そこに属する者から遞択暩を奪い、個々人の意思や倫理芳を麻痺たひさせおいく偎面がある。たしおあんたたちのような陰の政府組織ずなるず、末端実行者たちは、事の本質や倧局的な目的を知らされもせず、自分たちが䜕に加担しおいるのかさえ わからないたた動くハメになりがちだ。単なるゲヌムの駒こたの䞀぀ずしお、知らず知らず方向舵の狂った汚い裏工䜜に利甚されおいた、なんおこずも床々だろう。
 䞀方で成し遂げたプラスの掻躍分を、片端から盞殺そうさいするほどのマむナスぞの加担 ───。そんなこずの繰り返しで、本圓はあんた自身も、自分が䜕のために今の仕事に就いたのか、䜕を目指しおいたのか、忘れかけおいるんじゃないのか」

 入局の動機には、単なる怖いもの芋たさの奜奇心や飜くなき冒険心、胜力的適性や生掻のためなど、様々なものがあるのだが、端から䞍明瞭な根拠でその道の仕事を矎化し、特暩意識に酔い痎れおいたような印象がある目の前の勧誘員に向けお、は曎に容赊なく远及した。

「理想ず珟実のギャップを目の圓たりにしお、入局圓初に抱いおいたむメヌゞはずうに厩れたが、せっかく手にした非凡な身分は捚おがたく、今はただ、力を持った倧きな歯車のパヌツずしお、䞻䜓性のない゚リヌト意識だけを支えに、隙し隙し惰性で仕事を続けおいる。実態はそんなずころだろう」

 もはや返す蚀葉も浮かばない様子で、勧誘員は蚀われるがたたになっおいた。

「他人に向けお珟実味のない理想論を語る前に、自分の珟状をよくよく自芚しおから口を開くこずだな。あるいは、はじめから玠盎に蚀えばいい。『お前も生掻手段が必芁なら、共に薄汚く囜家の犬ず化しお、他所の囜々や良民を食い物にしに行かないか』ずな」

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●にべもなく断られお、䞀芋すんなり身を匕いたように芋えた圓局だったが、圌等はその実、を諊めおはいなかった。その埌䞀幎近くにわたっお、綿密にの人物調査をし、しぶずく圌の動向を芳察し続けおいたのだ。

 やがおが、倚勢に無勢な教団ずの攻防戊に疲匊し、経枈的にも逌迫ひっぱくしお、切実に倧きな転機を欲するタむミングを芋蚈らっお、圓局は再び声をかけおきた。我々なら必芁なものを䞎えられる。蚌人保護さながらに過去を抹消しお、教団に突き止められる心配のない別人の人生や架空のを手配するこずも、容易にできる。我々にはその力があるのだから、ず。

「人間の刀断に狂いが生じ、らしからぬ方向に身を萜ずしおいくきっかけは、倧きく分けお䞉぀ある。明日を暮らす金に困ったずきず、背䞭に負った厄介事が蚱容範囲を超えお、䜙裕を倱くしたずき。そしお最埌に、受け入れがたい珟実に盎面しお、頑なな拒絶に陥ったずきだ」

 が蚀った。

「俺が無瞁なのは、䞉぀目だけ。どこかの宗教信者ず違っお、䞍郜合な事柄にも目を䌏せないのが俺の匷みだからな。だが明日の生掻に必芁な皌ぎを埗られお、圓時の圢勢䞍利な状況を脱するこずができるなら、あの頃の俺は䜕でもやった。目に芋えお明らかにマズいずわかりきっおいる釣り針付きの逌でさえ、矎味そうだず錯芚するほど切矜詰たっお ─── 」

 生き抜くために必芁なものを埗る代わりに、぀いに官憲の手先ず化しお情報戊の道に螏み入っただったが、衚瀟䌚のルヌルにがんじがらめな他の政府機関ずは違い、独自のルヌルで法の裏偎をひた走り、犁じ手もいずわない圓局のあざずいやり方は、圌の気質にピタリずハマり、特泚のスヌツのような違和感のなさだった。気付けばある時期から、そんな裏瀟䌚の血生臭い攻防戊や自分自身のどす黒い人生に、快感を芚えるたでになっおいた。

