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不器用な男女の恋の物語

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僕のnoteより、恋の話セレクションです
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甘い男

甘い男

それなりに色々な人と付き合ってきた自負はあるけれど、一番の変態はと聞かれて真っ先に思い浮かぶのは元カレのコダマさんだった。性的な趣味趣向の話ではない。彼はほぼチョコレートしか食べないという極端な偏食家だった。

マッチングアプリで知り合ってノリが合って、さあ会いましょうとなって、行ったスタバでホットチョコレートを頼んだ時点で、珍しい人だなとは思った。そもそもアプリで知り合った男女が待ち合わせるのが

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おいしそうな月

おいしそうな月

「月が綺麗ですね」と僕は言った。「おいしそうだね」と君は言う。2人並んで夜を歩きながら、月の食べ方を考えた。

大きなおせんべいを食べるように、両手で持ってパキリとかじる。バリバリと音を立てて月を噛み砕いて飲み込む。まあるい月はかじる場所によって色んな味がする。こっちは甘いよ、こっちはしょっぱいね。2人であちこち食べ比べながら食べるのはとても楽しそうだ。

大きなおまんじゅうを食べるように、半分に

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おもひでボロボロ

おもひでボロボロ

体調はほぼ良くなったけど喉だけちょっとイガイガしていたので、薬局でヴィックスのど飴を買った。ひとつ舐めながらふと、10年以上前に付き合っていた子が、喉が弱いと言ってヴィックスを常備していたのを思い出した。長く生きていると、石を投げれば誰かの思い出に当たるようになるものだ。

ヴィックスの彼女はその中でも比較的思い出す方の人だ。彼女とはよく魚民に行っていたなぁと、魚民の前を通るたびに思い出す。魚民で

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秋はなんでもこい

秋はなんでもこい

朝外に出た時の空気が明らかに変わったなと思った。秋の空気。季節は恋のように唐突に終わり、新しい季節は恋のように突然やってくる。

今年の夏は灼けるように暑かった。暑くて苦しくてつらくて、でも心は浮ついてウキウキと出かけたくなる、それはまるで恋のようだった。僕は秋が好きだ。秋は恋人と過ごす時間のように穏やかで過ごしやすくて、秋は終わりかけの恋のようにアンニュイで物悲しく、時々台風がやってきて恋のよう

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我が青春の日々

我が青春の日々

ええ、あの頃の私にとって、マッチングアプリは全てでした。まあ当時はマッチングアプリだなんて洒落た呼び方じゃなくて、「出会い系」でしたけどね。あぁ、そう言われるとまだアプリじゃなくてサイトでしたね。まだスマートフォンもなくて、自宅のパソコンと、あとはガラケーでログインしてメッセージのやり取りをしていたものです。

きっかけはYahoo知恵袋だったんですよ。高校時代、私は進路に悩んでいましてね、家にあ

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if you...

if you...

君がこんがり焼けたトーストなら、
僕は甘いイチゴジャムになろう。
熱く焦げて乾いた君の肌を、
僕が甘く包んであげよう。

君が湯たんぽなら、
僕はあつあつの熱湯になろう。
君の中をいっぱいに満たして、
2人で世界を暖めてやろう。

君が正義のために戦うヒーローなら、
僕は世に仇なすヴィランになろう。
2人で永遠に戦い続ける物語は、
僕たちの蜜月の叙事詩となるだろう。

君が揖保乃糸なら、
僕はにん

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邂逅録或いは回顧(懐古)録

邂逅録或いは回顧(懐古)録

別れて以来半年ぶりに元カノと顔を合わせる機会があった。彼女は相変わらず可愛くて、俺は今でも全然この人が好きだなぁと思った。しかし俺は本当にこの可愛い生き物と付き合っていたのだろうか?たった半年前のことなのに、まるで夢の中の出来事のように記憶がぼんやりとしていて、彼女と付き合っていたということの現実味がまるでなかった。

『旧い仲間たちで集まった飲み会だった。こっそりと、「久しぶり。元気?」「うん」

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私たちの地雷マップ

私たちの地雷マップ

大学のサークルのひとつ上の先輩の森本さんと付き合い始めた。飲み会の帰り、駅前で2人になった所で告白されて、私はそれを受け入れた形になる。サークルの皆にも伝える必要があるとは考えているけれど、色々と込み合った事情があって難しい。

森本さんは私と付き合う前は4年の海野さんと半年ほど付き合っていた。海野さんはまだ森本さんに未練があるようで、そうなると私たちが付き合い始めたことを海野さんに知られるのはマ

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私の防衛戦

私の防衛戦

この人は私のことを好きかもしれない……最初にそう思ったのはいつだったろう。初めて2人で映画を観に行った帰り道だったかもしれない。

相手はとてもお世話になっている職場の先輩で、尊敬しているし素敵な人だし一緒にいて楽しいなとは思っていたが、残念ながら恋愛対象としては『ナシ』だった。とは言え仕事でいつも顔を合わせることにはなるわけだし、邪険にするわけにもいかない。いつしか私は、これ以上好きになられない

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最愛サミット

最愛サミット

昨夜はなかなか寝付けなくて、あっちへゴロゴロこっちへゴロゴロしていた時に変な夢を見た。歴代好きだった人たちが何人か出てきて、私のどういうところが好きだったの?と糾弾される夢だった。

歴代好きな人たちは登場するたびに、格闘ゲームのキャラクター紹介のように立ち絵がカットインされる。格闘ゲームだと、「パワー」「スピード」「テクニック」「タフネス」「メンタリティ」みたいな数値が五角形のグラフになって分か

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告白の歴史

告白の歴史

いわゆる愛の告白を初めて受けたのは高校2年の時だった。部活終わりに後輩に呼び出されて、誰もいない体育館の裏で、「好きです」と伝えられた。天にも昇る気持ちというのはあの時のような気持ちを言うのだろう。うれしくてうれしくて、夜お風呂に入りながら叫びたいような気持ちになったものだ。

2度目は大学1年の時、今度は先にこちらが「好きです」と伝えたあとに、「私も好きです」と返してくれた時だった。私の好きな人

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四天王の恋

四天王の恋

「ククク……ヤツがやられたようだな……」

「しかしヤツは四天王の中でも最弱……」

「だがいいやつだった」

「気の利くやつだった」

「笑顔が可愛いやつだった」

「……俺、実はヤツのことが好きだったんだ」

「え?お前も?」

「お前もってことはお前もか」

「俺たちみんなヤツのことが好きだったんだな」

「ていうことはお前もか」

「俺はみんなの気持ちに気づいていた」

「なん……だと?」

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振り返れば

振り返れば

僕はあなたに対して恋愛的な意味で好意を持っている、或いは性的な意味で下心を持っているけれどあなたが僕に対してそうではないことは重々承知して、何かのきっかけでそれが転じて関係性が発展することになればそりゃ嬉しいけれどそんなことは起こり得ないことも納得して、その上で恋愛感情や下心を適度に隠して友人や仕事上の仲間として好意的に振る舞うスキルにだけスキルポイントを割り振って生きてきたような人生でした。

はじまりの恩人

はじまりの恩人

今の自分があるのは妻のおかげだ。仕事のストレスで心を壊し、何も出来ずにボロボロになってしまった時、献身的にサポートをしてくれたのが妻だった。妻が居なかったら私はあのまま死んでいたに違いない。新しい職場にも慣れてきたある日の帰り道、妻と巡り合わせてくれた縁には心の底から感謝しなくてはならないなと思った。

妻との交際を後押ししてくれたのは前の職場の同僚のヨシダだった。ヨシダには感謝しなくてはならない

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