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邂逅録或いは回顧(懐古)録

別れて以来半年ぶりに元カノと顔を合わせる機会があった。彼女は相変わらず可愛くて、俺は今でも全然この人が好きだなぁと思った。しかし俺は本当にこの可愛い生き物と付き合っていたのだろうか?たった半年前のことなのに、まるで夢の中の出来事のように記憶がぼんやりとしていて、彼女と付き合っていたということの現実味がまるでなかった。

『旧い仲間たちで集まった飲み会だった。こっそりと、「久しぶり。元気?」「うん」と短い言葉を交わして、ちょっと離れた席にそれぞれ座った。みんなでバカな話をしながら笑う。愉快な飲み会だった。ジョッキ越しに時々彼女の顔を見た……』

と、フィクションをでっち上げて現実の出来事をエンタメに昇華をしようと試みる。が、どうも筆が重い。どうやら僕にとって、彼女の存在はフィクションとしてエンタメとして消費するにはまだ早いようだ。変なフィルターは通さずに思うことを書いてみることにしよう。

昔付き合っていた関係というのも不思議なものだなと思う。さんざん深い話をしたり、色々なところに一緒に出かけたり、手を繋いだりキスをしたりセックスをしたり……そういうことが当たり前だった関係から他人に戻る。とは言え完全に他人に戻るかと言うとそうでもなく、「昔付き合っていた」距離感の他人になる。ふとした折に交わす視線、会話の端々、ちょっとした距離感。そういう所に独特の距離感が見えたりする。それは時にもどかしく、時に心をザワつかせ、時に居心地が良かったりする。彼女と付き合っていた現実味がまるでないのは、2人にとって、「昔付き合っていた距離感の他人」という関係が最も最適な関係だということなのかもしれない。それは寂しいけれど、それは救いでもあるなと思う。

変なフィルターは通さずに思うことを書いてみようと言いつつも、プライバシー的なこととかなんやらかんやらに配慮した結果、当たり障りのない一般論みたいな駄文になってしまった。まあいい。ここは虚実が綯い交ぜに混ざった世界、ほろ苦い現実のエスプレッソにふわふわに泡立てた虚構のミルクを乗せてカプチーノにしてお届けしようじゃないか。砂糖を入れてぐるぐる掻き混ぜてぐっとひと口呷る。大きめのマグカップ越しに見える彼女の笑顔はキラキラと輝いて見えた。それは窓から差し込む明かりのせいなのか、僕のめにかかったピンク色のフィルターのせいなのか。どっちでもいい。カップにはまだ半分カプチーノが残っている。僕はまだ彼女を好きだと思っている一方で、新しい恋に一歩を踏み出そうともしている。

人生は苦くて甘い。

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