 この薄汚れた䞖界では、誠実さや良心など、敵に付け入られる匱みでしかなく、恥ずべき未熟さに他ならない。玔粋さもたた、敗者の蚀い蚳。倧昔から謀はかり合いや殺し合いの歎史を繰り返しおきた人類の䞀員ずしお暮らす以䞊は、より汚く、より冷酷になるが勝ちだ。

 
そんな倒錯した倫理芳に生きおいた。その皮の勝利の先にあるものが、実はミむラになったミむラ取りだけが行き぀く魂たたしいの無瞁墓地なのだずは、知る由もなく。

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●䜕をどう改め、どんなに足掻こうず、自分のような人間の歩む道に、本圓の意味での平穏など氞久的に蚪れはしないだろう。たずえ今ずは異なる真っ圓な職業に就いたずしおも、同じこず。そういう星の䞋に生たれ぀いた身なのだ。

 この人生は戊乱そのもの。そしお戊乱は混沌。善も悪も、正も誀も、そこではすべおの区別が入り乱れお境界を倱くし、あずはただ生き残りをかけお、血みどろの殺し合いが続くだけ。

 さながら、凄惚な過去に教蚓を埗お長らく歊力行䜿を拒んできたずいうのに、時代の倉化に応じお再び他囜に掟兵するに至った近幎のドむツ軍のように、たた歎史䞊共通の歩みを持぀日本の自衛隊が、これからたさに盎面しようずしおいる行く末のように、䞀旊足を螏み入れたら最埌。どこたでやるか、やらないかずいった事前のガむドラむンなど、生死をかけた混沌の只䞭では、いかに遵守じゅんしゅ䞍可胜な机䞊の空論であるかが たちどころに蚌明されお、誰であろうず手を汚さずには枈たせられない。

 はじめから目に芋えおいたはずなのに、らしくもないこずに、はそうした先々のこずを意識しないよう、思考を鈍らせおきた。圌女ずの今を、終わらせたくなくお。

 ─── 䞀䜓䜕をやっおいるんだ、俺は  。それでも圌女を、手攟さないのか

 自分自身に向けたその問いかけに答える声は、の䞭で未だなかった。

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●ノェルナヌBNDの顧問心理孊者で、にずっおは叔父のような存圚の友人

「我々が感情ある人間ずいう生き物である以䞊、この䞖に䞀人も本音をさらけ出せる盞手を持たずにいるのは、かえっお危険だ。人ずいうのは、他者ずの関係性の䞭で自分を床々再確認し、バランスを保っおいくものだからね。どんなに気䞈な人間でも、自分独りの絶察性の䞭で己を保ち続けるのは、至難の業なんだ」

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【いの䞀番の敵だった゜連厩壊埌もなお存続する自組織BNDの珟状2016幎圓時に぀いおの発蚀】

●「さながら兵士の末路さ。乱䞖においおは切実に必芁ずされた芋え・・ざる・・凶噚・・たちが、責務を果たしお目指した平和を手に入れるず、途端に癜県芖されお居堎所を远われるハメになったんだからな。甚枈みになっお尚、その内偎に黒い力を保ち続ける危うい存圚ずしお」

 話の途䞭で、憲玲ケンレむの髪が颚に吹かれお目にかかるのが芋えたので、は殆ど無意識に手をやり、圌女の髪を敎えおいた。

「時の革呜軍やレゞスタンスなんかも、その意味では同じだ。歎史を遡さかのがれば、独裁政暩打倒のために結集した抵抗勢力だったり、民意を代行しお立ち䞊げられた掻動家グルヌプだったりしたものが、やがお時代の移ろいの䞭で圹割を倱くし、力を持お䜙した結果、マフィアやネオナチたがいの新たな脅嚁ず化しおいった、なんおいう実䟋が、䞖には溢れ返っおいる」

 日本でが招集した地䞋グルヌプも、がきっぱりず解散宣蚀をせず、あのたた留たり続けおいたら、同じ䞀途をたどっおいたかもしれない。打倒教団ずいう最倧の目的を果たしおしたえば、あずに残るのは、歊噚ずしおの宙ぶらりんな手段ず、存圚意矩を倱くし無法地垯ず化した枠組みだけ。そんな枠組みを維持するこず自䜓が目的ずしおすり替わり、そのために手段を行䜿し始めたらどうなるかは、明癜だ。

「ようするに、結成圓初の目的がどうずか、䜓制偎か反䜓制偎か、なんおいう区別は倧した問題じゃないっおこずさ。集団的なる力はそれ自䜓、明確な敵や解決すべき問題を埗お初めお需芁を埗る、䞀皮の歊噚だ。それだけに、どんな組織もどんな枠組みも、行き着く果おは皆同じ。明日の平穏を脅かす、治䞖の奞賊かんぞくなのさ」

 醒めた目぀きでがそう括るず、しばらく黙っお耳を傟けおいた憲玲が、思わぬ切り返しでこう投げかけおきた。

「でも、だからこそ、䜕かの組織や集団瀟䌚から離れた別な堎で、誰かず個人的に血の通った関係を育んでいったり、敵を䜜らなくおもできる事柄の䞭から、それたでにはなかった目暙を芋出したりするこずが、倧きな意味を持っおくるんじゃない」

 の目をじっず芋぀めお、圌女は続けた。

「あなたの芖点がすでにある、あらゆる枠組みの倖偎で、自分なりの䟡倀を再構築するの。砎壊者時代の自分ずはたったく異なるカラヌで続く道を圩っお、気持ちだけでなく実際に。それが本圓の意味での乱䞖の終結、第二の人生に向けおの第䞀歩っおものなんじゃない それを芋出した人、その倉化を受け容れられる人なら、やり盎せる。たずえ無力な単独者でも」

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●「憲玲、もし䞇䞀、この街を焌け野原に倉えたい぀かの時代みたいに、ナショナリズムだのむデオロギヌだの、集団狂気の戊火が䞖界䞭を呑み蟌んでいくような時代が再来したら、お前はどうする」

 珟に䞍況の煜りで、自分たちの生掻氎準が満足できるレベルに達しおいないず感じおいる人たちが、移民や倖囜人など圓たりやすい察象に矛先を向けお、その醜い憎悪に囜家暩力の埌抌しを期埅するような右寄りの傟向が、方々の囜々で匷たっおいる。ナチの台頭も、元はず蚀えばそうした倧勢の民意が招いたものだった。䜕しろ圌等は、れっきずした遞挙によっお、合法的に䌞し䞊がっおきた政党の䞀䟋だったのだから。

 それを思うず、䞀芋遠い昔の事柄のように芋えお、枩床はすでに出来䞊がっおいるず蚀えるだろう。か぀おの悪倢は、きっかけ䞀぀で明日の珟実だ。

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【極右組織のメンバヌずのやり取り】

●「第䞉垝囜など、はじめから存圚しない。圢も埗ないたた頓挫ずんざしお消滅した、倚くのナヌトピアの䞀぀にすぎない」

極右組織のメンバヌ「圢の有無は問題ではない 我々は、囜家ず民族のアむデンティティに関わる重倧な問題のために尜力しおきたんだ それを貎様のような、劣悪な血に毒された他所者よそものの雑皮が ───」

「アむデンティティ  。自分たちずは異なる他のあり方を吊定するこずでしか確認できない、あやふやで盞察的な茪郭の話か それずも、掟手な砎壊行為がオリゞナリティの蚌明になるず錯芚する、自己満足の皚拙な特別意識のこずか それず同じような持論を、さも自分たちならではの斬新な意芋であるかのように䞻匵する䌌たり寄ったりな連䞭は、他にも腐るほどいる。正盎蚀っお、俺は聞き飜きた」

 囜際瀟䌚の干枉で、望むほど政治的圱響力を回埩できない圌等の、もはや『むデオロギヌ』ずさえ䞻匵できなくなっおいる珟状は、の目には滑皜こっけいですらあった。

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●スナむパヌ「俺に蚀わせれば、我こそは善良な人間だず思い蟌んでいる正統掟ぶった連䞭ほど、自分の気に入っおいる盞手や身内以倖なら、誰でも平気で犠牲にする。存圚䟡倀に優劣を぀けお差別化する、その公害的な䞍平等こそが、人間愛ずいうものの正䜓なのさ」

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●スナむパヌ「俺やお前のように、守っおくれる家族䞀぀埗なかった埌ろ盟なき人間は、身内ばかり莔屓ひいきにしお他人をクズ扱いする䞖の恵たれた連䞭から、ゎミのように扱われおきた身だ。その怒りや鬱憀うっぷんを原動力に倉えお、抜きん出た存圚になるすべを、垫から孊んだはず。なのにお前は、この期に及んであっさり足を掗い、か぀お俺たちを嘲笑った連䞭の䞀員になる道を遞んだ。無害を装った害虫どもの䞀員にな」

憲玲どこかで聞いたような話にも思えた。そう、あの・・䞀件・・の関係者たちに芋おきた、䞖の䞭ぞの歪んだ嫉劬ず敵意、コンプレックスの裏返しである特別意識ず遞民思想、そしお力を誇瀺するための皚拙な砎壊願望  。

 䞖界のあちこちで暎力任せの隒動を匕き起こしおきた恐怖支配の支持者たちも、根っこの郚分は同じだ。どんなにもっずもらしい䞻匵を掲げおいおも、結局のずころ、自分たちの人生がうたくいかない理由を、郜合よくすべお他人や䞖の䞭のせいにしたがっおいるだけ。暎力以倖に人に勝るすべがなく、正攻法では誰も振り向かせるこずができないから、䞀暎れする奜機や、それを矎化する聞こえのいい蚀い蚳材料を芋぀ければ、喜んで食い぀くのだ。

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●人の歎史は殺し合いの歎史。どの時代にも䞖界のどこかで戊争があり、倧勢の血が流れおいる。平和的に暮らせる箇所が存圚するずすれば、それは誰かの正矩の行いがもたらした良心の勝利ではなく、呚りに必芁ずされる『力』の䞋にできた束の間の安党だ。

 恒久的な平和をもたらす絶察的に正しい䞀本道など存圚せず、たた怪物を䞀人も生み出さずに枈む時代などずいうのも、存圚し埗ない。どんな囜でもどんな人間でも、きっかけ䞀぀で怪物になり埗るし、すべおの人間が良心に埓った遞択をしお、この䞖から暎力や戊争を皆無にするなどずいうこずは、実珟䞍可胜なナヌトピアなのだ。

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●憲玲「自分を信じられないなら、私を信じお」

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●憲玲「䜕かの身莔屓みびいきな庇護ひごや埌ろ盟を埗なくおも、それを蚀い蚳にせず飄々ひょうひょうず信望を築き䞊げおきた者同士、唯䞀無二の存圚ぞの敬意で、互いに護り合う道があるこずを、あなたは行動で瀺しおきた」

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●「どの囜、どの民族に属しおいるかは、俺の刀断基準にはなり埗ない。圓局の狙いがどこにあれ、俺個人にずっおは、䞀人䞀人が独立したただの人間だ」

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【憲玲ずの䌚話の䞭で】

●ファトスの元協力者でアルバニア人の回想

「旊那を芋おいるず、盞手がどの囜のどんな肌の色をした人物かずか、数ある宗教のうちのどれを信じおいるか、なんおいう色々のこずが、どうでもいいちっぜけなこずのように思えおくるんでさぁ。長い間ずっず、そういうこずに囚われた人たちに振り回されおきたから、あっしは旊那ずの出䌚いを機に、䜕のカテゎラむズにも瞛られない ただの人になっお、生たれ倉わろうず決めたんでやす。旊那はそれを理解しおくれお、あっし䞀人では実珟できなかった色んなこずを、可胜にしおくれたんでさぁ。仕事の域をも超えお、最埌の最埌たで」

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● 麒麟きりんの捕らえた䞭囜の工䜜員

「 ─── 今だから打ち明けるが、正盎蚀っお、あんたのこずは嫌いじゃない。あんたはここの連䞭ずも、他の誰ずも違う。少なくずも、囜家の犬っおタむプじゃないしな。

 前々から思っおいたんだ。あんたほど頭の切れる人間は、孀独だろう 自分に釣り合う盞手など、探せどうは芋぀からない。優れた技を発揮し、レベルの高い話をすればするほど、それを真に理解する者がいない珟実に苛立ち、内心虚しさを募らせおきたはずだ。そしおあるずき芚る。物分かりの悪い足手たずいな『身内』より、自分ず互角の正確な読みで察抗しおくる、手応えのある敵こそが、この䞖で唯䞀『友』ず呌ぶに盞応しい存圚かもしれない、ずな」

「蚀っおおくが、ここの『身内』は、あんたが思うほど無胜じゃない。どうやらあんたの方は、そういう点では恵たれなかったようだがな」

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●憲玲「ここだけの本音を蚀えば、私は護っおほしくなんおない。呜がけで護られるこずで愛情の深さを再確認しお嬉しくなる、なんおいう身勝手な女の心理が、私には党く理解できない。そんなのは、盞手のこずを本圓には愛しおいない蚌拠。結局自分が可愛いだけなのよ」

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●ラルスの同僚で友人。狙撃の名手

「人を愛するのなんお、案倖簡単さ。自己満足でも、想いたいように想えばいい。でも誰かに愛されるのは、ずおも耇雑な問題だ。受け止め方を知らない奎等には、尚曎のこず」

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●「憲玲、お前は俺を通しお、
 垰らぬ人物黒朚の面圱を芋おいるだけだ」

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●憲玲「、あなた、自分が愛されおいないず本気で思っおいるのね 自分のような人間は、誰からも真には望たれない。愛されるはずがない。そんな思いが無意識のうちに纏たずわり぀いお、長い間ずっずあなたの䞭を支配し続けおきた。そうなんでしょう」

 觊れ合おうずする床に、圌が埌ろめたそうな衚情を芗かせたり、䞍自然に歯止めをかけたりするので、憲玲は䞍思議でならなかった。はじめは単に気遣っおいるのか、あるいは黒朚のこずで負い目を感じおいるからだろうず思っおいた。 だが違う。それだけではなかったのだず、今はわかる。 圌はおそらく、憲玲の過去に黒朚ずの接点がなかったずしおも、同じような態床を取っただろう。䞎える愛はあっおも愛されるこずを想定できないせいで、盞手が泚ぎ蟌む想いの䞀切を、珟実なはずがないず垂れ流しおいっおしたう。そういう人なのだ。

「私にも同じ経隓があるから、わからなくはない。そんな颚に感じるのは、あなた自身が、これを芋せたら盞手が誰でも恐れ慄き軜蔑しお、自分から逃げ去っおしたうに違いないず思うような、䜕かずお぀もなく倧きな闇を隠し続けおいるからよ。誰ずも分かち合うこずなく、自分䞀人で抱え蟌んで」

 の目をじっず芋぀めお、圌女は続けた。

「だけど私は、黒朚にさえ芋せずにいたもの、打ち明けられなかったこずでも、あなたには掗いざらい芋せおきた。生き恥も曝したし、衝突もした。なのにあなたは、䜕故い぀たでも心を閉ざしたたた、自分を曝け出そうずしないの 頑なに制限を぀けお自分で自分を瞛り぀け、封印の檻の䞭に閉じ蟌めおいる。そうするこずで䞀番苊しむのは、あなた自身なのに」

 には䜕も答えられなかった。鋭利な切れ長の目を芋開いお、その堎で固たっおしたっおいた。これたで誰にも螏み入られたためしがなく、特に意識する機䌚もなかった深郚に迫るその指摘に、他ならぬ圌自身、明確な答えを持ち合わせおいなかったのだ。

 そんなを前に、憲玲はやりきれない思いで頭をもたげた。

「なんおこず  。あなたは本圓に、嘘ず真実の区別が぀かなくなっおいたのね。目の前の真実を信じきれずに疑い続け、嘘を蚀っおいる぀もりで本心の方を口走っお。そんなだから、自分自身はおろか他の䜕者をも、本圓の意味で受け止めるこずができないのよ。愛だの恩だの絆だの、そういう人間くさい䞍確かなものに察しお、受容の噚になりきれない」

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●憲玲の回想

 あれは確か、十代半ば頃のこず。䞀応銖茪は぀いおいたのだが、盞圓ひどい扱いを受けおきたず芋られる、傷たみれの捚お犬を拟っお垰ったこずがあった。人を寄せ付けない猜疑心さいぎしんに満ちた県をしおいたその犬が、どこずなく圓時の自分自身ず重なっお、攟っおおけなかったのだ。誰にも心を開かず、今にも噛み぀きそうな圢盞で嚁嚇いかくしおばかりいたけれど、自分ずなら䟋倖的にうたくやっおいけるかもしれない。そう思った。

 だが憲玲は皋なく、考えの甘さを思い知らされた。䞀緒に暮らし始めお二ヶ月が経ずうずいう頃、䞀芋すっかりな぀いお、通じ合えたものず思っおいたその犬を、圌女が䜕気なく抱き䞊げようずしたずきのこずだ。犬は差し䌞べられた手を突っぱねお、圌女を拒絶したのだ。冬の寒さに凍えおいたので、暖かい屋内に入れおやろうず思ったのだが  。

 その埌䜕床詊しおも、同じだった。産たれおから䞀床も抱き締められた経隓がないのではないかず思うほど、党く抱き癖の぀いおいないその犬は、どうやっおも腕の䞭に収たっおくれず、力の抜き方䞀぀わからない様子で、党身を硬く匷匵らせおいた。

 そんなこずを繰り返すうち、犬はやがお、りンザリしたような顔で憲玲を遠ざけるようになり、果おにはどこかに姿を消しおしたった。

 圓時は単に、嫌われたのだず思っおいた。しかし今振り返るず、あの犬は圌女に愛想を尜かしたわけでもなければ、愛されたくなかったわけでもない。ただ抱かれ方がわからなかったのだ。

 あのりンザリずした目぀きも、そんな自分自身に察する倱望の衚れ。誰よりも孀独で抱擁を必芁ずする身でありながら、それを埗られる環境に身をおくず、うたく銎染めない自分がいる。あたりに想定倖な恵みに察しお、珟実味を感じられない自分に気付かされる。そしおやがお、自分のような者には、あんなにも嫌ったはずの元の䞖界、屋根もなく荒涌ずした独りきりの䞖界にしか、居堎所がないのだずいう珟実を芚る。身䜓の隅々にたで冷たい倖気が染み付いおしたった、氞遠の野良犬だ──。

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●ラルス「どこずなく䌌た者同士だな、君等二人は。仕事や䜕かでは、䞀芋誰よりも有胜で抜け目のないタむプず芋られるだろうが、その実プラむベヌトでは、たるで抱き癖の぀いおいない野良犬のように、極めお䞍噚甚な愛され、、、䞋手、、。そういう共通の匂いがするよ、君等二人には」

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●憲玲「あなたは、愛情に背を向ける挔技で危険を回避しようずしおいるんじゃない。危険を回避するふりをしお、愛情から逃げおいるのよ それも、愛され方がわからないずいう、この䞊もなく情けない理由のためにね」

 蚀いながら、憲玲の脳裏にたた、ラルスの蚀葉がよぎった。 

『どうやら、君もあい぀も、独りでいる幎月が長すぎたようだな。  誰かに倧事にされるこず自䜓に、䞍慣れで䞍埗手な人皮なんだ』ず。

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●憲玲「私を哀れず蚀ったわね 勘違いしないで。哀れずいうのは、あなたのような人間のこずを蚀うのよ」

 薄い唇を固く結び、匷匵る顔で静止しおいるの胞元を、憲玲がたた、掎んだ衣服ごずぐいず抌した。

「あなたは、人生を生きおすらいない 闘いの日々に明け暮れお、気付けば心の開き方䞀぀わからなくなっおいた、顔も名前もない惚めな人生の喪倱者。そしおそんな自分自身の至らなさに耐えかねお、ニセモノで塗り固められた道に舞い戻ろうずしおいる臆病者。それがあなたずいう人の実態よ なんお哀れな男なの」

 か぀おの自分自身に察する蟛蟣しんら぀さを織り亀ぜながら、圌女はそう責めたおた。

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●人ずいうのは、生きおいくうちに知らず知らず、倚くを倱っおいくものだ。パタヌン化された日垞生掻の摩滅の䞭での、喜怒哀楜の喪倱。呚りの倧勢に銎染もうず、調子を合わせお暮らすうちに倱われおいく、元来のバランスやコントロヌルの喪倱。無個性で機械的な圹割ばかりが求められる仕事人生における、アむデンティティの喪倱。ずきに鬌にならねば生きられないような状況䞋での、良心の喪倱  。

 それらの喪倱の延長䞊で、物事のラむン匕きができなくなった亡者たちが、二心のある暩力者に操られたり、䌌た者同士で矀れをなしお組織化したりしお、公害的な砎壊力を発揮するこずも少なくない。ただそち、、ら偎、、ではなかった人たちをも、匷匕に巻き蟌んで加担させ、同じ喪倱者ぞず転萜させお。

 ノェルナヌは、そうした深刻な自己喪倱を防ぐ匷力な歯止めになるのが、自分の真の姿を知る身近な者の存圚だず語っおいた。そういう盞手ずの関係性の䞭で、繰り返し床々自身の立ち䜍眮を確認し、己を保っおいくのだず。

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●ひょっずするずノェルナヌの語った真実の関係ずいうのは、必ずしも『愛』ず同矩語ではなかったのかもしれない。恋愛であれ家族愛であれ同胞愛であれ、愛はずきに身勝手で残酷で排他的で、危なっかしい代物だ。その蚌拠に、自分たちの遞んだ愛すべき察象以倖には、暩利も䟡倀も認めないような人々こそが、倧昔から進んで迫害や䟵略や虐殺を行っおきた。䞀郚の限られた盞手だけを特別芖し、䞖界の䞭心におこうずするあたり、他のすべおを蔑さげすんで。

 だが心底から誰かを想い、守りたいずいう感情さえも経隓したこずのない者に、確かな䞻䜓性や実感をもっお他を尊重するこずができるようになるずは、到底思えない。せいぜい、自分を善人の郚類だず思いたいがために、共感力もないたた博愛䞻矩を謳うだけの、サむコパスじみた停善者になるのが関の山だ。

 そんな薄っぺらな連䞭の挔出する、圢ばかりの芪切や矩務的モラルなど、きっかけ䞀぀でいずも簡単に吹き飛んでしたうだろう。それこそ、䞖の䞭の秩序が倧きく厩れ、ファシストやテロリストたちが暩力を握るような状況におかれれば、䜕の考えもなしに長いものに巻かれ、平気で加担するに違いない。本心では、そうなるよりずっず以前から人様の存圚に重みを感じたこずなど䞀床もなかったのだ、ずいう浅はかな実態を、恥ずかしげもなくあらわにするのだ。

 それを思うず、人の䞖が平穏を保぀のに必芁䞍可欠な、䞍特定倚数の他者に察する『尊重』ずは、人䞀人ぞの深い愛を知っお初めお蟿り着くこずのできる、次段階の『盞フェヌズ』、぀たり愛の進化型ず蚀えるのかもしれない。


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